第10話 児玉さん

流行性角結膜炎とは、アデノウイルスというウィルスが原因で発症する感染症の1つだ。はやり目ともいわれ、発症すると眼の充血や目やに、ゴロゴロした痛みなどが生じる。感染力が強く、学校などでは学校保健安全法で出席停止するように指定もされている。


「児玉直樹さーん。おはようございます。」

児玉さんは、36歳。

スーツを着た会社員風の男性だった。

主訴は充血と目やに。

強い充血に粘膜にはぶつぶつが沢山出来ていた。


はやり目ね。


所見からはぼ間違いないと思われたが、念のためアデノチェックというウィルス検査を行った。麻酔の目薬を差して、綿棒で粘膜をこすってウィルスがいないか調べるのだ。


判定には5分かかるが、ウィルス量が多く強陽性の場合にはすぐに陽性と出ることもある。児玉さんは液を垂らした瞬間に陽性を示すピンクのラインが出た。強陽性だ。


「はやり目ですね。ドアノブからもうつるくらい感染力が強いので気を付けて下さい。タオルもわけて、手洗いはこまめに・・・。」

らなが注意事項を説明すると、児玉さんはとても悪い笑顔で尋ねてきた。

「机を触るとかしたら嫌な上司にもうつせますか?」

冗談なのか、本気なのか。

「うつせる可能性はありますけど、やらないでくださいね。」

らなは苦笑しながら答えた。


目薬を処方し、児玉さんは診察室を出て行った。

児玉さんのカルテを見ると、保険証が目に入った。


〇✖証券


駅前にある超有名証券会社だ。


なんかドラマでも、そんなのがあったな・・・。

いや、あれは銀行か。

お金を取り扱う仕事ってストレス多いのかしらね。

リアル〇沢直樹・・・。


その後、児玉さんの受診はなく結膜炎は問題なく治ったのだろう。


結局、上司にはうつしたのかしら?


永遠にわからない謎だが、はやり目の患者さんを診ると今でも時々思い出すのだった。



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