第8話 久山さん

次の患者さんを呼び入れる前に陽子が嬉しそうな顔で言った。

「先生。次、具志堅用太です。」

具志堅用太といえば、有名なボクサーだ。

「えっ!本物?」

ひまわり眼科は田舎でもないが都会でもなく、有名人が受診することなど皆無だった。

少し期待して陽子を見た。

「そんなわけないでしょう。」

そう言い残し、陽子は患者さんを呼び入れた。

「久山洋二さーん。おはようございます。」


入ってきた久山さんを見て吹きそうになった。

パンチパーマに黒々とした口ひげ。


なんてクオリティの高いそっくりさん!


久山さんは充血と目やにで受診され、結膜炎の目薬を処方した。



診察前の陽子の発言は時に危険なことがある。

少し前のことだ。

「先生、次スーパーマンです。」

「?」

入ってきたのは40代くらいの女性だった。

青いニットに赤いカーディガンをはおり、青いタイツに赤色のロングブーツをはいていたのだ。


なんでこのコーディネートになったんだろう・・・。

もしかしてスーパーマンのファンとか・・・?


マスクをしていたのでなんとかなったが、この時は笑いをこらえるのが大変だった。



時々現れるそっくりさんは日常の診療の潤いとなるのだった。

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