第三十話 サギ

 さすがに昨日の暑さに疲れたのか、いつもは早起きの義父母も起きたのは、8時前だった。いつも通り朝風呂に入って、青島を目指す事にした。旧道を通ってマイルスが子供の頃よく行った「こどもの国」遊園地の側を通って行った。「遊園地なのにジェットコースターや乗り物は何も無いんだ。だけど、それが何故か良かったんだ」とマイルスは静に言った。「らくだには乗れたけどね」とも言った。


 青島は海岸から少し離れた島で、満ち潮の時は島だが、引き潮のときは渡れる様になる。現在は弥生橋が架かっていて、橋の周りには鬼の洗濯板が並んで壮観だ。島の周りは白い砂で眩しいのだが「これは貝殻が砕けて出来た砂だそうだ」とマイルスが言った。そして島全体を覆うビロウ樹等の熱帯・亜熱帯植物が青々として、これが青島の名の由来だ。


 島を少し回ると外から見えない奥まった所に青島神社がある。熱帯・亜熱帯樹林に囲まれているのだが、これらの植物は自生している。流れ着いた実がこの青々とした島を作ったのだ。名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実一つ...「椰子の実・島崎藤村」の歌が想いだされる

静は本当に椰子の実やその他の植物が南の島から流れてきてこの島を作ったんだと思った。


 青島神社は山幸彦の彦火火出見命(ひこほほでみのみこと)と豊玉姫と塩筒大神(しおづづのおおきみ)の三神が祀られている。山幸彦と豊玉姫の話は鵜戸神宮の所で出てきた。塩筒大神は釣り針を失くした山幸彦にどうやったら釣り針が見つかるか教えてくれた人だ。おお!人生の道を示してくれた人だ!


 山幸彦のお父さんお母さんが彦火瓊瓊杵命(ひこほのににぎのみこと)と木花咲屋姫命(このはなさくやひめのみこと)だ。この神々もここで祭られている。

高千穂の峰に天孫降臨した神がこの瓊瓊杵命だ。


 瓊瓊杵命が美しい木花咲屋姫を貰う時、父の大山津見神(おおやまつみのかみ)は姉の磐長姫命(いわながひめのみこと)も一緒に差し出す。姉が醜いので送り返すと(面食いか?)、大山津見神は岩のように永い寿命を願って姉を、繁栄を願って妹を送ったのに、これで天孫の寿命は短いものとなるだろうと言った。Too bad!


 木花咲屋姫は一夜で子供を生むのだが、瓊瓊杵命が自分の子ではないのではないかと疑うと(天孫降臨の時代から不倫はあったのだろうか?)、身の潔白を証明するために、火のついた産屋で産み落とす。(どういう証明だ?)この時の子供が海幸彦、山幸彦になるのだ。


 青島の神社はまさに熱帯・亜熱帯樹林の島の中にある神社だ。江戸時代には入る事は許されなかった島だ。海に対する信仰、特に海洋から漂い来た神に対する信仰によって創祀されたと考えられている。社伝によれば、山幸海幸神話で、彦火々出見命(山幸彦)が海宮から帰還した際に、青島に宮を営なみ、その宮跡に命と豊玉姫、塩筒大神を祀ったのに始まると伝えられる。


 本殿のさらに奥には元宮という社があって、弥生式土器や獣骨などが出土したというから、昔から霊場であったのだろうか。まさにジャングルの中に小さい赤い祠がある。その先は隙間も無い程の密林だったが、残念ながら自然保護の為入って行けなかった。

青島神社の本殿から鳥居越しに真っ白い砂浜に鬼の洗濯板、その向こうに海が濃い蒼に広がっている。日差しは眩しく、マイルスはここが亜熱帯の島だと実感させられた。


 島からの帰り道に貝殻を売っているおじさんがいたので、静は暫く貝選びに夢中になってしまった。この島の物は落ちているものでも持ち帰れない決まりなので、ここで少し買っていくことにした。 

気が付くと二人はみんなに置いて行かれて誰もいなかった。慌てて向こう岸に渡ると、海風が吹いて小さな砂が足にバチバチと当たり痛くてたまらなかった。


 みんなは植物園の入り口で待っていた。植物園には暑くてさすがに誰もいなかったが、マンゴーやバナナ、珈琲やパイナップル、熱帯の花や果物が沢山で見たこともないものをいっぱい見る事が出来た。



 青島で冷汁と鰹の漬丼の昼食を済ませた後、駐車場のあるお土産屋さんでやっぱりお土産を買わされた。実はその前のお土産屋さんでも買ったのだが…

マイルスは青島ういろうを買った。子供の頃市内から自転車で遊びに来て、おみやげにこのういろうを買って帰った。子供のお小遣いで買える値段のおみやげはこれ位しか無かった。しかしあまりに毎回のういろうに、母はマイルスが青島に遊びに行くというと、「ういろうは買ってこなくていいよ」と言った。


 義父はお気に入りのゆず胡椒を買った。とにかく何にでもつけて食べているそうで、お土産分も含め大量に買っていた。


 帰り道に加江田渓谷と言う涼しい所があるので、入り口の所まで行ったが、義母が疲れて歩きたくないと言うのでホテルに引き返す事にした。やはり連日の35度を越す暑さの中での歩きは少しくたびれたようだ。


 みんなで転寝をした後お風呂に出かける事にした。部屋の玄関を出ると空は青く夏の入道雲だった。向こうに平和台が見える。みんなで月読のお風呂に入った。たっぷりかいた汗を流すと生き返るようだった。女性達のあいかわらずの長風呂に辺りはだんだん暗くなっていった。


 男性陣は先に上がっていて彼女らを待っていた。マイルスは彼女たちに会うといきなりサギに会ったと伝えた。静はびっくりしてどうしたのと聞くので、月読のお風呂の先に池があって、そこに白鷺がじっと立っていたと言った。

 詐欺でなく鷺たが、これにも静はびっくり。マイルスと義父がお風呂に入って動いても逃げようとしないのだ。フロントによるとすっかり人に慣れて池の畔に住み着いているのだそうだ。露天風呂に池に鷺、何とも絵に描いたような一時だった。

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