第二十八話 息継ぎはしないように歌う魔法

「洋楽の息継ぎがほとんど聴こえない、あるいは全く聴こえないのはご存知ですね。これは息継ぎをしていない(いわゆるハアーと吸っていない)のです」「しゃべる時息継ぎしながらしゃべりますか?殆どの人は息継ぎはやらないでしょう」


「歌は言葉ですよね。語る感覚で歌えば、息継ぎは無くなります。でも息を我慢しているわけではありません」「しゃべっている時の様に息は自然に入ってくるのです」


「J-Popで息継ぎがあれだけ大きいのは、発声に問題があるのです。ここが日本人の歌とアメリカ人の歌の大きな差になります」



「しゃべる時に大きく『はぁーー』と息継ぎする人はいませんよね。これは空気が自然に飛び込んで来るからです。息継ぎ忘れて大変なことになったと言う話も聞きませんね」


「息を吸うのは、伸ばして歌うのと連動しています。投げるように歌うことが出来れば、息も自然に入り、余韻を付ける余裕も出てくると言うものです」

「『息は取らない』のです」

 大輔は、先生の話が一段落して、やっとコーヒーに手が伸ばせると思った。先生の奥さんの入れるコーヒーは美味い。何でも特別に焙煎して貰った豆を、栃木から送ってもらっているらしい。東京中探してだめで、この豆に行き着いたのだと聞いた。

 先生もコーヒーを飲みながら、たまにはブルーマウンテンが飲みたいと思っていた。これはべらぼうに値段が高い。なかなかに手が出ないし、お気に入りの豆屋には置いてない。

 ジャマイカの有名なブルーマウンテンだ。この名前の山で取れるコーヒーは甘み、香り、酸味が最高のバランスで出来ている。値段も普通のコーヒーの4〜10倍だ。この山のてっぺんにはUCCの会社がある。もともとはジャマイカ総督の住まいだったとか。海抜が高いので、昼間は暑く夜は寒い気候が、上質のコーヒーを育てている。


 海抜が低くなると、そこはレインフォーレスト(熱帯雨林)だ。ジャマイカは緑と水の島、と言われてきた。豊かな緑がきれいな水をたたえて、豊かな川となり海に注ぐ。そのせいか珊瑚礁の内側の海は見事なエメラルドグリーンである。川下りの時すくって飲んだ川の水は、見事に透き通って、お日様にきらきらと輝いていた。


 ここはインディアンが住む南の楽園だった。それが奴隷貿易の中継地となり、海賊の住処となり、バナナ、砂糖、コーヒーなどの産物の植民地となった。

 ここは所有さえなければ、果物はたわわに実り、魚は取れ、裸で暮らせる楽園だったのだ。

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