(二)-15

 しかし刑事は話題を先週末に起きたテロに向けてきた。

「お前がやったんだろう」

 取調室でハゲ上がった頭髪を持つ高齢の刑事に悦子はそう言われた。月並みなセリフである上に証拠も何もない。そもそもケンカで捕まっただけなのだから、先週のテロは関係がなかった。

 その実行犯はその刑事の目の前にいたのではあるが、その当の本人がそんなことで口を割ることはないし、何よりも今回の逮捕は別件であったわけなので、話す義理も義務も責任も、そしてその気の欠片(かけら)も、悦子は微塵も持ち合わせていなかった。だから悦子は「テロについては何も知らない」とひたすら繰り返していた。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る