第26話 陛下への挨拶
お二人が腕を組んで入場してくる姿を思わず見つめてしまう…………なんて美しいの……ステファニー様は全身がヒルド様の色でコーディネートされていて、とても似合っているし、お二人とも幸せそうだわ――
ステファニー様はマーメイド型のドレスラインで水色を基調としているので、まさに人魚姫といったイメージがぴったりだった。
腕の辺りからバタフライスリーブがマントのように後ろが長くなっていて、沢山のビジューと刺繍が施されているのがとてもゴージャスだわ…………
カシュクールの胸元にスカート部分はラッフルのデザインで、ひだが真ん中に向かって幾重にも重なり、下にいくにつれてボリューム感が出ている。
胸元にはジルコンの宝飾品が……ヒルド様が贈ったと言っていたジュエリーね。
全身からヒルド様の愛を感じる。
こんなゴージャスなドレスはステファニー様しか着こなす事は出来ないわ……ヒルド様が贈ったのかしら…………だとしたらステファニー様の素晴らしさを本当によく分かっている証ね。
女神そのものだわ――――
「ロザリア、テオドール。久しぶりね!」
「ステファニー様、ヒルド様……お久しぶりです!」
お二人でさっそく挨拶に来てくれて、ステファニー様が笑顔で声をかけてくれた。
「ロザリアもとても綺麗だよ。すっごくテオドールの色が出ているね」
「うるさい、お前に言われたくないぞ」
「………………ステファニー、綺麗でしょ?」
「…………そうだな」
テオ様は二人を眩しそうに見ていた。昔からのお付き合いの二人が幸せそうで、テオ様も嬉しいのね……
「ステファニー様、とってもお綺麗です。女神かと思いました……」
「……ふふつありがとう。ヒルドがドレスを贈らせてくれってきかないから」
「そこは譲れないよ」
「ふふっそうですわね、こんなにステファニー様に似合うドレスを用意されたなんて、ヒルド様凄いです!」
私は興奮気味にヒルド様に言うと、ヒルド様は得意になってステファニー様の素晴らしさを沢山挙げ始める。それがどんどん止まらなくなってしまって、ステファニー様に無理矢理止められてしまうという事態になった。
テオ様は呆れて笑っていて、私もお二人らしくて笑ってしまう――
「この舞踏会が終わったら婚約を発表する予定なんだ」
「……もう両家にも挨拶はしてあるの」
「わぁ…………素敵です……おめでとうございます!」
もう婚約のお話まで出ているのね!良かった…………テオ様も嬉しそう。私たちがそんな話をしていると、王族の方が二階席のところに現れた。国王陛下、王妃殿下、王太子殿下、王女殿下と次々と入ってきて、貴族たちは話すのを止めて、陛下の方を向いている。
そして爵位が上位の方々から王族の元へ向かい、挨拶をしていく…………私もテオ様と一緒に王族の方々に挨拶をする為に階段を上って行き、カテーシーをして挨拶をしていった。陛下は私をジッと見つめている。
「お初にお目にかかります、ロザリア・ベルンシュタットにございます。」
「うむ。元気にやっているそうだな。ベルンシュタットでの生活は快適かな?」
「はい、私にはもったいないくらい素晴らしい生活をさせていただいております。それも全て、陛下が旦那様との結婚を許可してくださったからです。陛下の寛大なお心遣いに感謝致します」
私は精一杯の笑顔で感謝の気持ちを伝えた。陛下は目を見開いた後、表情を和らげて微笑みながら「良き夫に巡り合えて良かった。今宵は楽しむが良い」とお言葉をかけてくださった。
「ロザリア、行こう……」
テオ様が手を差し出してくださって、私はその手を取り、階段を下りる。テオ様は終始穏やかな顔をされて、挨拶を終えた私を労ってくれた。
「緊張しただろう?頑張ったね」
「……はい。陛下にきちんと感謝の気持ちを伝える事が出来て、安心しました。今の私があるのもテオ様と、陛下の温情があったからこそですから……」
リンデンバーグに沢山の民を殺された恨みを持っている者も少なからずいると思う。陛下だってリンデンバーグの人間に良い気持ちは持っていないでしょうし……しかも私は王族。そんな人間を国に迎え入れるというのは、とても抵抗があったはずだわ。
それでも許可してくれたのは、テオ様を信頼してなのかどうなのかは分からないけど…………だから私はどうしてもお礼を言いたかった。
今日それが出来て、胸の痞えが少し取れた気がするわ――
「ロザリア……一人で抱え込まないでくれ。私たちは夫婦なのだから……君があの国の人間だったとしても、私はそれを一緒に背負っていく覚悟で君を妻にと望んだのだから。むしろ私にも背負わせてほしい」
「テオ様、あなたというお方は……私は甘やかされてばかりですね。そんなに甘やかしては我が儘になってしまいます」
「……もっと甘えてくれて構わないのだけどね」
そう言ってウィンクするテオ様を見て、私はつい声を出して笑ってしまった。そんな私たちのやり取りを見て、周りがザワザワしている事には全く気付いていなかった。
「あの冥王と呼ばれるお方が笑っている…………」「ウィンクされていたぞ……」「…………素敵……」
その日の舞踏会で、ベルンシュタット辺境伯が敵国から嫁いできた妻を溺愛している事が貴族中に知れ渡ったのだった。
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