第二章

第16話 いつもの日常



 その夜はテオ様と沢山語らい合い、二人とも仲直りして安心したのか眠気が襲ってきて、寝落ちするように二人で眠りについた。久しぶりにテオ様と眠れる――――


 私は喜びに浸りながら寝落ちていった。




 そして朝目覚めると…………今度はテオ様が私をぎゅうと抱きしめて眠っていたのだった。私はテオ様の言っていた意味が分かったような気がする…………確かに色んな意味で眠れないかもしれないわ――



 目覚めたテオ様は悪びれる素振りもなく、起きなければならない時間まで、ずっと私を抱き枕のようにぎゅうぎゅうしていた。




 その日からはテオ様とはまた一緒のベッドに眠るようになり、幸せ過ぎて寝すぎなところにエリーナが入ってきて、二人とも起こされる……というような平和な日常が戻ってきた。

 



 ~・~・~・~




 「お二人ともだらけ過ぎです!あの日から7日は経ちましたのに朝はずっとダラダラしておりますし、ロザリア様も庭仕事はよろしいのですか?」



 朝食の後、いつものようにテオ様の膝に乗せられてお茶をしながらゆっくりしていると、エリーナに言われてハッと気づいた…………そう言えばそろそろ菜園に種を蒔かなければ。



 「そう言えばレナルドのところにしばらく行ってなかったわね。そろそろ種蒔きの時期だったわ!」


 「レナルド?レナルドって呼んでいるのかい?」



 「?はい、そう呼んでほしいと言われまして……あ、いけませんでしたか?」



 私が慌ててそう聞き返すと「いや、驚いただけだよ」と言ってテオ様はニッコリ笑ってくれた。良かった、何か間違ってしまったのかと思って――



 「じゃあこの後、レナルドのところに行って種蒔きをしてきます!」


 「……………………うん、行っておいで……」



 「?」

 


 テオ様のお顔が笑っているのだけど、笑っていないような…………でも私と目が合うと、いつものような優しい笑顔を向けてくれて、相変わらず美しくて優しい笑顔に見惚れてしまう。


 きっとテオ様は沢山の女性の心を掴んでいたに違いないわね。もうすぐ16歳になるし、社交界デビューをしたらそういった女性たちが寄ってくるところを見なければならないと思うと…………私に耐えられるかしら――――



 私は、そんな邪念を振り払うかのように庭仕事に向かった。



 何故かテオ様も一緒に――――




 「…………どうして旦那様がご一緒にいらっしゃるのです?」



 レナルドが素朴な疑問を投げかけると「私が来たら何か不都合でも?妻が心配で一緒に来ただけだが?」とテオ様が返し、何やら不穏な空気なのですが…………

 


 「……はぁ………………特に不都合などありませんよ~よろしくお願いします」


 「………………」



 何やら不穏です!空気が良くないわ…………



 「じゃあ、レナルド、菜園の方に種を蒔きましょう!」



 この不穏な空気を取り払うように菜園に移動して、種を蒔く事にしましょう。



 「一番簡単なのは種イモですね。こっちの菜っ葉類は生育しやすいですが、あまり高さがないので奥には作らない方が……」


 「日当たりが悪くなってしまうものね。じゃあ、この丈が高くなりそうな種類を奥に植えて、手前に葉物にしましょうか」



 「そうですね。奥様は頭が良くて教えがいがありますね~」



 レナルドに褒められて、私は嬉しくなってしまった…………あまり理解力のある女性って嫌がられたりするのだけど、レナルドは賢いって褒めてくれる。



 「私の妻が優秀なのは当たり前だ」



 そこへテオ様が憮然とした表情でやって来て、後ろから抱き着かれてしまう…………今とても恥ずかしい事を言われた気がするのだけど――――



 「いちいち反応されるととてもやりにくいのですが」


 「…………………………」



 二人は睨み合っている。城主にここまで言えるレナルドも凄いけど……レナルドとテオ様は相性がよくないのかしら。そこへ一人の女性の明るい声が響き渡った。



 「テオドール!こんなところにいたのね!探しても見つからなかったから、どこにいるのかと…………」


 「ステファニー?今日は来るとは聞いていないが……何かあったか?」



 あのお方は…………この前執務室にいた、ステファニー・ドゥカーレ伯爵令嬢だわ。



 「あの…………」


 「ああ、ロザリアにはこの前話したけど紹介はしていなかったね。私の昔馴染みで伯爵家のステファニー・ドゥカーレ嬢だ」



 「初めまして、テオドール様の妻のロザリアと申します。ロザリアとお呼びください」



 緊張しながらも笑顔で挨拶をしてみた……するとステファニー様は私の両手を握り、目を輝かせて挨拶してきた。



 「お初にお目にかかります、ステファニーといいます。呼び捨ててくださって構いませんわ。奥様、可愛らしいお方…………なぜこのようにお可愛らしい方が、こんなクマのような大男の奥様なのかしら!テオドールは優しくしてくれています?」


 「……ステファニー…………クマはないだろう」



 ステファニー様がクマと言っていて、私もクマさんみたいで可愛いと思った事があるのを思い出して、クスッと笑ってしまう。



 「ふふっ私もクマさんのようだと思った事はあります。あ、でも悪い意味ではなく、とても可愛らしいと思って……」



 思わずテオ様の事を可愛らしいと言ってしまった。恥ずかしい――――



 「………………ロザリアは、とても可愛らしい方ね。これではテオドールもイチコロだわ…………」


 「…………分かるだろう………………いつもこうなんだ……」



 テオ様とステファニー様は顔を片手で覆いながら悶絶しているようで分かり合っているような…………とりあえず仲が良いという事は分かった気がする。


 

 「……それで今日は何の用で来たのだ?」


 「つれないわね、今日はあなたの奥様と親睦を深めにきたのよ。前回来た時にとっても迷惑をかけてしまったし、お詫びも兼ねて、ね」



 そう言って私にウィンクをしてくるステファニー様は、とてもチャーミングな方で、私もお近づきになりたいと思わせてくれる方だった。

 


 

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