第14話 想い人 ~テオドールSide~


 


 「ロザリア様!」


 「奥様!」



 外から突然ロザリアを呼ぶ叫び声が聞こえる。なんだ?何かあったのか?私はステファニーと顔を見合わせてから、慌てて執務室を飛び出すと、廊下にはロザリア付きの侍女のエリーナと庭師のレナルドがいた。



 「どうした?ロザリアに何かあったのか?!」



 私が二人に慌てて聞くと、二人から明らかに敵意を感じる視線を浴びる。



 「………………旦那様、今のお話はどういう事でしょうか?」



 レナルドがおかしな事を聞いてくる。さっきの話?何の事だ?私がよく分からないという表情をしていると、ロザリア付きの侍女が怒りをぶつけてきた。




 「…………旦那様、ご無礼を承知でご意見させていただきます……先ほど、ロザリア様は旦那様にお聞きしたい事がございまして、こちらの執務室にいらしていました。そこで扉の中からお二人の会話が聞こえてきたのです」



 「ロザリアが?…………………………さっきの話を…………」



 「ロザリア様は旦那様がご自分との生活に耐えていると…………距離を置いているという事を聞いて涙を…………あなた様もロザリア様を蔑ろになさるのですか?ご自分からご所望しておきながら…………旦那様がロザリア様の扱いにお困りでしたら、一緒に出て行きますので!このような場所にロザリア様を置いておくなど…………」


 


 エリーナの言葉を最後まで聞いている余裕は私にはなかった。私とステファニーの話を聞いてロザリアが涙していた…………私は頭が真っ白になっていた。


 


 

 ――私は皆を置いてロザリアを探す為に飛び出した――――――



 

 ~・~・~・~




 散々探し回ったがロザリアはどこにも見当たらない。



 あまりにも見つからないから、城下町まで見に行ったが、エリーナに『城下町には行っていないと思います。ロザリア様はここを出た事がないですし、門番は見かけていないと言っていましたし…………リンデンバーグでは昔からお辛い事があると、暗い場所に隠れるのです……』という指摘をされて、暗い場所を探す事にした。


 


 そこで彼女の哀れなリンデンバーグでの生活を聞く事となる。


 

 

 『ロザリア様は暗くて狭い場所が一番落ち着くんです。そういう場所にはご兄弟はロザリア様を追って来ないからです。いじめられたり痛めつけられる心配がなくなるから、日が暮れて真っ暗になるまでずっとそこにいる事もありました…………いつも私が見つけて……』



 

 私は暗くて狭い場所を必死に探し続け……もうほとんど使われていない食料貯蔵庫にたどり着く。




 全く物音はしない……人の気配もしないな。そっと中に入り、隅を丁寧に探すと…………高く積み上がった粉の袋と壁の隙間に膝を抱えて座り、眠ってしまったロザリアを見つけた。



 暗がりであまり見えない状況だったが、彼女の髪だけが僅かな光にキラキラと輝いていた。こんなところに………………それと同時に彼女をそれほど傷つけてしまったという事に後悔の念が押し寄せてくる。



 ロザリアの目には泣いた痕が付いていて、私はロザリアの体を抱きしめながら、何度も彼女の名前を呼んだ。



 

 「ロザリア…………ロザリア………………」




 ~・~・~・~




 ロザリアを見つけて彼女を寝室のベッドまで運び、そっと寝かせる――――泣き疲れたのかぐっすり眠っているな。



 「ロザリア……」


 

 私はロザリアの前髪を撫でながら、今日の事を悔いていた。


 そこへステファニーが入ってきて、今日の事を謝罪し始める。



 「……お姫様が見付かって、良かったわね…………まさか話を聞かれるとは思わなかったわ。私が来たせいでややこしい事になってしまって、ごめんなさい」


 「いや、君のせいではない。私が不甲斐ないせいでロザリアにも君にも申し訳ない事をしてしまった…………」



 「……それほど大事なら、きちんと相手に悩みをぶつけた方がいいと思うわ。彼女もあなたの口から聞きたかったのではなくて?」



 ステファニーの言う事はもっともだ、私は話す相手を間違えたのだ。そしてその事で一番大切な人を酷く傷つけてしまったのだ――――



 「ありがとう、そうするよ。これ以上すれ違うのは嫌だし、彼女を失う事は耐えられない」


 「……だから、それをちゃんとお姫様に伝えるのよ!あなたがそんなだから…………まぁいいわ。戦場では敵なしの辺境伯様がお姫様に四苦八苦する姿を見られたって、あのお方に伝えておいてあげる」



 「…………からかうな。アイツに知られたら、また弄られるな……」



 「覚悟しておく事ね。それと私にはあのお方がいるのだから……それもちゃんとお姫様に伝えておいて。こんな事であなたの大切な人に嫌われるのは嫌よ」



 

 私の中途半端な態度が様々な人に悪影響を与えてしまっていた。ロザリアにもきちんと私の考えている事を伝えなくては――――


 


 

 私とステファニーは幼い頃に親が決めた婚約者だったが、私もステファニーもそういう気持ちはなく、でも対外的にそうしておいた方が面倒な事を回避出来るし便利だった事もあって、婚約者のままにしていた。しかし、ステファニーに想い人が出来、私も結婚に興味がなかったのでお互いの為に婚約を解消し、今に至る。



 周りでは私たちの婚約解消を悲劇的に言う者もいるが、お互いにそういう気持ちがないのだからどうでもいいと放っておいた。



 ステファニーは今もずっとその人物を想い続けている。それは私の親友で、アイツは気付いているのか気付いていないのか、のらりくらりしていた。

 

 そういう意味でお互い戦友と言った感じで、私がデボンの森で運命の出会いをした事を話した時はとても喜んでくれた。



 今回もロザリアに対してモタモタしている私の背中を押しに来てくれただけで、彼女にとっても飛び火のようなもの、という話だった。




 「では私は退散するわ。しっかりやってね」


 「…………ああ……」




 そういってステファニーは去っていった………………それと同時に薄っすらとロザリアの目が開きかけていて、私はロザリアの方を向き直り、頬に手を置いて彼女に呼びかける――――




 「……ロザリア………………目が覚めたようだね……」


 「テオ……ドール…………さま?」



 ロザリアは私の存在を確認し、少し寝ぼけているのか、私の手に擦り寄る姿を見せて……………………私はたまらず彼女を抱きしめた――



 

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