第43話 田尾沙也加の遺書

 この遺書に私の罪を全て告白します。


 私、田尾沙也加は、大切な家族である母陽子を殺害し、妹の夏希には一生の傷である暴力行為を行いました。

 ことの発端は2023年2月21火曜日午後7時半頃です。妹から突然父が倒れたと連絡が入りました。私は車の免許を持っておらず車もなく、近くでタクシーを拾いすぐに駆けつけました。私が実家に着いた頃、家の前には救急車が停まっていて、父が運び出されている最中でした。運び出されている父は、顔は青白くぐったりとしている様子でした。私と夏希は、そんな父の乗った救急車に乗って一緒に病院へ付き添いました。母は車を運転し後から来ました。病院に着くと、父はいきなり私たちの入れない部屋へと入って行きました。看護師さんに止められ、私たちは母が来るのを待っていました。しばらくすると、息を切らした母が病院に到着し、父を待っている間に何があったのか2人から詳しく聞いていました。母の話によると、缶ビールに口をつけた途端に倒れたと。それからは、母は119番に連絡を入れて、夏希は私に連絡を入れたそうです。苦しそうにしている父に何もできなかった、と話していました。私たちは父が帰って来るのを祈っていました。ですが、父が戻って来ることはありませんでした。死因は、急性アルコール中毒でした。母の話によるとお酒を一口しか口をつけていないのに急性アルコール中毒になるのかと疑問が残りました。

 

 父が亡くなったことにより傷心した母は、父の友人の紹介で弁護士を雇い遺品の整理をしていました。次の日の早朝に弁護士の男は父の友人だと名乗る男を連れてきました。私は荷物を整理するふりをして、話を盗み聞きしていました。すると、父の友人だと名乗る男は寄付が足りてないと言いました。母は父が亡くなってから宗教団体に多額の寄付をしていました。話によると私の学費までも手を出していたそう。ただ、私が稼げば何とかなるからその時点では怒る気にはなりませんでした。ですが、母は弁護士に唆されて夏希の学費にまで手をつけていました。私はそんな母を見て気が狂いそうでした。このままではまずいと思い、家に予備のスマホを録音状態にして置いて、私は父の友人と名乗る男と共にアパートへ向かいました。まさか、朝早くだったのに隣の人と会うとは思ってもいませんでした。大学へ向かうふりをして、またアパートへ戻りました。一通りの荷物の整理を終えて、私はまた家へと帰りました。その夜もう少し整理をしたいと、父の友人に話し、またアパートへ送ってもらいました。1人になったので昼間のうちに録音していた音声を聞いていました。すると弁護士は、母を唆し遺産までも寄付するように言っていたのです。何か手を打たなければと私は焦っていました。次の日も同じように家とアパートを行き来し、どうするべきか作戦を考えていました。ですが、何も考えることはできませんでした。

 

 アパートの方達に引っ越すことを伝えて家に帰った時に、母にどうして多額の寄付をしているのか尋ねました。すると、母は言いました。寄付をすれば父が帰って来るのだと。預金通帳を確認すると、母の通帳にはお金はほとんど入っていませんでした。せめて夏希が生活できるだけのお金があれば良かったのですが、預金通帳にはどれもお金は入っていませんでした。父の友人を名乗る男が母と親しげに話しているのを見ていたので、こいつが全ての元凶なのだと悟りました。父は死んで帰ってくることはないというのに母は寄付をやめるつもりはありませんでした。母とはこの時に初めて大きな喧嘩をしました。今までのストレスが全て爆発した気分でした。興奮しすぎて母を殴っていた記憶はありません。気がつくと、口から血を吐いている母が床に倒れていました。その時何があったのか理解をしました。それをたまたま買い物から帰ってきた夏希に見られていました。夏希にはこの真実は話せないと思い、夏希に家を出ていくように言いました。これから先、私たちの遺産までも手をつける可能性があるため、何度も出ていくように言いました。ですが、夏希は言うことを聞いてくれませんでした。なので、私は妹の夏希にまで暴力を振るい家から無理やり追い出しました。この時のことは今でも忘れられません。夏希の泣き喚く姿が今でも脳裏に焼き付いています。

 幸いにもその日は、弁護士も父の友人もどちらもいなく、2人は次の日になっても夏希がいないことは気づいていませんでした。その次の日は弁護士の男が1人でやって来ました。男は私に包丁を使って脅してきました。遺産の相続を放棄しろという話でした。弁護士の男に胸を触られ首を舐められました。その時にこいつは殺そうと考えました。脅しに屈して従順なふりをしていると、弁護士の男は逆らわないと踏んだのか机に包丁を置きました。チャンスだと思い、包丁を奪い私に背を向けている時に背後から刺しました。刺したままより何度も抜いた方が死ぬ確率が高いのを知っていたので、奪われないように気をつけながら何度も何度も弁護士の男に包丁を刺しました。何度刺したのかは記憶がないありません。弁護士の男遺体はお風呂場で小さくして裏山に捨てました。母には現場を見られていましたが、怒ることも悲鳴を上げることもありませんでした。この場所に意識がないよでした。それから母はろくに食事も取らなくなりました。父の友人を名乗る男が、弁護士の男と連絡が取れないと何度も押しかけて来ましたが、知らないと追い返しました。ですが、何度も何度も家に来るので殺してやろうかと思っていたら、ある男が私の実家にやって来ました。高校の同級生の男でした。家の中には入れたくなかったので、初めは追い返していましたが、弁護士のことを見られていたのか何故か知っていました。仕方なく中へ入れると、今後の私たちにことについて話してくれました。どこか別の場所に行くことと、それまでの逃亡資金の援助を出してくれるという話でした。今の私たちには嬉しすぎる申し出でしたが、私は断りました。彼は昔から胡散臭いやつだと思っていたからです。彼の言葉は何1つ信用できませんでした。そんな彼らから逃げるために裏山の昔、防空壕として使われていた所を拠点にすることに決めました。ですが3月初めはまだ寒くて母はどんどん衰弱していきました。そんな時、ある女が私たちのもとを訪れました。その女のおかげで母は何とか一命を取り留めて私と母の防空壕での生活が始まりました。そんな生活を2年ほど続けていたある日、母は水、水と言いながら意識を失いました。歌恋に連絡しすぐさま来てもらいましたが、母はもう病院に行かないと手をつけられないと言われました。その時に私は母を諦めようそう思いました。歌恋には帰ってもらい、その後に自殺用に予め用意していたロープを使って母の首を絞めました。それは2024年8月16日のことでした。最後に竜也に一言伝えたくて8月17日、去年は話しかけることができなかった夏祭りに向かいました。ここで竜也と会えるとは思っていませんでしたが、竜也は私を駅の前で待っていました。最後に竜也に直接謝りたかった。でもできませんでした。竜也がスマホを落としたのを見て、それを拾ってスマホカバーの裏にメモを入れました。このスマホを拾ったのが私だと気がつくように暗証番号を竜也の誕生日に変えました。まさか、ずっと私たちの付き合った日にしているとは思ってもいませんでした。

 竜也本当にありがとう。こんな結末を竜也は望んでいなかったと思うけど、もう私は後戻りはできない。母を殺した罪と妹に暴力を振るった罪は消えることはない。だから自ら消えることにした。竜也ごめん。最後にそう言いたかった。2023年の夏祭り。歌恋に言われて会いに行ったけど真琴と仲良く話している竜也を見て私嫉妬してしまった。話しかけられなかった。ごめん。もし竜也や真琴にこのことを話せたらもっと変わっていたのかもしれないけど、親友と彼氏だから巻き込めなかった。ごめん。

 最後に1つだけ、竜也、真琴、達川君、夏希のことをよろしく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る