2-9.

 ケルベロス召喚してから、数日が経った。3匹は基本的に私の指示に従えそうなので、街に連れていってもいいという判断になった。なので召喚した翌日は、3匹を引き連れて街へ帰った。ちなみに、私のステータスカードには「【従魔】ケルベロス(黒曜・真珠・柘榴)」という表示が追加された。従魔が増えるとステータスカードに表示される仕組みらしい。この従魔の欄は、非表示に出来ないので、ステータスカードを人に見せたらテイマーってすぐバレるんだそうだ。

 あとは泊まっている宿だが、流石は高級宿だった。縮小化してきちんと支配している従魔なら、部屋に連れ込んでOKと許可を貰えた。よって、私とリオ様が眠るダブルベッドには、3匹の仔犬も追加された。朝起きると、大抵1匹は床に落ちて寝ているんだけど、何でだろうね? ちなみに、柘榴が落ちていることが多い。


 ケルベロスは、魔物だ。よって、3匹も魔法が使える。ただ、3匹に分かれていると使える属性も別れてしまうらしい。黒曜が闇属性、真珠が水属性、柘榴が火属性のボールを口から吐く。あとは、鋭い爪だったり尖った牙で攻撃するようだ。


「あー、ザクロは素材をダメにしちゃうねぇ。もっと狙いを定めて、頭を打つんだよ。そしたら、食べるところが残るからね」

「火属性は扱いが難しいですからね。殲滅力も高いのですが」


 試しに3匹をヤママバトの群れにけしかけてみたら、見事に綺麗な死体がひとつ、胸元が吹っ飛んでる死体がひとつ、全身黒こげの死体がみっつ。更には、魔法だけでなく引っ搔き傷や噛み跡がある死体が、約数十体。それぞれ、真珠、黒曜、柘榴、あとは誰がやったのか分からない仕業である。たぶん真珠は水死体にしたのだろう、傷ひとつない綺麗なヤママバトの死体だった。けれど、3人の関心は別のところにあったらしい。

 ちなみに、3匹が築いたヤママバトの死体は、3人が解体して食べられる場所のみ取り出したものを、私のアイテムボックスに仕舞っている。こんなにたくさんは、すぐには食べきれないからね。ちょっと3匹が食べたそうにしていたから、少しだけ生肉のままあげたけど。


「こいつら、戦闘能力はあるけど、まだまだ荒いな。図鑑に載っているケルベロスより何もかも足りてない。幼体だろう」

「ケルベロスは番犬らしいですが、この子達はまだまだ遊びたい盛りですね。幼体というのも頷けます」

「幼体だとしたら、大きくなったら可愛さなくなっちゃうのかな。それは嫌だなぁ、縮小化スキルがあるから小さくはなるけどさ」


 きっとこの子達はケルベロスの幼体だろう、と結論付けられたが、正解は分からない。なんせ正解のケルベロスの成体は、魔大陸という交流の少ない土地でしか生息していないから。真実は闇の中である。

 ちなみに、仮にこの子達が幼体だったとして、成体からお子さんを召喚して盗んだことになるんだろうか? という疑問には、「たぶん大丈夫」という答えを貰った。幼体が召喚魔法陣に現れることはあるが、あくまで自立できる年齢の魔物しか現れない。幼体を召喚して、可哀想だから群れがいるであろう場所まで連れていった人もいたようだが、その成体に襲い掛かられた記録はないとされているらしい。


 ところで、甘いものが大好きな3匹であるが、これは前世の神話に基づいている。その他に、ケルベロスという神話生物ならではのエピソードは、と試してみたら成功した。それは何かと言えば、歌である。

 最初、3匹はなかなか寝ようとしなかった。リオ様達いわく、初日の野営の時は3匹のうち1匹は必ず起きていたらしい。でも、宿で寝るとなった時、1匹でも起きているとうるさい。そこで、子守唄を歌ってみたら、3匹ともすやすやーっと寝てしまった、という訳である。子守唄が有効だったのか、歌という音楽を聞かせたのがよかったのか、何が正解か分からないけれど微笑ましくなったエピソードだ。


 そんなわけで、我々の中に3匹が加わったわけだが、当初の目的は私の機動力の補佐の子か護衛能力のある子である。3匹はシベリアンハスキーの仔犬みたいにコロコロしているし、どちらも満たさないのでは? となったのだが、ラディ様が3匹を躾けたら出来てしまった。何がって、騎乗が、である。


「馬とは骨格が違うので少し難しいですが、比較的容易に乗ることが出来そうです。鞍をつければ、マリア様でもこの子達に乗れるのでは?」


 リオ様とアマデオ様も、ラディ様が言うならそうなんじゃない? と納得してしまった。いやいや、ちょっと待って欲しい。シベリアンハスキーみたいな見た目のワンちゃんに、乗るって虐待みたいだ。でも、3匹は元々は体格がいい。子犬みたいに小さくなってわふわふ言っているが、別に馬サイズにもなれる。その馬サイズでラディ様が乗ったら、騎乗できちゃった、という訳で無理ではないらしい。

 ラディ様は、乗馬の名手。アマデオ様の乗馬の手解きをしたのも、ラディ様らしい。そのラディ様いわく、ちょっと躾ければちゃんと人を背中に乗せることを意識した走りをさせることが出来るらしい。いくら見た目が子犬で可愛いからって、魔物は魔物ということか。そもそも、子犬サイズなのは縮小化スキルを使っているだけだしね。うーん、ファンタジー。

 本当にこの子達の背中に乗るかはともかくとして、騎乗するための馬具がないと、初心者の私はすぐに振り落とされてしまう。だから、ラディ様が3匹を騎乗できるように躾けてくださることになった。3匹ともなのかと問えば、1匹に絞ると拗ねるかもしれないし、他の人を乗せられたらもっと便利だから、という答えが返ってきた。確かに言われて見ればその通りなので、ラディ様にまるっとお願いした。


 今日も今日とて、魔法の練習のために草原にきていた。私が魔法を練習している間、私や的の近くに来ないように指示したら、私の後ろでわふわふ遊んでいる。ちょっと気になるけど、魔法の扱いが向上しないと、3人のお仕事の邪魔になってしまう。なるべく早く、役立てるようにならねば、と気合を入れてライトボールを放っていたら、リオ様に話しかけられた。


「だいぶ上達したな、俺のステラ。これなら、ホーンラビット程度なら楽に倒せるだろう」

「本当ですか!」

「ああ。ライトボールもダークボールも安定してきたし、次の呪文に移るか? 少し早いが、光属性は治癒魔法のヒールを訓練してもいいかもしれない。怪我人となると、神殿に行くか」


 何でもヒールを訓練するのなら、やっぱり怪我に対して実際にかける方が上達が早い、と言われているらしい。街の病院はといえば、だいたいが神殿が担っているらしい。神殿に治癒院がくっついていて、街の人は怪我や病気をしたらそこに行く。治癒院には治癒魔法のできる光属性の魔法士だけでなく、薬師もいるらしい。そもそも、光属性を持つ人が少ないから、薬師の方が割合は大きいそうだ。

 ……リオ様、光属性持ってるよね? しかもランク高かった気がするような、と胡乱気な目をしてしまったせいか、リオ様はまたステータスカードを見せてくれた。光属性、ランク7だった。そんな簡単にぽんぽんランクが上がらないことを考えれば、十分脅威な数字だ。どれだけ光属性を磨いてきたというのか。他の属性も、ランク高かったし。


 それはともかく。治癒魔法の向上は、怪我人相手にする方が効率がいい。トゥルスの街にも神殿はあるから、交渉してみてくれるらしい。流れの光属性持ちが、小銭稼ぎに治癒院で働くことは珍しくないので、たぶん大丈夫だろうとのこと。


「いざとなったら俺がフォローするから、俺のステラは気にせず練習すればいい」

「ありがとうございます、心強いです」

「何の話ー?」

「治癒院でヒールの訓練をするという話だ」


 両腕いっぱいにヤママバトを抱え、3匹を引き連れたアマデオ様が現れた。どうやら3匹の訓練ついでにヤママバトを狩ってきたらしい。お肉、アイテムボックスに入っているのを食べきっていないのに、追加で狩ってきたようだ。腐らないからいいけど、お肉三昧な生活が出来そうだ。3匹は喜びそうだな、と自分の考えに笑いながら、帰ってきてじゃれてくる3匹を撫でた。

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