お嬢様ヤンキー剣々崎薫子の日常

空峯千代

第1話「生徒会長の剣々崎薫子ですわ!」

 都内某所にある文武両道を掲げた上流階級専門学校「紅薔薇学園べにばらがくえん」。

 屈指のお嬢様率を誇る学園において頂点に立つ存在、その名も剣々崎薫子つるぎがさきかおるこは正真正銘の不良ヤンキーだった。






「ごめん遊ばせ!!!!!」


 桜の舞う季節。

 新入生の初々しい顔が並ぶ体育館。

 私は慣れない制服にもじもじしながらも、入学式の進行を待った。


 それぞれが緊張した面持ちでいると、ヒールの音が響き渡る。

 足音の主はスカートの裾を翻して、マイクに向かい話し始めた。


「みなさん、ご機嫌よう。私がこの学園の生徒会長、剣々崎薫子ですわ!!!」


 颯爽とステージに現れた女生徒は、堂々と名乗りをあげる。

 彼女があまりにも自信満々なものだから、ネガティブが服を着て歩いているような私はビックリしてしまう。


「まずは入学おめでとうございます。あなたたちを紅薔薇学園の生徒として歓迎いたしますわ。そして.......」


 彼女のツインテールがゆらりと揺れた。


「この学園に入学した以上、あなたたちには強く、気高く、そして美しい淑女レディになっていただきますわ!!!」

  

 体育館は静まり返った。

 彼女の言葉にリアクションを決めかねているのか、誰も何も反応しない。

 しかし、彼女は私たちの沈黙を意に介さなかった。


「オイ! 剣々崎薫子!!!!」


 突然、髪をひとつに縛った生徒が怒声をあげながらステージに上がった。

 名前を呼ばれた生徒会長は余裕のある表情で生徒の方を見ている。


「あらまあ。元気がいいのはいいことですわね。とはいえ、あまり威勢がいいのも困りものでしてよ」

「うるさい! 御託はいいから勝負しな!!」


 言うが早いか、髪を括っている生徒の拳が生徒会長を襲う。


 これは.......顔に当たる!!!

 そう思っていたのに、次の瞬間には会長の掌が女生徒の拳を掴んでいた。


「いきなり殴りかかるなんて野蛮ですわね.......「礼儀マナー」がなってませんわ」


 生徒会長は、女生徒の方に一歩近づいた。

 二人は至近距離で向かい合う構図になる。


「まずは、相手に「今から喧嘩をしますよ」という合図として視線を送る。これを「メンチ切り」と呼びますわ」


 互いの間は数センチ。

 女生徒が仕掛ける前に、生徒会長が動く。


「次に、相手の呼吸を読みますの」


 女生徒はパンチを繰り出そうとするが、生徒会長の方が早い。

 会長の長い腕から鋭いストレートが放たれる。


「そうして、己の持てる力を込めて殴り合う.......これが「喧嘩ケンカ」ですわ」


 彼女は額にかかる髪の毛を払って、颯爽とマイクの前に立つ。

 ヒールを鳴らして歩く生徒会長の姿は、まさに一輪の薔薇のようだった。


「この学園は全校生徒が一人のお嬢様であり、不良である名門校。だれもが強く、美しくなれる学園ですわ。もし私のようになりたいのなら、いつでも生徒会室に来てくださいね」


 それではご機嫌よう、と。

 ステージを去っていく彼女を目に焼き付けながら、私は紅薔薇学園入学初日を終えた。


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