県大会の翌日。練習は休みだったが何故か武道場に向かっていた。この時まっすぐ帰っていたら俺の剣道人生は全く違うものだっただろう。武道場に入る扉の前で中から話し声が聞こえた。主将と監督の声が聞こえた。何なら重要なことを話してそうだったので聞き耳を立てることにした。

「あいつ全く使い物にならなかったですね」

一瞬で胸が締め付けられた。あぁ、これは俺への言葉なのかと、中学2年生ながらにすぐ気がついた。

「ほんとそうだよな。わざわざあいつをエースにしてやったのに、負けるぐらいなら棄権しろよ」

もう、立ってることもままならなかった。極めつけは監督の最後のセリフだった。

「いい道具だから、面倒見てやってたのに俺の苦労が水の泡だわ、OB達に向ける顔がねぇよ」

この瞬間、俺は剣道を剣道を始めた自分を心底呪いたくなった。俺は泣きたくなる自分を押さえて何とか家まで帰りついた。久しぶりに泣いた。いつぶりかは覚えていない。

母が帰ってきた。

「あれなんか顔色悪いよ?大丈夫とね?」

無意識に涙が流れていた。母もこの時だけは何かを察し俺を優しく抱きしめてくれた。俺は時間が経つのさえ忘れ、母の腕の中で泣き続けた。

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