第8話 領主との面会

二人の女を乗せて、オルガンで街へと移動した。


街まで二日とのことだったが、オルガンは、休みなしで一昼夜、あらゆる悪路を風のように駆け抜ける神馬。


そのオルガンの速さをもってすると、ほんの二、三時間で街へと到着できた……。


「エドワード様!とても、とても……、凄かったですわ!」


「そうか」


「あんなにも速くて逞しい馬は、父の領軍にもいないでしょう!わたくし、驚きましたわ!」


「そうか」


そうやって、会話……会話?をしつつも、伯爵家の館とやらに向かう。


門は、衛兵に対してこの貴族女、サニーが説明をすると、何もチェックされることなく入れた。


本来では、街に入るには身分証的なものが必要らしい。実際に、隣の一般人用の門では、街に入る人々が、カードのようなものを門番に見せてから、入門のための料金を払って入っていたしな。


で、後は、俺が腰に武器を帯びているのは良いのだろうか?……道をゆくその辺の人間も武具を帯びていることから、銃刀法とかはないようだな。問題ないのか。


露天商で賑わう大通りをしばらく歩き、街の中心部へ。


この街は、辺境の開拓地、「ルーカスター」と言うらしい。


で、ここの領主が、「グッドウィル伯爵」と……。


国の名前は「サーライア王国」だとか。


まあ、その辺の設定はどうでも良い。


ただ俺が言いたいのは、この街が異様に小綺麗だと言うことに尽きる。


ムーザランは、そもそもまともな街なんて残っていない、滅びかけの世界だったので参考にはならないが……。


だがそれでも、微かに残った地球の知識を参照すると、馬車を使う程度の文明の癖に、ここまで美しい街を維持しているのはおかしいと確信できる。


隣のサニーに聞くと、上下水道の完備、塗装された街道、教育の充実と、色々とおかしいことがよく分かってしまう。


その辺にツッコミを入れると……。


「この国の建国王たるヨシュア・スカイ様は、教育の充実とインフラ整備を徹底させたのです」


と返ってきた。


い、意味分からん……。


「ヨシュア様は、ニホンという異世界からいらっしゃったそうですよ」


はーーー?


なんだそりゃ……。


教育やらインフラやらと言い始めるってことは……、少なくとも、それらの恩恵を受けて育った2000年代以降の人間だろうか……?


致命的な環境汚染により、サイボーグ化やVR世界での生活を余儀なくされた2200年代の人間の発想ではないな。


俺と同じ2200年代の人間なら、まず第一に自然環境の保護を考えるはずだ。


再生不能なリソースを食い潰して発展しようというのは、古い考え……。


いや、その辺の考察はどうでもいいな。


歪な進化を遂げた特異な世界だとだけ認識しておけば良いのだ。


俺の記憶によると、中近世の文明は不衛生で治安も悪いとあるからな。


歪だろうが何だろうが、過ごしやすいのならそれでいい。




館に着いた。


「おお、サニー!どうした、随分と早い到着だが……?」


サニーを迎えたのは、中年の、熊のような大男。


サニーと同じ金髪碧眼、しかし、サニーの倍はあろうかと言う巨体に、筋肉をがっしりと乗せた戦士だ。


「お父様!」


は?


あ、そうなの。


似てねー……。


「実は先程、盗賊に襲われて……」


「な、なんだと?!」


「ですがその時、こちらの方に助けていただいたのです!」


「そうなのか!」


「直接は見ておりませんけれど、武装した盗賊十人を瞬く間に倒した達人なのですよ!」


「なるほど!」


「他にも〜……」


「すごいな!」


あれ、話通じてんのか?


まあ良いや……。


「話は分かった!私は、ソライル・サダラーン・グッドウィル伯爵!この街の領主だ!」


あ、通じてたのか。


「俺はエドワードだ」


「エドワード君か!娘を守ってくれたようだな!ありがとう!!!」


声でか……。


「そっすね、じゃ」


帰ろうとする……。


「まあまあ!待ちたまえ!」


めんどいな……。


「そろそろ昼食の時間だ!是非、同席してくれ!」


「結構だ」


「そう言うな!私は強き者の話を聞くのが好きなのだ!」


まあ、見た感じではお前よりは強いが……。


「面倒だからパスで」


「ふむ……、そうか。真面目な話、君の人品を見定めなければ褒美をやれんのだ。できれば、少しだけでも話を……」


「して何になる?語ることなどもう何もない」


そう、もう何もな……。


「まあ、そう言うな、我が剣よ。ここで領主の信を得ねば、今後に差し障りが出るかもしれんぞ?少しばかりならよいだろう?」


と、ララシャ様。


「はぁいララシャ様!……気が変わった、馳走になろう」


「お、おう、そうか」

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