27.異常事態

 俺が剣を抜くと同時にアティアとパルネも戦闘態勢になる。


「アティア。パルネと一緒に後ろの小さいヤツを頼む。大きいのは俺がやる」

「大丈夫?ラディー」

「ああ。任せろ」


 俺がストーンゴーレムに向かって駆け出した。デカいストーンゴーレムと小さいストーンゴーレムが俺に向かって来るが、小さいストーンゴーレムの何体かに土槍が突き刺さる。

 アティアの攻撃魔法だ。

 さっきのストーンゴーレムには弾かれていたけど、こっちの小さいストーンゴーレムには有効で、頭や胸を楽々と貫いていく。


 小さいストーンゴーレムはアティアの土槍で倒してくれるおかげで、俺は気にせずデカいストーンゴーレムに突進する。


 小さいストーンゴーレムは俺に向かって来るヤツと、アティア達に向かうヤツと二手に別れていく。


 

 ひとまずこのデカいヤツだな。


 デカいストーンゴーレムが口を開けて、いきなり石のブレスをぶつけようとしてくる。


「それはさっき見たよっ!」


 俺が左右に大きくフェイントを入れる。それを追いかけるようにストーンゴーレムの首も左右に向きを変える。射線が定まらないまま、ストーンゴーレムが石のブレスを吐き出した。


 もちろん俺には当たらず、余裕で躱した俺がストーンゴーレムの懐に潜り込んだ。

 ストーンゴーレムの股の下を滑り込むようにくぐり抜け、両足に一撃ずつ入れた。


 デカいストーンゴーレムの背後に回る形になった俺が振り返り、背中から攻撃を加えようとすると、左右から小さいストーンゴーレム達が俺に向かって飛びかかってきた。


 ガキィン!ガシュッ!……


 数体の小ゴーレムを一撃で両断すると、目の前のデカゴーレムがバランスを崩して前に倒れた。俺の一撃が片足を完全に両断した為、バランスを崩したようだ。

 すかさずその背中に飛び乗り頭を狙うが、左右から再び小さいストーンゴーレムが俺に向かって飛びかかってくる。


「ヒュッ!」


 ストーンゴーレムの背中に乗ったまま、小さいストーンゴーレムを蹴散らす。見える範囲を蹴散らしたところで足元のデカいストーンゴーレムに視線を戻すと、首が180度回転して俺と目が合った。


「おっと!」


 目が合った瞬間にストーンゴーレムの腕が俺の足を掴もうと伸びてきたので、頭の方に跳んで躱す。そしてそのまま空中で一回転してストーンゴーレムの頭を縦に両断した。


 ストーンゴーレムの腕が力無く床に落ち、レンガで出来た体が崩れ出した。

 すぐにアティア達の方に振り返ると、ちょうどアティアの土槍が最後のストーンゴーレムを貫いたところだった。


 俺は足元に転がるいくつもの魔晶と化したゴーレム達を見渡す。



 もう他にはいないみたいだな。

 背後からアティアの声が聞こえる。


「ラディー!終わった?」

「ああ。終わったよ!そっちは怪我とかはないか?」


 アティアとパルネから無事だと返事があると、俺は床に転がっているゴーレム達の魔晶を拾い集めはじめた。

 ひと際大きいデカいストーンゴーレムの魔晶はもちろん、小さいヤツも魔晶になっていたので、全て拾っていった。



 これならかなりの額になりそうだな。


 アティアとパルネが俺の所に駆け寄って来る。


「随分多いよね」

「ああ。もうそっちは拾ったのか?」

「ううん。これからだけど……。この後どうする?」

「そうだな……」


 ほぼ無傷でストーンゴーレムを倒せたのは良かったけど、二体目や小さいヤツが出てきたのは想定外だったから、ギルドに報告した方がいいだろう。


「アティアも早く戻って報告した方がいいと思う?」

「うん。さっきの11階層からモンスターも全然出てこなかったし、階層主も聞いてた話と違ったし……」

「そうだな。じゃあ、魔晶を回収したら地上へ戻ろうか」


 俺達は魔晶を集めて、地上へ戻ることにした。


 ◇◇


 地上へ戻ると、いつもと少し様子が違っていた。まだ夕方にもなっていないので、いつもであればそれほど冒険者はいないはずなのだが、かなり多くの冒険者がギルドの中にいた。

 俺達はその様子を横目に魔晶の買い取りカウンターへと向かう。

 買い取り担当の職員の前に、さっき倒したストーンゴーレムの魔晶も含めた多くの魔晶をカウンターに広げる。


 驚きの表情を見せた職員がその魔晶を手に取り出すと、ストーンゴーレムの魔晶が2個あることに気付く。


「ラディアスさん!コレ……、階層主の魔晶ですよね?」

「ええ。そうですけど」

「何で2個あるんですか?」

「えっと、二体現れたんで……倒したんですけど」

「二体!?」


 女性の職員は飛び上がる勢いで驚くと、ちょっと待っててくださいと言い残して、カウンターの裏に消えて行く。

 すぐに女性職員がギルド長ディーガンさんを連れて戻ってきた。ディーガンさんがカウンターのストーンゴーレムの魔晶が2個あることを確認すると、


「ラディアスさん。この階層主は同時に現れたんですか?」

「同時ではなく、一体目を倒したら二体目が壁から出て来たんですが」

「場所は同じなんですね?」

「そうですね。同じ場所です」

「分かりました。あとで詳しくお話を聞かせていただけますか?」

「え、ええ。構いませんけど……」


 ディーガンさんは隣に控えていた女性職員に向き直ると、


「やはり迷宮異常イレギュラーだ。すぐに入口を封鎖して。そして今、迷宮で探索しているパーティーの確認を!」

「わ、分かりましたっ!」


 女性職員が踵を返して迷宮の入口へと走って行った。



 ……え?迷宮異常イレギュラー

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