だが、逃れ得ない運命

「転生…だと?」

「そうだとも。私が運営する世界にぜひ生きて欲しいのだ。

 ああ、もちろん。君には協力という形になるのだから、それ相応の力を与えてるよ」

「……」


 ペラペラ喋ってはいるが、頭が若干追いついていない。

 何を言ってやがるこいつは。


「…突然の事で申し訳ない。魂の収集は、私たちの仕事一つでね。どうかご容赦願いたい」


 考えてることが読める…神っぽそうなのは間違いないが、どうもきな臭い。


「仕事だ…?なんだか怪しいな…そんなところに加担したくもないし、このまま死なせてくれるとありがたいんだが?」

「それは無理だ。

 ここに来た時点でもう、転生の手順は完了してる。

 後は、君が持ちこむ力を決定するだけだ。さ、何が欲しい?」


 なら、仕方ないのか。くっそ嫌だけど。

 能力次第では快適に過ごせるか?


「……それは、なんでもか?」

「なんでもだとも」


 顎に手を当て考える。

 …というか、どんな世界か聞いてなかったな。


「ああ、そうだったね。それは言ってなかったかも。

 えーっと、君が転生する世界は、剣と魔法の世界だね。

 五つの国が日々互いの国と睨み合いながら、時に戦争をして、領地を得ては奪ってを繰り返してる戦乱の時代だね。君はそこの一大勢力のソルロイド王国の、軍人候補生の一人に転生するよ」


 勝手に答えたな…。

 戦争か…。映像とかで様子とか見れていたが、巻き込まれたくないしな…。

 どうするか…魔法も気になる。うーん。


「ふむ、迷ってるね。ではこれはどうかな?

 全属性の魔法に、もう一つこの世界に備わっている強力な属性魔法を付与しよう。…いやこれは元々付いてるものだね。

 戦争が嫌と言っていたからね。生き残れるように強靭な肉体と、どんな戦闘技能にも対応できる柔軟さ、誰とでも意思疎通ができる言語能力。

 こんなものかな…どうだい?」

「………」


 結構な大盤振る舞いに、怪しさが込み上げるがそこそこな生活を送れるなら、良いのではないだろうか。


「よし、それで行こう」

「うむ、スムーズで助かるよ。では早速やるとしよう、あっちでは善は急げって言うだろう」

「なんで、知ってんだよ…」

「これでも、高次元に位置する者だからね。多少は低次元に干渉出来るのさ。

 ほんとは、やっちゃいけないけど」

「良いのかそれで…」

「いいとも。他の同存在も特に何も言わないしね。私たちは、人をより良い存在にするために居るからね」

「ふーん…」


 よくわからないな。なんのこっちゃという感じ。


「ははは。君がこれから生きる上では関係ない話だし、知ってたところで影響も微塵もない。

 なにせ、ここでの出来事は忘れることになってるからね。

 あ…君のこれまでの記憶は顕在だし、憑依先の人物——アデム・モナーク君のそれまで生きてきた記憶も共存するからね、少々混乱するかもだけどそこは良いかい?」

「…良い。とびきり良い加護みたいなもの貰ったし、贅沢は言えん」

「そうかい。殊勝な心がけだ。君をこの世界に呼んで良かったよ」


 樹人が木の手のひらを瑠衣に向けると、体が光の粒子に成って、解れてゆく。


「さあ、足立瑠衣。いや、アデム・モナーク君。

 良い人生を送ってくれたまえ。艱難辛苦が待ち受けていようとも、根源たる我らが見守っている。

 強く、鮮烈にしかして穏やかに。

 君の人生が、実りあるものであることを心から祈ってるよ」


 樹人のその言葉と共に、意識が白く染まる。




 視界が晴れた時、そこには自分の顔を覗く赤い瞳とかち合う。


「アデム?どうしたの?ボーッとしちゃって」


 息をするのも忘れて、アデムはその瞳から目が離せなかった。

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