【7】 街へいってみよっと。


 旦那様たちが来た為に食事の時間がずれてしまい、結局ブランチになってしまった。


「うーん、まだ昼前か。今日はこれから、どうしよう」


 サメっちが、ふよふよ浮いて寄ってきた私の肩に止まった。


「街に行ってみたら?」

「そうねえ。何か面白いものでもないか、見に行ってみようか」


 私は、町娘に見える格好に着替えた。

 2つお下げを作って、前世にあった物語の主人公、赤ずきんちゃんぽい格好に着替えた。

 残念ながら色はブラウンだけど。

 赤はさすがに目立つ。


 頭巾の中にサメっちが潜り込んできた。


「僕も行くー」

「ふふ、いいよ」


 私は、馬車の模型を地面に置いで魔力をこめる。

 それはみるみる、御者ぎょしゃつき馬車になった。


 ぬいぐるみや人形を主に使っているけれど、ようは"模したもの"なら、このように使えたりすることもある。


 御者も馬車も本物と比べると違和感があるが、その違和感がなんなのかは、わからないくらいの出来である。


「街までいけるわね?」

 御者ぎょしゃに問う。


「勿論ですよ、アプリコットお嬢様」

 御者ぎょしゃが答える。


「僕に乗ってかないの??」

 サメっちが言う。


「確かにサメっちのほうが早いんだけどね。昼間は目立っちゃうから」


「あー、そうだよねえ」

 残念そうだ。

 サメっちと今度、夜空の散歩でも行こうかな。



 ***



「うわ、おっきな街だねぇ。あちこちから色んな匂いがするよ」

「サメっちにとっては、いろんな匂いでいっぱいだろうね。大丈夫? クラクラしない?」

「平気平気、大丈夫だよ~」


「これは一日じゃ周り切れないな。たしか、隣国からやってきて店を出してる人もたくさんいるんだっけ」


 この市場を見るだけで、領主仕事はかなり忙しいだろうなぁ、と思う。

 前領主が働かなくて、旦那様は大変だったろうな。


 それなのに、屋敷仕事を任せられない妻まで押し付けられた訳か。

 うちの母親の我儘わがままのせいで申し訳ない。


 歩いていると、市場の中央らしきとこに着いた。

 円上の広場に、真ん中に噴水がある。


 「わあ」


 祭りでもないのに、パフォーマンスをやってる人もいれば、楽器を演奏してる人もいる。

 広場を中心にいくつかストリートが作ってあり、その一つ一つの道の看板に、『お食事はこっち』『生活必需品はこちら』『新鮮な食材はこっちへ!』『病院へはこちら』『こっちは生活区域』『おみやげならこちら!』と、賑やかに看板が立っている。


「とりあえず、生活必需品かなぁ。えっと、サウスストリートがそうなんだね」

「だね。食べ物はもう昨日ゲットしたもんね~うふふ」


 私とサメっちは、生活必需品が集まっているだろうサウスストリートへ向かった。


「ブティックに、帽子屋、寝具に……お、文具店さん……、あ、人形屋さんがある」

「これは一日じゃ回りきれないね~」

「うん」


 ひとまず人形屋をのぞいてみようと歩いていたら、通りかかった塗装とそう屋から大きな怒鳴り声が聞こえた。

 

「発注を間違えやがって! なんだこのペンキの量は!!」

「ひえええ! すいません親方!!」


 見ると、店の中が大量のボックスで埋め尽くされている。


「ありゃりゃ、人が入る隙がないくらい箱でみっしりだね」

「ほう~。……ホント、これはみっしりだね~大変そう~」


 発注をした若いお弟子さんが親方さんに、絞られている。


「こんなペンキの量! お城規模じゃなけりゃ消費できんぞ! どうすんだ!!」

「うあ……」


 ふむり。

 お弟子さん、すごいうっかりミスをしたもんだなぁ。 


 あ、いいこと思いついた。


「あの、もしすみません」


「あ、はい、いらっしゃいませ!!」


 親方さんはすぐに笑顔になった。


「もしよろしければそのペンキ、売ってもらえませんか?」

「はい!?」

「色は一色じゃないですよね?」


 私は箱に書かれたカラーを見た。12色はあるんじゃないだろうか。

 つまり、基本的なカラーは揃ってる。


「え、でも」

「買います」


 私は旦那様から頂いた小切手を切った。


 金額を聞いたら、私に割り当てられた予算で余裕で買えた。

 私の予算は、おそらく値の張るドレスを何着かは購入できるように組んでるだろう。


 でも新しいドレスなんて、もう要らんし。

 ドレス着るような仕事しないでいいんだしさ。

 それなら別のことに使うさ。


「え……この小切手は……領主さまの……あ、あなたひょっとして」

「しー。運ぶのだけお願いできるかしら。別棟にね」


「は、はいっ!!」

「ありがとうございます、奥様!!」


 奥様か。

 なんかくすぐったいな。


 塗装とそう屋を出た後、お腹がすいたので、今日の所は人形屋には寄らず、食事をりにイートストリートへ向かった。


 カフェでパンケーキを頼んで食べる。そしてカフェオレも頼んだ。


「美味しい!」

「僕にもちょうだい」


 サメっちにもこっそりあげた。

 食べ物にも微量に魔力は含まれる。

 食べ物をあげてもぬいぐるみ達のかてにはなるのだ。


「おいしいー!!」


 ……パンケーキを食べるサメか。想像したら、なんて平和な。


「ごちそうさまでした~!」

「ありがとうございました~!」


 城から持ってきた宝石をさっき、ササッと換金したので、それで支払う。


「ペンキを受け取らなきゃいけないし、帰るかな。すぐにお運びしますって言ってたし」

「ねえ、あんなにペンキ買ってどうするの?」


「ん? ふふ。 暇つぶし、かな」

「ふうーん??」


 名残惜しいが、今日はこれで帰る。

 まだ見る所いっぱいあるから、少しずつ見ていけばいいや。


 一度に見ちゃうのも、もったいない。

 だって時間はいっぱいあるから。


 自由があるって――時間がいっぱいあるっていうのは良いことだけど自分でやりたいことを見つけないといけないから、それが無ければ――暇、だね。


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