【5】 盗めよ、さらば与えられん。


 ――やばい。

 まさか、侵入一番、旦那様に見つかるとは。


 しかし、私はほっかむりに仮面をしている、正体がバレることはないはず。


 ごまかさねば……!!!


「――我々が見えるとは、相当疲れているようだな。青年」


 こうなったら幻を見ている事にしてごまかそう。



「……つ、疲れ!? どう見ても賊……いや。疲れているのか!? オレは!?」


 ――額に手をあてて混乱している。


 それもそうだろう。

 可愛いサメと、可愛いニャン教授に、可愛いぬい仮面の私。

 可愛いは正義っていうし、賊に入らない。多分。


 しかし昼間、とても丁寧に一人称で私……とか言ってたくせに、素ではオレなんですね。旦那様。


「そうだ、君はとても疲れている。ほら、そこの椅子に座ると良い。サメっち、座らせてあげなさい」

「いいぉ」


 サメっちが、ニョキ、とその胴体腹部から人間の手足を生やし――絨毯じゅうたんに二足歩行のサメが妖精のようにふんわりと、着地する。


「海洋魔物から、成人男性の生足と手が生えた!? しかも、筋肉隆々きんにくりゅうりゅうだ!?」


 ガーンッΣ と旦那様が白目をく。


 白目をきつつも、結構細かいところまで見て指摘してきた。

 なるほど、一瞬で色々見極める、仕事ができる男と見た。


 顔がSAN値直葬さんちちょくそう顔になってるけど。

 SAN値直葬さんちちょくそう顔って簡単に言うと正気を失ったような顔って感じの意味です。はい。


「可愛いだろう」

「可愛くねぇよ!! おまえら、頭おかしいんじゃないのか!! いや、頭がおかしいのはオレか!?」


「傷つくぉ……だんなー。おつかれだぉ。座るぉ~」

 サメっちがそのマッチョな手足で無理やり旦那様を、傍の椅子に座らせる。


「声が可愛いのが逆に嫌だ!? オレは……オレの頭は大丈夫なのか……、あ、何をする!!」


 旦那様がガクガクと白目で震えている。


 よし、戦意喪失というか戦意にいたれる気力は奪えたようだ。

 サメっちがマッサージを始めた。


「こってるねぇ~。僕マッサージ得意なんだお~………キモチヨクシテヤル」

「怖い!!」


「信用しなさい、サメっちのマッサージの腕は最高だ」

「信用できるか!?」


 そういえば、結構な騒ぎだ。このままでは使用人に気づかれるかもしれない。


「ニャン教授、黙らせて」

「いいだろう」


 ニャン教授は部屋のベッドのシーツを破って旦那様に猿ぐつわした。


「むうううううー!! むうぅおおおお!?」

「大人しくしろ……。大人しくしていれば気持ちよくなれる」

「ふぁえちぇpてktぱうぃえt!!」


 何言ってるのかわからないけど、まあいいか。


 その時、旦那様から魔力が解き放たれ、闇が広がった。

 そして、その闇に吸い込まれるようにして――逃げた。


 闇属性魔法のテレポートだ!!


 なんてこと!

 この人、闇属性魔法使いだったか!!


 しばらくして、屋敷じゅうにサイレンが響きわたった。

 にわかに、バタバタと使用人が動き出す音がする。


 やっば!!


「サメっち、乗せて! 多分、奴らは宝物庫なり旦那様の執務室なり重要な場所へ集合すると思う! 食料庫へいそごう!」


「わかったー、こっちだと思うお~」


 サメっちが、手足を引っ込め私とニャン教授を乗せ、屋敷内をかっ飛ぶ。


 何人もの使用人とすれ違う――その最中、私付きの侍女がいた!


「サメっち、ちょっとだけお仕置きして」

「わかったぉ」


 ――その侍女とすれ違う際、サメっちは、尾ひれでその侍女をふっ飛ばした。


「きゃああああ!?」

 

 ちょっと乱暴ですが、食べ物の恨みです。


 この侍女が私にちゃんと餌……じゃなかった晩ごはんを持ってきてくれれば、こんな泥棒みたいなことしなくて良かったし、いくら気に食わない花嫁でも衣食住は用意する姿勢を見せてくださいよね!


 ――そして、キッチンと続きにある食料庫の侵入に成功した。


 私は持ってきた白いくまのぬいぐるみを出して魔力を込め起こし、巨大化させた。

 名前はブランカ。彼女の背中についているチャックを開く。


「みんな、ほら、ブランカの中に、食料全部詰め込んで!!」


「いいだろう」

「おっけー」


 ブランカはその存在がイコール倉庫魔法だ。

 知性がないので普段はぬいぐるみに戻している。


 私達は、ブランカの中に、次々と食料やらワインやら、放り込んだ。


「……これくらいで当分しのげるかな」

「ブランカの中に入れておけば腐らないしな」

「じゃあそろそろ帰ろーよ」


 エントランスが近かったので私達は堂々と、正面玄関の扉をバーン! と開け放ち、外へ飛び出した。


「賊が逃げたぞ!!」

「追えーーーーー!!」


 振り返ると、おそらく騎士たちが馬に乗って追ってくる。


 うーん、別棟まで一本道だから、このままだと身バレするな。


 私は、今度は黒いクマのぬいぐるみを取り出し、背後に放ち魔力を込めた。

 名前はネロだ。

 ネロは、むくむくと大きくなりながら、騎士たちに立ちはだかる。



「ニャン教授、ネロと一緒に、処理をお願い。あとネロをちゃんと連れて帰ってきてくれる?」

「あい、わかった」


 ネロは、一般的な成人男性の3倍の大きさにまでになった。その肩にニャン教授が飛び乗る。


「さあ、サーカスの時間だよ、諸君……」


 私は知っている、ニャン教授がそのふところに喋ってみたいセリフ集(自作)を持っている事を。

 よかったね、言える時がきて。


 騎士たちが、な、なんだー! 魔物かあーーー!! しかし可愛い!? とか叫んでる。

 可愛いからしょうがないな。


 でもネロは凶暴なので、足止め程度にしておきなさい、と命令を送る。


「サメっち、じゃあ私達は先にかえろ」

「2人でだいじょうぶかなー?」

「大丈夫。それに私達が逃げ切ったら適当に切り上げてくるし」

「それもそだネ」


こうして、私は難なく食料をゲットした。いぇい。


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