第13話 廸の部屋に泊まった!

5時少し前には廸のアパートの前に到着していた。仕事で先方を訪問するときはどんな場合でも20分くらい前には門前にいることにしている。これが幸いして電車が遅れた場合や、場所を間違えた場合でも遅れることなく訪問できていた。


今日は手土産に赤白のワインを購入してきた。前日にメールでワインを買っていくと知らせておいた。途中の乗換駅の酒屋で良さそうなワインを選んだ。ほかにチーズケーキを2個買い求めておいた。廸はチーズケーキが好きだった。


5時を少し過ぎたところでドアホンを押した。中から廸のはずんだ声が聞こえた。その声を聞いて緊張がほぐれた。少し緊張していたのに気が付いた。そして今日も自然に振舞えばよいと言い聞かせている自分がいた。


ドアを開けると、廸の笑顔が見えた。後ろについて中に入っていく。この前一度訪ねたから部屋の中はよく覚えている。


リビングの座卓に野菜サラダとドレッシングが準備されていた。


「今日は洋食ですが、味付けは和風が多いです。アペタイザーは鳥の照り焼き風、ポタージュスープ、和風のゴマサラダドレッシング、バーター醤油で焼いた魚、メインは牛フィレ肉のステーキにワインソースにしました」


「どれもおいしそうな献立ばかりだね。ずいぶん材料に費用がかかっただろう。費用は僕が持つから」


「いいえ、この前のお礼でご招待しました。ご心配は無用です」


「じゃあ、ごちそうになるかな。ワインを開けよう。始めは白ワインから」


「1本を二人では多すぎます。それも赤白、贅沢ですね」


「飲めるだけ飲んで、残れば料理に使ったらいい」


「そうします」


まずは白ワインで乾杯した。鳥の照り焼きは味に深みがあっておいしい。量も多くないからすぐに平らげた。


廸はそれからポタージュスープを温めて皿に注いでくれた。何種類もの野菜が使われているようで深みのある味でとてもおいしい。


レタスのサラダを和風のドレッシングをかけて食べてみる。ゴマ油とサラダオイルと醤油と砂糖の割合が絶妙でおいしい。いくらでも食べられそう。


バター醤油で焼いたタイがおいしい。ごはんがあれば何杯でも食べられそうな味付けだ。近所のパン屋で買ったというフランスパンがおいしい。


メインの牛のフィレステーキは赤ワインのソースが絶妙でおいしい。買ってきた赤ワインが合う。廸は赤ワインを飲みほしたので、グラスに注いであげる。廸もワインを注いでくれる。


話しが弾んだので飲み過ぎたかもしれない。赤のワインのボトルが空になった。それからデザートに買ってきたチーズケーキを食べた。お腹がいっぱいになった。


「ご馳走様、おいしかった。ありがとう。そろそろおいとましなくちゃ」


「ゆっくりしていってください。まだ、酔っているでしょう。酔いを醒ましてください」


「そうだね、じゃあ酔い覚ましに後片付けをしてあげよう。君も酔っているだろう」


「大丈夫といいたいのですが、少し酔っぱらって足元がふらついています。お願いします」


僕は立ち上がって、食器をキッチンのシンクヘ運んだ。そして洗い始める。廸は黙ってそれをみている。後ろに気配を感じたと思ったら、抱きついてきた。


「今日は帰らないで下さい」


「君がそういうなら喜んでそうしよう」


「嬉しい。お風呂の準備をしてきます」


廸はお風呂の準備のためにその場を離れた。寝室へ行ったようだった。洗い終わるのにはもう少し時間がかかる。


洗い終えると、布巾で拭いていく。それを食器棚の空いているスペースに戻していく。終わりがけに廸が戻ってきた。


「もう少しでお風呂の準備ができます。先に入ってください。それからこれを着てください」


男物のスエットの上下が廸の腕の中にあった。


「それは?」


「私が選んで買ってきたものです。気に入っていただけると嬉しいのですが?」


「ありがとう。そこまで気を使ってもらって」


廸ははにかんだ笑みを浮かべた。それで思わず抱きしめてしまった。廸が身体を硬くする。


「ごめん。お風呂をいただきます」


「バスタオルは脱衣所にありますから使って下さい。ゆっくり入ってください」


僕はお風呂に入った。僕の部屋と同じユニットバスでトイレとも一体になっている。小さめのバスタブにお湯が満たされている。シャワーを浴びてバスタブに浸かる。熱めのお湯が心地よい。お湯が音を立てて溢れ出た。


バスソープで頭と体を洗う。気持ちがいい。これからどうする? 気持ちの赴くままに振舞えばよい。それが一番だ。明日は日曜日、ゆっくりさせてもらおう。廸もそれを望んでいる。十分に温まって、酔いも醒めてきた。


「良いお湯で気持ちがよかった。ありがとう」


廸が水のボトルを手渡してくれた。それから隣の寝室へ案内してくれた。布団が敷いてあった。照明が落としてあり、枕もとに小さなランプが点いている。


「ここで待っていてください。お風呂に入ってきます」


廸は出て行った。周りを見渡すが、照明が落とされているのでよく見えない。でもほとんど物が置かれていない。すっきりした部屋になっている。窓にカーテンがかかっている。静かな落ち着いた寝室だ。


自分の部屋とは違った女子の部屋だ。匂いが違う。女性の匂いがする。男を興奮させる匂いだ。ここで彼女を抱けるなんて最高だ。男冥利に尽きる。


少し長湯だなと思っていると、廸がバスタオルで髪を拭きながら入ってきた。うすいピンクの長いワンピ―スのようなTシャツを着ている。


「お待たせしました。お布団が1組しかありませんので一緒に抱いて寝てください」


「望むところだから」


廸は僕の隣に座るとほぼ同時に抱きついてきた。今日の廸は積極的だ。彼女も気持ちの赴くままに振舞えばよいと思っているに違いない。キスをすると舌を入れてくる。僕は戸惑いながらも受けいれる。廸は下着をつけていなかった。


この前とは人が変わったのかと思われるような振舞だった。力一杯抱きついて乗りかかってきた。そして腰を使いはじめた。素人の子がそんなことをする? 思わず顔を見たが目をつむってただそれに集中しているようだった。


そして快感が高まってきたときには足を絡ませてきた。本能的なんだろうか? 考える間もなく頂点に達した。


廸は力をすべて出し切ったようでぐったりして身動き一つしない。僕もその余韻を楽しみながらじっとしている。そして回復を待っている。


二人とも脱力しているが、手はつないだままだった。時間の経過と共に徐々に廸の腕に力が戻って来た。そして手を握りしめてきた。僕に抱きつきたい気持ちが伝わってくる。


「大丈夫?」


「身体から力が抜けて、でもすごく気持ちよかった」


「いったんだね」


「これがいくっていうこと?」


「女子のいくって感じは僕には分からないけど、きっといったんだ」


「みだらな女だと思ったでしょう」


「少し驚いた。この前の君とは違いすぎたから。もう痛みはなかったのか?」


「初めは少し痛みがあったけど、この前ほどではなかった。それより快感のほうが強くなって」


「それはよかった」


「今日はあなたにどう思われようとかまわないから、思いのままにしようと考えていました」


「思いのまま?」


「気持ちの赴くままということです。自分を解き放したくて、もう遠慮はいらないとも思いました」


「僕に気を許したということかな?」


「もう恥ずかしい思いはこの前にしてしまったので」


「望むところかな。今度は僕の番だ」


いうよりも早く、僕は廸を自由にしている。彼女が恥ずかしいと思う体位で抱いていく。これでもかと言わんばかりに弄ぶ。僕が後ろに回った時に彼女が「バック?」とつぶやくのが聞こえた。


バックの意味が分かっていっているのだろう。だから僕に試してみたかったのだろうか? 僕も彼女に試したい体位がいくつもあった。特に彼女が恥ずかしいと思う体位を試してみたかった。


恥ずかしければ恥ずかしいほど快感が増すみたいで、僕のなすがままになって廸は快感に溺れていった。何回かいったみたいだったが、最後のとどめで彼女は本当にいってしまったようで動かなくなった。それを確認すると僕も満足して深い眠りに落ちていった。


カーテン越しに朝の光がさしているのに気が付いた。隣で寝ていたはずの廸はもういなかった。するとドアが開いて、廸が顔を出した。


「おはよう。よく眠れた?」


「ああ、ぐっすり眠った。君は?」


「とっても良く眠れました。目覚めもすごくよかった。朝食の準備ができています。顔を洗ってきてください。洗面所にすべて用意してありますから」


「ああ、そうさせてもらう」


本当は二人抱き合って目覚めたかった。廸は目覚めると昨夜を思い出して恥ずかしくなったのではないだろうか? だから布団の中で目を合わせるのが恥ずかしかった。ふとそう思った。


昨晩は二人とも少し飲み過ぎた。ワインは2本共空になっていた。それで廸は気が大きくなって大胆になったのではないだろうか。そうとしか考えられなかった。


テーブルにトーストとホットミルク、それにカットしたリンゴとバナナがお皿に盛り付けられている。


「簡単ですみません。お腹が空いたものですから」


「あんなにお腹がいっぱい食べたのに張り切りすぎたかな?」


廸の顔が真っ赤になった。恥ずかしがっている。昨日のことを覚えているんだ。きっと後悔しているに違いない。


「昨日の君は素敵だったよ。本当に大好きになった。自然なままの君が素敵だ」


「そう言ってもらえてうれしいです」


僕は朝食を食べてから満ち足りた気持ちでお暇してきた。

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