第8話 プロジェクトの終了

ようやくプロジェクトが終了した。新製品投入期日は6か月後となった。約1年間のプロジェクトであったが、両社の持ち味がうまく生かせた製品ができたと自負している。最終会議は松本部長も出席した。


プロジェクト会議終了後の懇親会は先方の会社の会議室において午後5時から立食形式で行われた。このパーティーには両社の関係者が多数出席していた。それで、廸とは一言二言位しか話ができなかった。山口君と廸も同じ状況でほとんど話ができなかったようだった。


先方の会社の副社長のお開きの挨拶の後、僕と山口君は帰り道が一緒になった。山口君には話しておきたいことがあったので機会を窺っていた。


「プロジェクトが終わったから、若狭さんとのこと、思い通りに進めてください。もう二人で会って下さいとお願いしたのか?」


「パーティ―のときに後で連絡をいれますと伝えておきました」


「そうか手回しがいいね。それでどうするんだ」


「後で電話したいと思っています。携帯の電話番号は分かっていますので」


「そうか、よい答がもらえるといいね」


「大丈夫です」


「成否を教えてくれないか?」


「プライベートなことなので必要ないと思いますが」


「それはそのとおりだけど、僕にも考えがあってね」


「考えってなんですか?」


「もし、山口君が交際を断られたら、僕も交際を申し込んでみたいと思うようになったんだ。確かに山口君がほれたように若狭さんが魅力的な女性と思うようになったから」


「ええ、先輩もですか?」


「もちろん第一交渉権は山口君にある。万が一にでも山口君が断られたらの話だから、先駆けをしようなんて思っていないから安心してくれていい」


「分かりました。成否はお知らせします。期待しないで待っていて下さい」


「ああ」


◆ ◆ ◆

次の日、元気なく出社した山口君から若狭さんに交際を断られたとの報告を受けた。


「山口君からの申し込みを断るなんて彼女は人を見る目がないなあ。じゃあ、ダメもとで僕もそのうちに申し込んでみるか?」


「頑張ってみてください」


「まあ、うまくいったら教えるよ」


その晩、僕は廸に電話を入れた。


「山口君は断られたのでしょんぼりしていた。何て言って断ったのか聞かせてくれる?」


「山口さんは頭も良くて行動的なので私にはとてもついていけそうもないと言ってお断りしました」


「そんな理由なのにがっかりしていた。自信家なのでまさか断られると思っていなかったみたいだ」


「でも素直に受け入れていだだきました」


「まあ、断れてよかった。ところで、もし山口君が断られたら、僕がチャレンジしてもよいことにしてあるんだけど、交際の申し込みを受け入れてもらえるんだろうか?」


「そうですね。私にペースを合わせてくれるので、安心してお付き合いできるからお受けしますとお答えしましょうか?」


「ありがとう。そう思っていてくれて。山口君には『恋愛ごっこ』をしていることはしばらく黙っていようと思っています」


「それがいいと思います」


山口君の問題はこうして解決した。でもいつかは付き合っていることを話さなければならない。その時に山口君がどういう反応をするかだ。ただ、時間を置くということは大切なことかもしれない。時間が経過すれば山口君に新しい恋人が見つかっている可能性もある。

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