真実の愛
「涼くん!凛音と同居してお世話をしてほしいんだけど、良いかな?」
凛音のお父さんが発した言葉は俺にとって信じがたい展開だった。
もしかしたら、病院に入院させてもらうよう院長に頼むのか、それとも休職して凛音の記憶を戻すことに専念するのかと思っていたが、実際はそうではなかったらしい。
でも同居かよ・・・。
凛音の記憶すら残っていない今、凛音と同居するには相当なハードルがある。
彼女は俺のことを完全に忘れてしまっているし、凛音という人間を思い出してもらうのにどれくらいの時間がかかるのかわからない。
そして咲希に全ての事態を説明しないといけないのだ。
レンタル彼女であったことは説明しないといけないと考えていたが、まさかこんなことになってから説明するとは思ってもいなかった。
「同居ですか・・・。具体的にどういう感じをイメージしてます?」
俺に断る権利などない。
今まで幼馴染として過ごしてきた凛音が記憶をなくしたんだ。今こそ凛音の役に立つように頑張る時だ。
だが、異性と、しかも記憶のない幼馴染と2人暮らしとなると、相当ハードルが高い。
俺も男だから色んな欲はある。理性を保ち続けることは当たり前であり、凛音の記憶を戻すお手伝いをさせてもらうことは信用の上でのことだ。
勝手に凛音の過去の記憶を改竄し、俺の彼女だったという記憶に一時的にすることだって。可能ではある。
ただ、そんなことをしたって、凛音の記憶が戻った時に、もう1つステップ上のステージに進むことはできない。
なんせ今は、凛音を騙すどころか、咲希を騙してしまったのだから、その謝罪の方も重要だからだ。
「凛音の家を知っているだろう?そこに住み込んでお世話をしてほしいんだ。勿論お金も払わせてもらうよ」
「いえいえ、お金なんて入りませんよ。凛音には色々お世話になっているので」
すると凛音のお父さんは
「それは申し訳ない。少なくとも2人の生活費くらいはあげさせてくれ。できるだけ早く仕事を切り上げて涼くんには負担をかけないようにするから」
とお願いしてもらったため俺は快く受け入れる。
ただ少し懸念している点があった。
俺は別に記憶を戻す専門家なんかじゃない。
記憶を戻すために重要なのは、色々な想い出を辿ることだと聞いたことがあるが、俺は凛音の想い出のどれくらいを占めているのだろうか。
少なくとも、彼女がレンタル彼女をやっている理由、そしてVtuberを始めようとしていた目的すらわからない。彼女のイメージは高校までで止まっている俺が、果たして彼女の記憶を戻すことが出来るのか。
勿論、咲希にも手伝ってもらおうとは思っているが、彼女の記憶を戻せる保証なんてない。
だけど・・・
「わかりました」
凛音にお世話になっているし、ずっと前から凛音のことは間違いなく好きだ。
その気持ちに嘘はないし、今まで咲希という別の魅力的な女性がいることを理由に隠してきたが、凛音のことが好きなのは真実だ。
今、俺に出来ることを精一杯やり遂げよう。
「本当にありがとう。取り敢えず今日はもう終電もない時間だから涼くんの家まで送っていくね」
そう凛音のお父さんに言われた。
俺は、「記憶が戻るといいけどな・・・」と呟きながら、凛音がいる病院を後にした。
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