第9話 まるで子どもの頃のように。

ちょっと雨でぬかるんだ地面には、色んな形跡が残りやすそうだ。

そのちょっとぬかるんだ地面に、環琉ちゃんは膝を付けた。


びちゃっと。


ああああああああ!ジーパンが汚れる!

ああああああああ!ジーパンが汚れる!


と、ぼくともなかちゃんは、そんな顔してしまった。

保護者かよ!


環琉ちゃんはそんな事気にせず、少し興奮した様子で話し始めた。

興奮すると声が大きくなるらしい。


「見て、ここに自転車のタイヤ痕。昨日の夕方に誰かが、このツツジの中にある棒を見つけたんだ」


確かに雨でぬかるんだ地面に、自転車のタイヤ痕があった。


「そして、この小さな足跡。小学高学年ぐらいかな」


環琉ちゃんの指示す方に、その幾つかの小さな足跡があった。


「その小さな容疑者たちは、5メートルの棒を発見して、遊んだのでしょ。

そして歩道に落としてしまった。そして『十分楽しんだしもういいや』とそのまま放置した」


ぼくは嬉々と話す環琉ちゃんの声に、嬉しくなった。

そうやれば出来る子だ。


「日本代表選手クラスが、ツツジの中にわざわざ隠す必要がない。

隠したいのであれば、もっと良い方法はいくらでもあるよね」

探偵な雰囲気に乗って、もなかちゃんが異を唱えた。


「それね、日本代表の件は消えたかな」

環琉ちゃんは、ウロウロと歩きながら考えた。


「とりあえず懐中電灯は消そうよ。目立ちすぎるよ」

『お前、人の目気にし過ぎ』って目で、環琉ちゃんはぼくをみた。


それは自覚してる。


懐中電灯は消され、ちょっとした森は一気に暗くなった。

深夜に公園の森の中で、3人が話しているのは、なかなか怪しい。


「とりあえず車に戻ろう。そこで考えたら良いじゃん」

ぼくの提案に、もなかちゃんが

「そうだね、ここじゃちょっと怪しまれるよね」

「とりあえず棒をツツジの中に戻して良い?

ツツジの中にないと、きっと困ると思うの」

「そうだね」

もなかちゃんが答えると、ぼくは1メートルちょいの段差を飛び降りて、ポールを拾い、環琉ちゃんに手渡した。環琉ちゃんは丁寧にツツジの中に隠した。


本当にツツジの中に隠してあったのか、ぼくは疑問に思ってはいたが、このまま歩道に放置すると、落し物として誰かに持って行かれる可能性がある。

そうすると謎は謎のままで終わってしまう。


隠し終えるとぼくらは1メートルちょいの段差を、同時に飛び降りた。

まるで子どもの頃のように。


ぼくらは再び、もなかちゃんを真ん中にして、歩き出した。

月夜に照らされた、もなかちゃんと環琉ちゃんは、楽しそうで輝いていた。




つづく



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