帝上炎尊記【邂逅降臨品】

夜依伯英

第一

 旧支配者の大司祭が眠りに就いてから、膨大な時が過ぎて、その都から西へいった国に真灼しんしゃく大師だいしという方がいらっしゃいました。

 真灼大師はホモ・サピエンス・サピエンスの男性でした。一人の男性と一人の女性の間に生まれて、その後その二人にはもう一人の男の子が生まれました。


 真灼大師が青年となられて、ある日、朝霧という名の後輩とある霊場に訪れられました。朝霧は酷く怯えながらも、大師について行きました。

 山を歩むと、大師は自分たちが歩んでいた道の端から、もう一つの道が伸びていることに気が付かれました。道の両脇には竹か何かが突き刺さっていて、両方の上端から道に架かるように注連縄が張られています。道切りです。その下には男神と女神が交わっている道祖神が祀られてありました。

 大師たちはその境界を無意識に渡ってしまいました。大師は、ある物語に出てくる神父に倣って、素数ではありませんが円周率を言挙げして心を落ち着けられました。大師は前へ進むべきと悟られ、歩みを進められました。すると、棘の生えた指の像や、眼球のようなものから触手のようなものが生えて、その眼球を包んでいる像、目のない太った蛙のような像、名状し難き歪な物たちが、整然と並んでいました。

 大師たちは更に進まれます。次には道を遮るように小さな川が流れていました。木の橋が此岸と彼岸とを繋いでいます。大師はお一人で川を渡られました。

 大師の行く先を、神社かむやしろが迎えました。大師が参拝されると、美髏灑大姫神りるせおおめがみと云う女神が降臨されました。

 美髏灑大姫神は、残酷な美をお持ちになります。それは燦然たる光。妖艶で優美な闇。その美しさは無量無辺に遍満自在して、悪鬼悪霊を惹き付け、充分な年齢の男性が目にしたならば即座に陰茎を勃起させ、その過剰な血流で痛みまで感じ、同時にその痛みを忘れ去る程の快楽を得るでしょう。女性が目にしたならば、如何程の美人でも彼我の差に絶望し、同時に無限の憧憬と目眩を催し、気が付けば恥部は濡れ、無意識に欲しがった男根の心象を見て絶頂するでしょう。

 その女神の前にあらせられて、真灼大師は恋人を想われました。その大いなる愛を尊厳を感じられた美髏灑大姫神は、大師に寵愛をお与えになりました。

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