第12.5話 「女神」オタク、ミクの思案
女神のことを好きだったという彼は、彼女と共演していた時の役柄と同じぐらい、柔和でカッコよかった。
今まで出会った誰よりもイケメンだった。彫りの深さとか、鼻の高さとか、パッチリした二重とか、もう異次元級。女神のことがなければうっかり好きになってしまっていたかもしれない。
こんな同年代のイケメンにアプローチされていて、女神があのプロデューサーの方を選ぶわけがない。そう確信できて、ほっと息をつく。
あれは彼の言う通り、プロデューサーの虚言だったんだな。なんとなく胡散臭いおじさんだとは思っていたけど、危うく騙されそうになってしまった。
何よりプロデューサーとは全然違う俳優の彼の素敵なところは、女神のことをちゃんと好きでいてくれたんだな、という誠実さが見えるところだ。
女神に関する良からぬ話ばかりを吹き込まれて疑心暗鬼になってしまっていた私の心に、彼の話は優しく染みわたる。ここにちゃんと私と同じく女神を真剣に思っている人がいるんだと、思わず涙ぐみそうになるぐらいに。
彼だったら女神の恋人でも許せたかもしれない。
けど、そんな彼すら彼女は「仕事があるから」と振ったのだから、それはもうそういうことだ。
やっぱり、女神は私たちファンを裏切ってなんかいなかったんだ。
あの飲み会も、社長が接待要員として連れて行ったという話なら頷ける。
彼女があんな飲み会に自主的に参加するとは思えなかったけど、社長命令なら流石に逆らえないだろう。
社長自ら未成年飲酒を推奨するなんてのは、いかがなものかと思うけど。
とはいえ、社長同伴な上に、あの彼も参加して守ってくれていたと言うのなら、そこまで酷い目には遭わなかったに違いない。
良かった、女神のクリーンさはギリギリで保たれていたのだ。
だけど、女神の家族の話は気になる。
実の娘や妹に平気で金の無心ができるほど図々しい家族なら、縁を切った途端に週刊誌に売るとか、SNSで暴露するとかしてきそうだし、もしかしてそういう風に女神は脅されていたのかもしれない。
自分たちのことを裏切るなら、絶縁したことを暴露するぞ……みたいな。
それを苦にして、いっそ死んだ方が楽になれると思ってしまうのは、ありうる動機な気がする。
言われてみれば、不自然なほど女神からは家族の匂いがしなかった。
姉がいるなんて話も聞いたことがない。
よく考えれば、バラエティやトーク番組で他のアイドルだったら家族とのエピソードが出てくるシーンで、女神は話題を巧妙に逸らしていた……気もしてくる。
女神が実在の人間離れしていたのも、ひょっとしたら、家族の存在を一切感じさせないところにあったのかもしれない。
気になる。女神の家族のことが。
とはいえ、流石に一般人の家族ともなると、どう頑張ってもたどり着けそうにない。
私でたどり着けるんだったら、メディアがとっくにたどり着いているだろうし。
焦る。なんせ、これだけ時間を費やしても、女神の死の真相には、全くと言っていいほど辿り着けないのだ。
最近は、まるで同じ場所をずっとぐるぐる堂々巡りしているような感覚に駆られている。
その現状を打破するためにも、女神の家族について知れるアプローチを考えねば。
そう思った時に、ふと一人の顔が頭に浮かぶ。
あの人なら、全く彼女の家族について知らない、ということはあり得ないはずだ。
女神の死の真相は彼もきっと気になっているだろうし、事情を話せば協力してくれるのではないか?
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