第7.5話 女神オタク、ミクの激情

美麗の言っていることは嘘だ。

百パーセント嘘は流石に無いにしても、そのほとんどが逆恨みから来る妄想の産物のはずだ。

だって女神が美麗のスキャンダルを暴いただの仕事を奪っただのは余りにも荒唐無稽だし、そもそも女神が美麗をコピーした、という所からおかしいのだ。


確かに「天使」という愛称で人気を博した──というところまでは一緒だけど、美麗が「天使」と呼ばれていたのはデビューしたてのほんの一瞬だったし、不倫のスキャンダルが出る前から、美麗は既に人気で女神に大きく水を空けられていて、二人は比較にもならなかった。

美麗はとうに旬を過ぎたタレントで、年齢もかなり違うし。

いくら事務所が同じだからって、人気急上昇中のフレッシュなアイドルである女神と旬を過ぎた美麗を同ジャンルで扱うこと自体が間違っているというのが私の認識。

それは女神のファンの欲目ばかりではないと思う。


それにしても、スキャンダルも暴かれ堕ちた後のアイドルが、女神のせいで自分はアイドルとして凋落したのだと言い聞かせることによって自己を保っている姿は、本当に見苦しかった。

まだ二十五歳なはずなのに、ヒアルロン酸の入れすぎなのかボトックスのしすぎなのかなんなのか表情も不自然だしやけに老けて見えたし。

あと昔はあんなに胸無かったよね。豊胸した?

もちろん一般人と比べたら十分綺麗だけど、正直、やり過ぎ感が強くて好きになれない見た目だった。

ナチュラルな美しさで人を魅了していた女神とは正反対の人工物だ。

女神が彼女を見て、「引き際を間違えたくない」なんて思ってしまったのも無理はない。

でも確かに美麗の憎々しげな様子を見ていると、女神の人気を妬み、逆恨みした誰かに殺されるというケースはあっておかしくないのかもしれない。

それだったら私は、その人間を絶対に許さない。

地の果てまで追い詰めて絶対に真実を明るみにして、その人間に然るべき報いを受けさせると誓ってやる。


美麗に関して言えば、私に対してこんな話をするぐらいだから、女神の死には関わっていないとは思う。

私がどれだけ真相に近づいているか探るために接触した可能性もなくはないけど、それは流石に推理ドラマの見過ぎな気がする。

普通の神経の人間なら、わざわざ死んだ人間に対して恨みがありました、なんてことを自己申告はしないはず。それがきっかけで警察に追求されたりするのは嫌だもん。

特に、本人も言うとおり、今は女優畑でそこそこ活躍もしているのだから、自分が女神を妬んでおり、女神の死に絡んだなんて言いふらされるのは絶対に避けたいだろうし。

となると、やっぱり女神に対する恨み辛みを人に打ち明けるメリットがない。


彼女以外の誰かが女神を殺した──頭が痛くなり、緊張による動悸がしてくる。

女神について考えると動悸がしてしまうようになった。まるでおばあちゃんになってしまったよう……間違いなくストレスのせい。

今の段階ですら動悸や目眩に襲われる有様なのに、この先、単なる女子高生の私に、ドラマの中に出てくる探偵みたいな真似ができるんだろうか。

弱気になる私を励ますかのように、ロック画面の女神は相変わらず完璧な微笑みを見せていた。


女神。あなたのためなら、私は。

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