第6話:帰ろうとしたら偶然にも主人公とヒロインを見つけてしまう

 ヒロインの幸村との色々なやり取りがあった後。


 教室から出て行った俺はそのまま急いで職員室に行って担任教師に謝ってきた。


 担任教師は俺が謝った事にとてもビックリしたような顔をしてきたんだけど、まぁでも進路調査票の提出は明日でも良いとの事になったのでとりあえずは一安心した。


(んー、でもこのまますぐに教室に戻るとまた幸村と出くわしてしまう可能性があるよな)


 なので俺は食堂近くにある自販機に行って、そこでジュースを買って少しだけ時間を潰す事にした。


◇◇◇◇


「ふぅ……さてと、そろそろ戻ってみるかな」


 ジュースを飲みながらノンビリと過ごして十分近くが経過したので、もうそろそろ大丈夫だろうと思って俺は教室へと戻っていった。


 教室に戻ると思った通り幸村の席からは学生鞄が無くなっていた。という事は幸村は帰宅したという事だろう。


「よし、それじゃあ俺もさっさと帰ろう」


 という事で俺は自分の席から学生鞄を持ち上げてさっさと教室から出て行った。そしてそのまま俺は教室から下駄箱の方へと向かって歩いて行った。


「……うん? って、や、やばい……!」


 俺は下駄箱の近くに到着すると、その下駄箱の前に見知った女の子の姿を見つけてしまった。あれは誰がどう見てもヒロインの幸村紗枝だった。そしてもう一人、幸村の隣には男子生徒が立っていた。


 どうやら幸村は男子生徒と二人きりで下校している途中のようだ。なので俺は幸村達に見つからないように物陰に隠れていきながら、ついでにその男子生徒の方を確認してみた。


(ん? あの男は……って、あぁ、主人公の坂上弘樹かな)


 どうやら幸村と一緒に下校している男子学生はNTRエロゲの主人公の坂上弘樹のようだ。確か朝にもこの二人は一緒に登校してたんだよな? やっぱり幼馴染だしこの世界でもちゃんと仲が良いんだな。


「了解、それじゃあ今日の夜に紗枝の部屋に行くわ」

「えぇ、わかったわ。あ、でもちゃんと勉強道具を持ってきなさいよ? 遊ぶためじゃないんだからね? ちゃんと試験勉強をするのよ?」

「はいはい、わかってるって。はは、全く……相変わらず紗枝は俺の母親みたいだなー」

「ふふ、こんなおっきな子供なんて産んだ覚えないわよ」


(……なるほど、今日の夜は二人きりで勉強会をする感じなのかな?)


 二人の会話を盗み聞きするつもりはなかったんだけど、でもどうやら幸村と坂上は今日の夜に幸村の部屋で二人きりで勉強会をするようだ。いやなんだよそれ、まるでエロゲみたいなイベントじゃないか……って、いやよく考えたらここエロゲの世界だったわ。


(ふぅん……いやそれにしても幸村、めっちゃ良い笑顔してんなー)


 俺は幸村には死んだ魚を見るような目でジロっと睨まれていたっていうのに……でも目の前にいる坂上弘樹とはとても楽しそうに笑みを浮かべながら会話をしていた。それに坂上もすっごく楽しそうに笑っていた。


(うん、確かにこの二人のやり取りを見てたら……そりゃあ夫婦だって茶化されるのも理解できるな)


 ふと、今日の朝に幸村達は他の生徒達からまるで夫婦みたいだなって言われてた事を思い出したんだけど……いやこんなの誰がどう見ても夫婦にしか見えないって。普通に二人とも確実に両想いじゃん。


(いや、これさ……俺が幸村の事を無理矢理犯そうとしなければ勝手にハッピーエンドを迎える事になるんじゃね?)


 二人の楽しそうなやり取りを見ていると俺はそんなふうに思っていた。いやだって絶対にこのまま何も変な事が起きなきゃこの二人は付き合う事になるだろ。だから頑張れよ主人公、男気を見せて頑張って告白しろよな。


(うーん、いやそれにしてもさ……今までずっと操作してきてた主人公が俺の目の前にいるってのも何だか違和感が凄いなぁ)


 俺はそんな事を思いながらも改めて主人公の坂上弘樹を見つめていった。まぁせっかくなので俺はそんな主人公の坂上弘樹の事をサラッと思い出してみる事にしてみた。


 坂上弘樹とはNTR系エロゲーである『どんなに頑張っても最愛の幼馴染がクラスのヤンキーに寝取られてしまう件について……』の主人公だ。見た目はサッカー部に所属している運動神経の良いシュっとした男の子だった。


 そんな主人公の坂上弘樹とメインヒロインの幸村紗枝は隣同士に住んでおり、子供の頃からずっと仲の良い幼馴染という間柄だ。


 そしてもちろん幼少期の幼馴染エピソードはエロゲの中で沢山語られていた。子供の頃に一緒にお風呂に入ってたエピソードや、幼稚園の頃にぶつかったはずみに口にキスをしてしまったエピソードに、大人になったら結婚しようと子供の頃に誓いあったエピソードなどなど……幼馴染あるあるのほっこりするエピソードがふんだんにゲーム本編で語られていた。


 でもそんな幼少期の幼馴染エピソードを沢山見た所で、最終的にはどう足搔いてもクズマに寝取られてしまうのが本当にしんどかった。マジで寝取り作品は耐性がない人はやっちゃ駄目だなってそん時にはめっちゃ思ってたし。


 まぁ話を戻して、続いてはそんな主人公の坂上弘樹の性格についてなんだけど、根は明るくてコミュ力の高い男子学生という感じの男子生徒だった。結構冗談とかおちゃらけた事も良くいうタイプで、その度にヒロインの幸村には笑われながらツッコミを入れられるというシーンが多かった。


 それと坂上には友達が沢山いて、幸村以外とも頻繁に遊びに出かけるイベントが沢山あった。まぁでも主人公が四六時中ヒロインとずっと一緒に行動していたらどう足搔いてもクズマが寝取る事なんて出来ないから……だから主人公には友達が沢山いて色々な人と遊びに出かけたりさせなきゃ駄目だったというメタ的な読みはあるんだけども。


 あとはサッカー部に所属しているので運動神経もそれなりに良いイケイケな男子生徒でもあった。ゲーム本編でもサッカー部の交流試合に幸村が主人公の応援をしに行くというイベントが特に最高だったな。


 そしてそのサッカー部のイベントで幸村が手に沢山の絆創膏を貼りながらも手作りのお弁当を渡すというシーンには本当に胸がキュンキュンとさせられたよなー。まぁ最終的にはクズマに寝取られるんだけどさ……。


 という事で以上、エロゲだけの知識なんだけど俺が知っている主人公の坂上弘樹についての情報はこんなもんだ。ちなみにクズマの記憶の断片の中には坂上弘樹の情報は一切なかったので、多分この世界でも主人公との交流は一切ないと思われる。


(……ま、主人公が悪役が仲良く交流なんてしてるわけないよなぁ)


 まぁ普通に考えたらそうだよな。そして俺達は悪役と主人公という間柄な以上、これからも主人公の坂上にはなるべく近づかないように心掛けていこうと思う。


 というわけで、俺は下駄箱の前にいる主人公とヒロインの二人組に見つからないようにこっそりとその場から離れていく事にした。

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