没落の枯花

青毛の子

第一話 平凡な朝

 朝日が顔を出して私の顔を照らし、幾分か経ったとき。私は温い空気をまとった寝床からゆっくり起き上がった。私の名前はモーティア・ポーム・ラタリ、九歳。このラタリ王国を統べるポーム家の当主、グィール・ポーム・ラタリの植物系人間である第六夫人の、長女だ。

 まだ酷く眠いし、学校に行く時間でもない。でも、起き上がらなくてはならない。私は自室内の洗面所へ向かった。水道から水を流し、顔にまとわり付いた眠気を洗い流して顔を拭き、大きく背伸びをした。タンポポのような黄色い肌。鮮やかな緑色を蓄えた瞳と髪が鏡に写っていた。私は寝間着を脱いで濡れたタオルとともに扉付近の洗濯かごに投げ入れ、クローゼットを開けた。いつもの赤い、ボリューム袖を着て、同じく真っ赤なバギーパンツを履いた。それからスリッパから先が尖って上に巻いた赤褐色の靴に履き替える。これが私の真っ赤コーデだ。同じものを十着揃えてある。私は一階に降りて裏口から王宮の外へ出た。

 「今日のメニューはジョギング一時間と戦術の勉強ね。本当はティスも連れてきたいけれど……。どうせ起きないし、しょうがないわよね。」

 ティスは私と同じ第六夫人の生まれの次男だ。ディスティニ・ポーム・ラタリ、同じく九歳。もうすぐ時期が来るというのに未だに怠けグセが治らない。

「姉さん。おはよう。」

と後ろから声をかけてきたのはクラヴ。クラーヴィ・ポーム・ラタリ。私の二人目の弟だ。ボールのような頭に髪が一房、風になびいている。

 私達は三つ子なのに顔も性格もぜんぜん違う。これは私達の母が一度に複数の子供を産める植物系人間のプラントであるからだ。詳しくは知らないがお腹の中にハイシュがたくさんあって、それぞれでジュフンして成長するから、同時期にジュフンしても生まれてくる子供の姿は全く異なる。これ以上父に聞こうとすると無言の圧で制してくるから諦めている。恐らく子供には知られたくないのだろう。

 さて、私達は3ヶ月後に大事な試練を控えている。この国で古くから行われている伝統行事、「精霊廻り」だ。王族含めた強大な魔力を持つ一族、通称魔法貴族は十歳の誕生日を迎えたその日から大精霊が眠る四つの地を巡る旅に出る。これは成人を迎える前に己と魔法を鍛え上げ、一人前になるという意味があるのだそうな。……意味はともかく、この旅は非常に危険なもので、親族からの助けは一切受けられず、同い年の魔法貴族としか旅を共にすることが出来ないという中々に過酷な制限が設けられている。つまり、水、食料、道中のトラブル、大精霊からの試験の攻略諸々に至るまでまだ子供である自分たちの知恵と魔法で解決しないといけない。移動手段は徒歩、資金援助も無し、命の危険も普通にある。だから私はこの試練のために三年ほど前からトレーニングを続けてきた。ジョギング、自習、サバイバルの知識や魔法の習得、エトセトラエトセトラ。

 私がここまで色々出来たのは良き相談者がいたからだ。父もそうだが、いつも忙しそうにしているので中々話せる機会がない。他の兄弟もとっくに父の仕事を手伝える年齢になっていて話し相手には出来ない。その人はこの王宮の地下にいた。もう二度と会うことができないだろうが。

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