百合音の後日談

 百合音はめっちゃ怒られた。パパから。

 裏警察とは、存在そのものが気取られてはいけない組織である。何故ならば、警察組織が主導で非合法活動を行っていることを表しており、それは日本全国の治安を揺るがしかねない事案ということなのだ。そのため裏警察の存在が感づかれそうになった暁には、その火種を作った人員は排除されてしまう。ただ単に非合法な事をした者として罪人になってしまうのだ。そうならないようにパパが色々と手を回して打ち消してくれたのだが、その代わりのお叱りだった。


「うぐ……分かってるもん……でもパパみたいな立派に日本をまもりたかったんだもん……」


 パパに叱られた時の冷めきった顔を反芻し、一番の信頼を失墜させてしまったことの自責の念に駆られる百合音。宿舎の畳の線を指でなぞり、溝に爪を食い込ませて埃を取っていた。


「泣いちゃ駄目なノ!」


 8畳程の広くない百合音の部屋に、小さな来訪者が現れた。しかしそれは不法侵入ではないので、裏警察である百合音は咎めない。というのも、ここは百合音の部屋であり、彼女の部屋でもあるからだ。

 金髪で美しい可愛らしい少女の忍者が、彼女の笑顔は明るく周囲にほんのりと温かな雰囲気をもたらした。その金髪は蛍光灯の光を浴びて輝き、部屋にひと際の明るさを与えた。彼女はトテテっと部屋の中に入り、背中を丸めた百合音を正面からギュッと抱きつく。


「百合音ぇ元気出しテ!」


「あははは、百合音ぇは立ち上がれないよ重くて……」


 人一人の重量を受けて、引きつった笑顔を逸らしつつ、彼女のことを想起する百合音。

 ある日裏警察の捜査で、多くの外国人を誘拐したグループと激突した。その時に被害外国人を取り返すことに成功したのだが、他の被害者と違って、何かしらのショックがあったのか彼女には記憶がなく、家族の元へ返すことができなかったのだ。だから記憶が思い出すまで、または家族が特定されるまでの間、百合音の監督の下で保護することになっているのだ。


「百合音ぇは凄いノ! だから元気出しテ!」


「はは、ありがとうねイクノ~。ちょっと元気出たからそろそろ降りようか」


「分かタ!」


 イクノは聞き分けよく降りてくれた。百合音はため息をついて、凹んだ心を奮起するように立ち上がる。


「よし! うん元気出た! ありがとうイクノ~!」


 笑顔で百合音もイクノにぎゅっと抱きしめる。キャッキャとイクノが笑った。


「くすぐったいノ~!」


 悲しみから復活したことで冷静さを取り戻した百合音は、今日一日について振り返る。真っ先に浮ぶのは、あの金髪の屈強な大男。

(まさかあんな強い人が世の中にいるなんて思わなかった、パパと同等かそれ以上かもしれないわね、私が子供の女だったからか全然本気を出してないようだったし)

 自分の未熟さを色々な方面から痛感させられながら、更にもう一人の男についても思いを馳せる。誰かの誕生日プレゼントのために命を投げ打つ、なんの変哲もない男子高校生を。

(それにしても、彼はあのプレゼントで良かったのかしら? イクノなら日本の食品サンプルとかで喜んでくれるようだし、きっと低学年な子への誕生日プレゼントなのかもしれないわね。今日はきっと良い一日になっているでしょうね)


 思いがこもれば、プレゼントが何であろうと関係ない。命を懸けてその大切さを教えてくれた。


「百合音ぇ笑っタ!」


 イクノにまた抱きつかれながら、百合音は彼と彼の思う人の幸せを心から祈る。

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