第4話 卑弥呼タン、拐かされる

「起きてくださいまし、スサノオどの」


 寝起きに顔面91点のセクシー姉ちゃんがいる生活、ずっと憧れていたんだよね。モンローさんって幾つなんだろ? 見たところ20歳から23歳といったところかな。


 まあいいや、僕は年上も10歳までは範囲内だ。『姉さん女房は金の草鞋わらじを履いてでも探せ』って昔の人も言ってしな。いや待てよ、この時代から見ると、未来の人が言ってたことになるのか? わけわからんわ。


「寝ぼけてないで起きてくださいまし。卑弥呼様が、かどわかされました」


 かどわか? 有名な本の出版社のことか?

 いや違う、かどわかされた、つまり誘拐されたってことか!?

 やっと俺は目を覚まし、頭を急速回転させた。


「卑弥呼タンが誘拐された? 誘拐犯からの電話はあった? 身代金の要求はあったのか?」

「スサノオどのが何をおっしゃってるのか、モンローにはさっぱりわかりませぬ。朝起きたら、卑弥呼様の姿がなかったのです。ただ草履が片方だけ落ちていて、卑弥呼様が寝ていた辺りに男のものと思しき足跡が2人分ついていたのです」


 それは、たぶんきっと絶対誘拐だ。僕の卑弥呼タンをナマで担ぐなんて、許せない誘拐犯だ。僕ですらまだ体に触ったことがないのに。手すら握ったことないのに。フレンチキスしただけなのに。ぐへへ。


 いやいや、しっかりしよう。ここは学生探偵、スサノオ様の出番だ。


「なるほど。よし、犯行はすべて解けた!」

「ほ、本当ですの? スサノオ様」

「まずは残されたこの足跡を見るが良い」


 僕はモンローと共に、足跡の痕跡を探った。


「なんとも愚かな誘拐犯どもだ。足跡がしっかり二人分残されている。この足跡を追えば、あっという間に事件は解決だ!」

「なるほど! さすがスサノオ様ですわ。ではさっそく参りましょう」


 ◇◇◇


 およそ10分後、僕とモンローは鬱蒼と茂る森の前で立ち尽くしていた。


「あの、スサノオ様」

「なんだね、ワトソン君」

「わとそん……? あの、足跡がこの森の入り口で途切れちゃっているんですけど、この後はどうされるので?」

「なるほど、これだから素人さんは困るな」


 本当、素人さんは困る。僕にそんなこと聞いたってわかるはずがないだろ。

 僕がいま心配しているのは、この余裕たっぷりな演技がいつまで続くかということだけだ。いや違う、もちろん卑弥呼タンが一番心配だけど。


 と、その時。森の奥から可愛らしい大声が聞こえてきた。


「出でよ! 秘伝・白虎びゃっこの術!!」


 森の奥が白く光り輝き、太い樹木がメキメキと倒れる音がしたと思うと、僕とモンローのすぐそばに一本の「道」が出来上がった。道は森の奥に続いていて、その奥には数人の人影が見えた。 なんじゃこれ一体? 


 と、森の奥の人影から小さい影がこちらに駆けてくるのが見える。間違いない、あれは卑弥呼タンだ。卑弥呼を追って、2人の大男も駆けてくる。


「卑弥呼さまあぁ! こちらですぅ!!」


 モンローが絶叫した。卑弥呼も僕たちの姿を認識したらしく、必死の形相で疾走してくる。

 あらあら、卑弥呼タンたら結構足が速いんだ。少しずつだが、追っ手の男たちを引き離しているじゃないか。この調子だと逃げ切れそうだな。


 ベチャ。

 いきなり何にもないところで、卑弥呼タンは顔面からコケた。出た、必殺ドジっ子特性!

 ってヤバイぞ、助けに行かないと。

 僕とモンローは卑弥呼の元へ駆け出した。誘拐犯の大男たちも、もうすぐ卑弥呼に追いつきそうだ。これはマズイ、ヤバイよ、卑弥呼タン!


 その時だった。

 木の上から一つの影が舞い降りて来た。全身黒づくめの衣装に、口元を隠す覆面。あ、これ忍者だ。時代考証めちゃくちゃだけど、どう見ても忍者っぽい。


 黒忍者は背中の刀をスラリと抜くと、誘拐犯の元へ向かう。


「お主ら! 俺の卑弥呼ちゃまに何をした? 生かしてはおけん!」


 なんだろう、見た目はすごくカッコいいんですけど、一つだけ違和感ある言葉が聞こえたな。「卑弥呼ちゃま」って何だ?


 黒忍者は誘拐犯と相対すると、まるで練習用のわら束を切るかのように、二人をそれぞれ一刀のもとに切り伏せた。うわ、こいつスゲー強いな!


 誘拐犯たちが地面に倒れる前に、黒忍者は卑弥呼のすぐそばに駆け寄り、卑弥呼の体を起こした。


「大丈夫ですか、卑弥呼様?」

「おお、お主か。問題ない。世話をかけたのぉ、ヒコマロ」


 黒忍者の名前は「ヒコマロ」というのか。いや、卑弥呼のことだ。ぜったい違う名前をそう読んでいることだろう。


「ご苦労じゃったの、ヒコマロ」とモンローが二人に近づく。

 ヒコマロは僕の存在にやっと気づいたらしく、慇懃いんぎんな態度で挨拶をしてきた。


「お初にお目にかかる。私は森彦もりひこと申す。卑弥呼ちゃま、いやすまん、卑弥呼様の『影』だ」


 やっぱり名前が「ヒコマロ」じゃなかった森彦さん。いままた「ちゃま」って呼んでたよね? そして『影』っていうのは、やはり響きが忍者っぽいな。


「ヒコマロのお陰で助かったぞ。よし、褒美をやろう。よしよし」


 卑弥呼はいきなりヒコマロの頭をナデナデした。


「!! ひ、卑弥呼ちゃま、そんな、勿体無い……」


 そう言い残すと、ヒコマロは地面に卒倒した。

 なんだこれ。また愉快な仲間が増えちゃったみたいだ。


 こうして僕たちは「巫女で法術使いの卑弥呼」「医療担当セクシー美人のモンロー」「卑弥呼の『影』ヒコマロ」「古墳オタクのスサノオ」という4人パーティが出来上がった。


 なに? パーティに一人だけ役立たずが混じっているって?

 それな。僕もちょうどそう思っていたところなんですよ……これから一体どうしたら良いんでしょうね。ヤホー知恵袋にでも質問してみようかな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る