第2話 卑弥呼タン、吃驚する

 話は、僕の卑弥呼タンの出会いに遡る。


 目の前の女の子は、吃驚びっくりした顔のまま固まっていた。

 ちょっと待って、びっくりしたのはこっちの方なんですけど。


 僕、竹早たけはや彗士郎すいしろうはついさっきまで、奈良県のとある古墳にいたはずだ。大きな声では言えないが、深夜にレンタチャリでやってきて、こっそり柵を乗り越えて古墳に登って行った。


 別に盗掘するとかそんなワケじゃない。古墳マニアなめんな!

 ただ古墳の中心に立ち、古墳が作られた時代に思いを馳せながら瞑想する……それだけでウルトラハッピーになれるのが真の古墳マニアなのだ。


 でもこの日はちょっと違った。思いを馳せて瞑想する……までは一緒。

 ただ、瞑想を終えて目を開けた途端、目の前に中学生ぐらいの女の子がちょこんと座っていた。


「…………うわっ!」

「おわっ! なんじゃお主?」


 なぜ立ち入り禁止の古墳に、こんな女の子が座っている? けしからん!

 自分のことは棚に上げ、神聖な古墳を汚したなお前、と説教モードに入ろうと僕は息を吸い込み、立ち上がった。


「お主! ここは神聖な古墳じゃ。なぜこんなところで寝ているのじゃ?」


 先制攻撃を食らってしまった。それにしてもこの子、身長は僕と同じくらい、ということは162センチ前後か。おう、悪かったな。男のくせにチビで。


 服装は赤と黒の着物、髪はざっくりと切り揃えられ、ところどころが跳ねているけど、地味目のファッションに華やかさを添えているようでポイントは高い。


 その顔は、僕独自の美少女スカウターによると、なかなかの高得点だ。93点あげてやっても良い。喜べ少女、僕が90点以上の評価をすることは滅多にないんだぞ?


 でも一点だけ、ちょっと不自然なポイントがある女の子だ。それはあまりにも彼女に似合っていたため、危うくスルーしかけた。でも二度見し、三度見し、確認に確認を重ねた上で僕は彼女に聞かずにはいられなくなった。


「あの、その頭に付けているケモ耳、カワイイですね?」

「なっ……わらわ天耳てんじが、か、カワイイじゃと?」


「てんじ」ってなんだろ? 一瞬そう思ったが、彼女の反応を見て僕は別の意味で興奮した。

 彼女は林檎が青ざめて逃げ出すほど、顔全体を真っ赤にして照れていた。


「お主、婚儀前の女性にょしょうの目前で、そのような破廉恥はれんちな物言いをするなど、ご、言語道断じゃ! 名を名乗れ!」


 うん、この子、イイね! グッドボタンがあればすぐに押してチャンネル登録したいぐらいイイね!

「のじゃ言葉」に一人称は「わらわ」、しかもツンツンしてる癖に恥ずかしがり屋さん。正直、僕の性癖にブッ刺さりまくりだ。


「僕は、竹早たけはや彗士郎すいしろう。君は?」

「な、なんて?」

「だから、たけはや、すいしろう」

「たけはや、すいのお?」

「だから! す・い・し・ろ・う!」

「す・さ・の・お?」


 なんでそうなる? こいつ、新喜劇の見過ぎちゃうか? にしては、ボケのクオリティがかなり低いぞ。


「わかった、スサノオじゃな。よし、妾の名も教えてやろう」


 がくっ。この子、天然か? それとも耳が悪いのか?


「妾の名は……ヒミコ、と申す」

「え、なんて?」


 今度はこっちがボケに回るパターンだ。負けてられるか。


「じゃから、ヒ・ミ・コ、じゃ」

「ヒ・ム・ラ?」

「違うわい!」


 言うなり、ヒミコは僕の頭をガッと掴み、耳に大声で伝えようとしてくる。

 そろそろ止めるか、この不毛なやりとりも飽きたしな。

 そう思い、不意にヒミコの方を向くと。


 予想以上にヒミコの顔が僕に近づいていて、しかも迫っていた。

 チュッ。

 あれ? 今、誰にも汚されたことのない僕の無垢な唇に、なにやら甘酢っぱいレモンの味がふわりと漂ったよ?


「な、な、な……」

「……僕の、ファーストキスが……」

「……妾の、初めての接吻せっぷんが……」


 オロオロする男子と女子がそこにいた。

 特に女子の方は、完熟トマトも真っ青になって逃げ出すほど顔全体を真っ赤にして、ヤカンから噴き出る湯気のような気体が全身から吹き出しているかのようだった。


 出会ってからわずか5分。

 こうして僕はヒミコと名乗る少女とファーストキスをした。正直、僕の15年の生涯で一番ラッキーな出来事ではなかろうか。

 我が人生に一片の悔いなし! 僕は天に拳を突き上げる代わりに、目の前の女の子にちゃんと挨拶をすることにした。


「……ご馳走様、でした」

「……な、なんじゃと? 妾の唇を、乙女の純潔を、お主、食いおったな?」


 そこからの記憶は曖昧でよく覚えていないが、思い出せる限りのことは記しておこう。


 ヒミコは大声で「喰らえ! 秘伝・青龍の術」と唱え、右手を天に向かって突き出した。するとその手から天に向かって青い光の柱が立ち、その光が形をぐにゃぐにゃと変えたかと思うと、龍の姿を形作った。


 その龍が口を大きく開けた次の瞬間、口から大量の水が放出された。これは、あれだ、消防のポンプ車から放たれる水流と同じだ。大量の圧力で押し出されたような勢いの水は僕の体に命中し、古墳の上から真っ逆さまに転がり落ちる羽目になった。


 ゴロゴロゴロゴロ。これ、地面と僕が入れ替わって性別が変わっちゃうかも、なんてワケのわからないことを考えながら、僕の意識は闇に落ちた。



 ◇◇◇


 ずっと書きたかったラブコメ×歴史もの、楽しんで書いています!

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