第28話「悪役令嬢、真剣勝負ス」


「む、なんじゃこいつは。ぬしらこんな女子おなごに手こずっておったのか?」

妙に古風な話し方をするその少女は、前に出てリアを一目見ると眉をひそめた。

あ、これって手練れってやつ?リアがド素人ってのを一発で見破られたっぽい。


それよりも出てきた用心棒? を見て俺様は驚いた。顔立ちは若干違和感があるものの、どう見ても前世で見慣れた日本人なのだ。

年のころは13才くらい、って所か? 若く見える民族だとしたら、もしかしたらリアを同年代かもなぁ。

むしろ気になるのはその顔立ちと服装だ。肌や髪もアジア系で、赤い目が印象的な細面の美少女と言って良かった。長い黒髪を後ろでひとまとめにしてくくっており、

服装も巫女服と着物を混ぜたような和風で、腰に日本刀のような簡素な様式の小刀を差している。

これってあれか?ケイトさんの話にも出て来たヒノモト国って所の衣装か? 東の方に日本っぽい国があるのは定番なのか。


少々身長は低めなものの子供っぽさはあまり感じられず、妙な威厳と貫禄を周囲にまき散らしていた。しかしそれは不快なものではなく自然と周囲を従わせる雰囲気をまとっていた。

そして立っていても隙が全く無く、その佇まいは明らかに素人ではなかった。何らかの武術か剣術を修めているのか、いつでも腰の小刀を抜刀できるように構えており、一見するとやわな少女に見えるのに一切の油断が無い。

あれ? っていうか俺様は剣術の覚えなんて無いのに、どうしてこういう事が判るんだ?

【ご案内します。『スキル:存在感知』により、相手のいわゆる気配や殺気といったものを多少感じる事ができるようになっております。

 そして認識された通り、かなりの強敵と思われますので、戦う事はおすすめいたしません】

「(……だそうだ、リア、戦わずに済ませる事ができるなら、それに越したことは無い)」

「(私はかまわないけど、あっちはどうかなぁ)」



「そいつは強いぞ!森で魔獣を平気な顔で仕留めて食事にしてたからな!」

リア達とは違いこっちはガチにワイルドな野営をしていたようだ。その割に身綺麗なのは育ちが良いのか?あまり薄汚れた感じはしない。

「こら、人を野生児みたいに言うでない。ウチは必要に迫られて野営しておっただけじゃ。これでも冒険者だと言っておろう」

「え? 冒険者? あなたが?」

「うむ、これでもB級冒険者じゃ。旅の為にとりあえず登録しただけだがの」

馬車の人達も特に根拠もなく用心棒に雇ったわけでは無さそうだ。とはいえ、B級ってどれくらいの強さなのかもわからんのだが。


「おい仲良くお話する為に雇ったんじゃない、さっさやってくれ」

「えっと、私何もしてないけど?」

「お前みたいなのはいるだけで危険だ。いくら強くてもB級冒険者程では無いはず、まだ子供みたいだが村の安全の為にも始末させてもらう」


「(ムチャクチャだなぁおい、村の為か何か知らないけど、やりたい放題じゃないか)」

俺がリアと村人の会話にあきれているとガイドさんが聞いた事の無い声で話しかけてきた。

【警告いたします。ここでは法律や道徳は一切役に立ちません。彼らは自らの生活を守るために障害となるものを排除しようとしているに過ぎません。このままでは主様の安全を保証する事はできません】

「(今”警告”って言った?眼の前の子ってそんな強いの!?)」

「(え?え?え?)」


俺様達が一瞬緊張したのを感じ取ったのか、レイハという少女は凶悪な笑みを浮かべた。

「ほほぅ? どう見ても弱そうなのに、こちらの技量はわかるようじゃな?

 ウチには敵わぬ、くらいには見切れるのか。面白い、ちょっと死合おうぞ。なに、殺しはせん、ちょっと拘束させてもらうだけだ」

「いや、だから私、何もしてない……」

リアが戸惑うのをよそに相手はやる気だよおい。腰の小刀に手を添え、いわゆる居合い切りの構えに入った。

【再度警告いたします。確実にエルダーワイバーン等より強いと思われます、お覚悟下さい。武器を非殺傷モードから殺傷モードに変更いたします】

【ガイドさん】まで戦闘モードに入りだしたぞ、もう呑気に構えていられない。

「(リア! ぼけっとしてたらやられるぞ!兜をかぶれ! 剣を抜け!)」

「(は、ははははははい!)」

この間の山賊とはわけが違う、美少女だろうがなんだろうが手練れとの斬り合いだ。下手をすればケガじゃ済まないかも知れない。

リアは剣を構えるが、きちんとした剣術を習ったわけでもないのでどう見ても腰が引けてるんだろうな。周囲から笑いが起こる。

「おいおい、何だその構え!」

「やっぱりエルダーワイバーンを倒したってのはでまかせか?」


俺様は、リアには少々申し訳ないがこれで相手の少女が油断してくれれば、と思ったが無駄だった。

相手はどう見ても気を緩めてはいない。じりじりと腰が落ち、明らかにこちらに向けての攻撃態勢に入っている。

もうこの際スタンボルトで眠らせてしまうか?と思ったが、いきなり斬りかかってきた。

速い! 俺様達の加速された感覚ですら見るのがやっとだ!

リアはかろうじて避けるが、明らかに体勢を崩されていた。やむを得ず俺様はスタンボルトを放つ。が、相手の抜刀した刀でそれはあっさりと逸らされる、どんな視力だよ。

一瞬相手は驚いた顔をするが、すぐに気を取り直して刀を構えなおしている、余裕は与えないつもりか。つか反応早いな!

ならばこれはどうだと、俺様は体中の電飾を一気に発光させた。相手は目が良いだけにまともにくらったせいで顔を覆うようなしぐさをした。ようやく見せた初めの隙、俺様はリアに下がるように言った。

「リア! 下がれ!」

「まーぶーしーいー」

リアも喰らってましたよ……。


周囲にとっては一瞬の事だろうが、俺様達にとっては長い長い時間だった。

「うわっ! 何だこの光!」

「眩しぃ!」

周囲が騒いでいる、野次馬達も俺様の光をちょっと見てしまったようだな。残念ながら安全な所から見物できるようなものではないよだよHAHAHA。

とはいえ俺様達がピンチなのは一切変わっていない。下手に技を見切ってよけたのがまずかったのか、眼の前のレイハという少女はより凶悪な笑顔でこちらを見てくる。


「ほぅ? このウチが初手を斬り損じるとは。構えも何もめちゃくちゃじゃが、やはり『視えて』おるじょうじゃな。しかし面妖な、ウチの動きに意識はまったくついてこれておらぬが、反撃だけはできておった。

 ひょっとしてその鎧が自動で反撃したという事か? ウチの隙を作る為に発光までしておったし、妙な鎧だとは思うておったが、なかなかの業物やもしれぬのぅ」

この子怖い! 一回斬りかかってきただけで俺様の存在見抜いちゃったよ。単なる戦闘愛好家バトルマニアじゃなさそうだ。


「そ、それはどうかなー? 私はひとりだよー?」

リア……、棒読みで言っても説得力全く無いよ? とか言ってるうちに、少女は一瞬で姿を消した。まずい! 来る!

俺様は『スキル:存在感知』を全速力で起動し、周辺の気配を探った。周囲には何人もの村人がいるが、一番近いのを探せば良い! 後ろだ!

「(リア! 前に飛べ! 早く! 後ろにいる!)」

「(えっ? えっ? はい!?)」

リアはなんとか前に避けて後ろを振り返るのがやっとだったが、少女は本気で斬るつもりではなかったのか、小刀を振り上げていただけだった。

とはいえ、初戦は小刀、リーチが短すぎてあれでは届くまい。このまま逃げ続ければなんとかなるか?



「ふむ、少々遊びが過ぎたようじゃ、失礼をした。では少々本気を出させてもらおうかの」

いかん、本気モードってやつか? いえそのまま失礼してて下さい。なんならこちらがこの場から失礼したいくらいです。というわけにもいかないようだ。

少女はどういうわけか納刀すると、その辺の木の枝を拾って手に取った。

小枝を払うと、ややいびつながら直径1cm、長さ50cm程の棒になった。何をするつもりだ? 攻撃してくるなら短くても小刀のままで良いだろうに。

「さすがに全くの手加減無しというわけにはいかぬのでな、今から見せる技は少々危険だ、心せよ」

少女がその棒を両手で捧げ持つように構えると、突然棒が発光し始めた。それどころか光が少しずつ実体化して伸びてゆき、光はついに刃渡り1mを超えそうな日本刀のような形になった。


「少々間合いが足りなかったのでな、これで決着といこう」

そういえば、この子は小刀しか持っていないと思っていたけど、持ち歩く必要が無かったのか。

あ、これヤバいかも。


次回、第29話「悪役令嬢ト新タナ同行者」

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