第16話「悪役令嬢、復讐ス」
舞踏会が行われていたホール内はもう大騒ぎだった。
逃げ惑う人々は次々に俺様に
意味不明すぎる状況の上に、俺様に撥ねられるのは普通に怖くて嫌なのか皆逃げ回るのだ。そりゃそうだわな。
「お、人の塊はっけーん、まとめて治してあげるねー!」
リアは壁際に追い詰められた人々を見て、そこへ俺を突っ込ませた、もはやゲーム感覚だな。
ゲームばっかりやってると暴力的になるってあれ絶対嘘だぞ、この子ゲームなんてやった事無いし。
ああ……、人だけというわけにはいかず、勢いあまって突っ込んだ石壁まで壊しちゃったよ。
でもまぁ、そんな中でも人々は蘇生するし治癒してしまうので生き返るんだけどな……、あれ?壁が壊れたのはそのままか?
【ご案内します。このスキルが有効なのは生物のみです、物質は破壊されたままですのでご注意下さい】
意味不明過ぎる……、そういえば周囲の人の服とかは普通に損傷していた。血で汚れたりはしていないし本人はむしろ肌艶が良くなってるのがもう何がなんだか。全員目は死んでるけどな。
そして、そんな逃げ惑う人々の中に公爵夫妻、つまりリアの両親の姿もあった。二人共既に何度か轢かれていたのか衣服は結構傷んでるな。
リアはそいつらも撥ねるつもりなのかその方向へ俺様を向かわせる。
夫妻は悲鳴を上げて逃げようとするが公爵は足がもつれ、義母の方はドレスやハイヒールで走るなんてそもそも無理なのですぐにすっ転んでしまった。
だが、リアはその手前で俺様を停車させた、さすがに両親を轢くのは嫌なのか……?
「あ、アウレ、リア……?」
「あ、あああ」
「お父様、お義母様、人に傷つけられる痛みというものをちょっとは思い知りましたか?」
リアは二人に冷たい視線を向けて言い放った。
俺様に轢かれるというのはちょっとどころな痛みではないと思うが、積年の恨みってやつだ。全部足したらあんなものだろう。
「あ、ああ、死ぬかと思った。だからもう、な?」
「そ、そうよ、私達、家族じゃない」
「あら、まだ私を家族だと思ってくれていたのですかぁ?」
リアが冷めた目でそう言うと夫妻は黙り込んだ。さっき自分たちで『もう娘とは思わん』とか言ってたもんな。
だが、公爵も義母も諦めずに必死の形相で訴えかけてくる。
「もちろんだよ、親子じゃないか!」
「そうよ! 貴女は私の自慢の娘よ! 私がお腹を痛めて産んだのだもの!」
こいつら、命が惜しい(?)のか心にも無い事を行ってやがるな、母親の方に至ってはついに事実を自分からねじ曲げてきたぞ。
それにしてもこの状況って命乞いなんだろうか?俺様もう頭がどうにかなっちゃいそうなんだけど。
「そうですか……」
「アウレリア?」
「わかってくれたの?」
リアは顔を伏せてしばらく無言だった、やがて顔を上げて……。あ、ガチ切れの顔だこれ。
「私はお前らが全くわかんねぇんだよおおおおおおお!!! とりあえずいっぺん死ねえええええええええええ!!」
リアは怒りの形相と共に思い切りアクセルを吹かし、公爵夫妻へと俺様を突っ込ませた。
「ぎゃああああ!」
「きゃあああああ!」
ぷちっという嫌な音と、ガタゴトとタイヤに嫌な感触が残る……。
あのさぁ。このスキル、いくら死人は出なくても俺様の心に大ダメージなんだけど?デコトラに人権は無いのか!
【ご案内します。車に人権なんてあるわけないでしょう】
もうちょっと言い方に優しさが欲しいかなぁ【ガイドさん】!?
「お、バカ2人はっけーん」
リアは今度は王太子のエストマノワールと子爵令嬢のエステルだったか?に狙いを定めた、こいつらも公爵並みにリアの恨みを買っとるからな、ご愁傷さまだ。
止めてやりたいけど、リアに運転されてる俺様はどうしようもないのよね……。
今度はひと思いに撥ねたりはせず、ゆっくりゆっくりと2人を追い回す、結構残酷な所あったのね……。
「やめろ! やめてくれ!」
「お、王太子様! 待って! 助けて!」
「ええい邪魔をするな! 私まで轢かれる!」
2人は互いに助け合うどころか、王太子は助けを求める令嬢の手を振り払ったぞ……、こういう時にこそ人間性が出るなぁ。
「あらあら、それが真実の愛の姿? どうして助け合わないの?」
「助けて! 私が何をしたって言うのよ! 私も彼に見捨てられたのよ! あなたと同じなの! お願い死にたくない!」」
「あらそう、私は貴女の事なんか何も知らない。大丈夫大丈夫ー、どうせ生き返るから。まずは、お前からじゃああああああああ!!」
「ひいいいいいいいいい!」
令嬢は可憐な顔を歪ませ、ガンとフロントバンパーに当たった後、俺様の車体の下へと消えていった。ああ、ガリゴリと嫌なこすれて床を引きずる感触と音がする……。
「おいこら待てやボケ太子いいいいいいいいいい!」
「うわあああ!!」
リアさん!?メイドのケイトさんじゃないけど貴族令嬢らしいエレガントさを忘れないで!?
勢いのままに王太子を追いかけ回すにしてもせめてもうすこし落ち着つこ!?
「私が! どんな思いで! 今まで王太子妃教育を受けて来たと思ってるの! 少しは考えた事あるの!?」
「わ、わかってる! わかった! 結婚しよう! 私と! もうあんな女なんかどうでもいい!」
王太子の方は今度はリアに求婚し始めるし、命が助かるなら何でもいいんかい。肝心のリアはそれを聞いてイラッとした顔になった。まぁこれも当然である。
「婚約破棄したり結婚申し込んできたり忙しい男ねぇ貴方は! 人の上に立つなら行動に筋を通しなさいよ!」
「わかった! 心を入れ替える! 入れ替えるから! 信じてくれ!」
「信じられるか!! いっぺん死んで性根入れ替えなさい!」
気持ちはわかるが、あまりにも理不尽なリアのお言葉だった。
今度はぷちっとは行かずに跳ね飛ばされた勢いで思い切りフロントガラスにぶち当たった。
さすがのリアもフロントガラスで大の字にへばりつくちょっと薄くなった王太子を見たときは嫌な顔をしていた。
いやー良い感じに死んでるなー。すぐ治るんだろうけど気持ち悪いなー。
あ、【ガイドさん】がワイパーを操作して王太子の死体をぺしっと跳ね除けた。酷い、鳥のフンみたいな扱いだ。世の無常を感じるぜ。
付着している血も容赦無くウインドウォッシャーで綺麗にされていく。俺様の記憶も綺麗にならないだろうか……。
「ふぅ、ま、こんな所かしら?」
リアは一通り大暴れして気が済んだのか俺様を停車させた。周辺の死傷者はゼロなんだが大惨事……でもないよなこれ。
【ご案内します。皆様健康になったようで何よりです、心の健康のためには、まずは身体の健康からですからね】
「んー、良いことした後って気持ち良いねー!」
リアと【ガイドさん】のこの会話、頭おかしいよな? それとも俺様の感性がおかしいの? 皆の身体は傷ひとつ無いかも知れないけど、俺様の心は大ダメージを受けてるんだけどー!
【ご案内します。いいではありませんかジャバウォック様、皆様ちょっと健康になられたんですよ?】
「そういう問題……?ちなみにどれくらい健康になったんだよ」
【ご案内します。概算ですが、慢性的な睡眠不足が10分ほど仮眠したくらいにはマシになり、ちょっと肩こりが治ったり、腰痛がほんの少し改善されたくらいですね。なにしろLV1.05ですので】
わ、割に合わねぇ……。
次回、第17話「悪役令嬢、脱出ス」
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