第16話 不慮
まさか自分の曲が流れるなんて、誰が予想出来ただろう。
あれは某動画サイトからも削除していて、元々ファンも少なかったし、誰も保存なんてしているとは思わなかった。
なのにそんな、私の黒歴史ともいえる原点がこんなところに……!
聞き終える頃には、全身がぐちょぐちょになっていた。
「ふぅー、やっぱりこの曲はいつ聞いてもいいですね!」
「…………」
「先輩?」
「……消して」
「何をです?」
「それ。その曲。違法ダウンロードだよね」
「うげっ。な、な、なぜそれを⁈」
「私もその曲、聞いたことあるから」
「え⁈ そうだったんですか⁈ じゃあ先輩も知ってたんですね、伝説の歌い手ClearFlourさんを!」
「…………あんなの、伝説でもなんでもない。……ただの底辺歌い手でしょ」
目線を逸らし、透華は顔を顰める。
しかし生き別れの家族を見つけたかのように目を輝かせた神音には、何を言っても無駄だった。
「ClearFlour……、ほんとに良い名前ですよね」
「……そんなことないでしょ」
「いえいえ、漢字にすると透明な華ってことですよ? 先輩そんなことにも気づいてなかったんですか?」
「――っ⁈」
ぷぷぷと、口元に手を当て笑う神音は心底ウザかったが、もしや自分がClearFlourであるとバレたのではないかと冷汗が流れ、返す言葉もなかった。
視線だけを神音に向け、チラリと様子を伺う。
神音は頬を指先で押し、子細らしい素振りで独り言を呟いた。
「そういえばClearFlourさんの歌声って、透華先輩の声に似てますよね」
「――っ⁈」
「でもー、うーん。そうでもないのかも?」
「…………ふぅ」
「いや! やっぱり似てます! 明らかに!」
「――っ⁈」
「あ、でもちょっと違うか――」
神音の言葉に踊らされ、安堵の息を漏らした直後に体を強張らせる羽目になる。
そして遂に、透華の限界が来てしまった。
「もう! どっちなの⁈ 私がそのClearFlourだって気づいてるの⁈ 気づいてないの⁈」
気づけば、秘密が自制心をなくして口から飛び出していた。
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