第6話 カードパワーVS戦略

 いまだ余裕の態度をくずさないすぐる

 そのすずしげな表情をながめ、ごう合点がてんがいったとばかりに歓喜の声を上げた。


「そうか! ハッタリだ! 全部ハッタリだったんだ! そら見たことか。お前らがこのごう様に勝てるわけがねえんだよ! おい雑魚ザコ共! しっかり目に焼き付けとけ! これが王の座に君臨する者の力だ! ターンエンド。そして焼き尽くせ、ヴォルケーノ! あいつにづらをかかせてやれぇぇ!!」


 さけごう

 その最中さなかすぐるが何やら口を動かしているのが目に入った。

 しかし、ごうは自分のさけび声のせいで聞き取れなかったため、首をかしげ考えをめぐらす。

 先程の口の動きが何を意味するのかについて……。

 そして数秒後、すぐにまた不敵なみを浮かべ……。


「そうか、降参か。ま、これでよくわかっただろ。誰が最強か……」


 と、納得して酔いしれ出した。

 だが、次の瞬間しゅんかん


「カウンター……発動」


 すぐるの宣言がごうの言葉をさえぎった!

 とても落ち着きはらった口調……。

 しかし、その声はおぞましい程に冷たく、きもわっている……。

 そして直後、彼は手札から1枚選び取ると、ゆっくりとその表面おもてめんごうへと向けた。


「ウェーブを使用。ヴォルケーノを手札に戻せ」

「なっ!?」


 想定外の出来事に固まるごう

 その様子を見て、すぐるは口元をゆがめる。


「どうした? 効果がわからないのか? それとも、オレと同じようにカウンターで対処するか?」


 今までのお返しとばかりのあおり。

 無理もない。

 彼がこの瞬間しゅんかんをどれほど待ちびたか。

 この時のために、ひたすらえたのだ。

 本当はずっとすぐるの手の内であったのに、それをわからずおごごうや勝手に失望する観客のおろかさへ、どれだけ頭に来ようとも……!


 一方で、ごうは一言も返せず歯を食いしばっている。

 その様子を前にし、すぐるは頭を抱え、やれやれとばかりに首を左右に振り笑いをらす。

 そして数秒後、それを抑えつつ再び口を開いた。


「できるわけねえよなあ? だって、お前はそんなカード使わないだろうから。姑息こそくなカードと判断したお前が、デッキに入れるわけがない」


 一転して攻勢に立つすぐる

 対し、ごうはヴォルケーノを手札へ戻し、ギロリとにらむ。


「いい気になるなよ? こっちにはまだレッドドラゴンがいる。次のターンの攻撃でお前の負けだ。せいぜい足掻あがいてみせろ」


 負け惜しみにも似たセリフを受け、迎えたすぐるの5ターン目。

 彼は取捨選択を使用し手札を入れえると、自軍で攻撃した後にターンエンド。


 再び回ってきたごうのターン。

 彼は怒りに手を震わせ、手札から1枚を選び取り……。


「こんなにイラつかせてくれたのはお前が初めてだ。めてやる。ライフ1の雑魚ザコ共に使うには少々もったいないが、仕方ねえ。お前はそれに値すると認めてやるよ」


 そう言って、場へとたたき付けた!


「今度こそお前の陣営は全滅だ! 食らえ、業火ごうかっ!」


 光沢をまとうゴールドのサポートカード、業火ごうか

 その効果は強力で、相手のレプリカ全てに4ダメージを与えられる。


 目をギラつかせ喜ぶごう

 だが、次の瞬間しゅんかん

 その目に映ったのはすぐるが1枚のカードを選び取る姿。

 ごうにわかにあせり、目を見開き息をむ。

 しかし、もう遅い。


「カウンタースペルを使用。業火ごうかを捨て札へ」

「なっ!? ……くっ!」


 悲痛な声をらし、渋々しぶしぶ従うごう

 悔しさと共に、いよいよ怒りも頂点へと達する。


「好き放題やりやがって……! だが、こいつを忘れてねえか? レッドドラゴン。こいつの攻撃時効果でお前は負ける。念のために場を片付けておきたかったが、まあいい。これでトドメだ! 攻撃!」

「カウンター発動。バブル」

「うぐうぅ!」


 再三にわたる妨害に、さすがのごううめき声を上げた。

 すぐるの使用したカードにより、レッドドラゴンは1ターンの間だけ行動停止。

 他にできることもなく、ターンを渡すごう


 先程まで落胆らくたんしていた観客たちも、食い入るようにバトルを見守りだす。

 そして、6ターン目を迎えたすぐるは、1枚のカードを場に出した。


「風乗りを使用」


 効果により、すぐるは山札の上から5枚を公開し、その中から3枚を選び召喚しょうかん

 さらに、召喚しょうかん時の効果により手札も増える。

 そして、みるみる蒼褪あおざめてゆくごうへと、もう1枚カードを突き付けた。


「たった今、幼きエスパーの効果でサーチしたのを見てわかっただろう? ウェーブを使用。対象はレッドドラゴン」

「何でだ!? 強力なはずのプラチナカードが2枚とも、何で完封されてんだよ!? ブロンズ以下のカードなんかに……!」


 ごうが悲痛なさけびと共に、レッドドラゴンを手札へと戻す。

 観客たちは歓声を上げる。


 狼狽ろうばいし目を泳がすごう

 その様子をすぐる嘲笑あざわらう。


「だから言っただろう。カードゲームはレアリティで戦うもんじゃないって。見てみろよ、自分のライフ。毎ターン削られ続けて、もうたったの8だ。そして、このターンでさらに減る。プレイヤーへ総攻撃」


 先に召喚しょうかん済みの3体で攻撃し、ごうの残りライフはわずか5。

 返ってきたターンでごうは必死に打開しようと藻掻もがくものの、やはり手も足も出ず。

 次のターンで6体の総攻撃を受け、ついにそのライフは0となった。


 ごう愕然がくぜんとし、テーブルへとす。


ウソだ……こんなことあるわけがない……」


 譫言うわごとのようにつぶやき、いつまでも口をパクパクとさせている。

 その対面には堂々と立つすぐる

 そして、周囲でき上がる歓声の中、花織がすぐるへとけ寄った。


「すごかったです! こんな勝ち方があるなんて、全く気付きませんでした……。やっぱり、すぐるさんにお願いしてよかったです!」


 はしゃぐ花織が発したすぐるの名。

 それがごうの耳へと入る。


すぐる……。……すぐる? どこかで聞いたような……。どこかで……ッ!」


 思わず息をみ、飛び退ごう

 見開いたその目にすぐるの顔が映る。


「お、お前……! あの伝説の天才ゲーマー、すぐるか!?」


 ごう驚愕きょうがくのあまりさけび、周囲の人々がざわめく。

 携帯で調べだす者、その検索結果を見せてもらう者。

 正体を知った者たちからあこがれの眼差まなざしを受け、すぐる溜息ためいきく。


「やれやれ、バレたくなかったんだがなあ……」


 そう言ってチラリと視線を送ると、花織はうつむいた。


「……すみません」


 返された消え入りそうな声に、すぐるは再び溜息ためいきく。

 そしてその後、ごうへと向き直った。


「ま、そういうわけだ。相手がオレだったとわかれば納得できるだろう?」

「何だと? ふざけるな! 相手が誰だろうと負けた理由にはならねえんだよ! これで終わりだと思うな。次は絶対に勝つ!」


 そう怒鳴どなり散らし、ショップを出ていくごう

 それを見送ったのちすぐるは改めて花織へと向き直った。


「本題だが、オレはまだお前に力を貸すとは言ってない」

「え? ええ!?」


 不意を突く発言に戸惑とまどう花織。

 その目の前で、すぐるは冷たい表情を浮かべていた。

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