小説家になろう!

端谷 えむてー

ニートから作家志望



 『小説家になろう』

 日本有数のWeb小説サイト。

 現在作品数、90万以上。

 登録者、220万人以上。

 小説閲覧数25億PV以上。

 (2023年時点)


 サイト開設日 2004年 4月2日


 日本最大級のWeb小説サイト

パソコン、スマートフォンで誰でも無料で小説を投稿でき、『小説を読もう』にて投稿された小説を読むことができる。


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 学生時代、私、実空 千里みぞら ちさとは普通の学生だった。

 学力も平均点は取れてたし、運動は苦手だけど友達もいたし、充実した中学、高校生活は送っていたはずだった。

 しかし私は自宅警備員になった。アニメ見たり、ゲームしたり、ネット見たり、して、普通の大学に上がったが、私は何の気力もなく、家も貧乏って訳ではなかったので大人しく親のスネをかじることにした。


 でも、そろそろ職を探そうか


 もう、大学を卒業してから二年がたった。ずっと引きこもりのニートである。一年目は『働いたら負け』を本気で信じきっており、特になにもなかったのだが、ここ最近、少し親の目が痛くなってきた。でも働きたくはない。

 

「あっ忘れてた」


 新作のライトノベルを通販予約しようとネット通販サイト『アマ◯ン』を漁った。


「あ、これこれ」


 お目当ての角◯スニーカー文庫のライトノベルを予約。ついでに電◯文庫のライトノベルも購入した。



 私は購入したラノベのストーリーを忘れかけていたので、読み返してみることにして、本棚を漁った。


「あったー」


 私は『私の異世界転生記』というラノベを読んだ。巻数は四巻出ており数日後、新刊五巻が発売される楽しみだ。


 やっぱり作者の名島緑土なじまりょくど先生の書き方と、イラストのならずもの先生の描き癖がタイプである。

 本文を読み終わり、あとがきを読んでみることにし、最後の方のページを開いた。


『私の異世界転生記四巻を読んでくださった読者の皆様!本当にありがたい限りでございます!もしあとがきから読んでいただいている読者の方には悪いので、こちらでは核心的なネタバレは避けるようにしたいと思っていたす。思えば、『小説家になろう』から始まって単行本四巻発売ですか……。何だか感慨深いものですね。それでは内容の話題に移りましょうか……………………』


 名島先生はどうやら『小説家になろう』というWeb小説サイトから上がってきたようだ。夢がある。先生は元自宅警備員というので尚更だ。


「自宅警備員でも「執筆活動中」って名乗ればそれっぽくなるかな」


 面倒だが、パソコン内のメモデータを確認し、メアドを書き込みアカウントを作成した。


「これで、言い訳できる!脱ニート!」

 

 とっても不純である。まず、『小説家になろう』に投稿しても収益は出ないからニートはニートである。


 実際に小説を書いみることに、短編の異世界系のストーリー『私はあるあるらしく転生した』を『青空みるこ』として上げることにした。


 数時間後

 酷評を期待していたが、来なかった。

 コメント、レビュー、いいね、全く来なかった。


「え、これ何?読まれていないってこと?」


 評価してもらう以前に読んでもらえない。よく考えてみたらそうだ。わざわざ面白くもなさそうなあらすじ、タイトルを見て時間を割いて読もうと思うだろうか?少なくとも私は読まない。これは駄目だ。

 評価してもらわないと何が悪いかも分からない。


「こりゃまずいぞー」


 初投稿に大ゴケした。どうすれば良いのか分からないので知恵袋の助けを借りることにした。


『小説家になろうでの小説の書き方が分からないのですが。どうすれば良いでしょうか?』


 返信が来るのを待つ間にSNSを覗いた。

ならずもの先生がイラストを上げていた。今度アニメ化されるラノベのイラストだった。とても上手い。投稿には


『アニメ化おめでとー!!』


と共にイラストがそえられていた。どうやら、同業の友達の作品がアニメ化されたようでそのお祝いイラストのようだ。

 イラストとそれと共に載せられている文章の丁寧さの振り幅がすごい。今度このアニメ観てみよう。


 なんてしてたら、知恵袋に返信が届いていた。


『構成とかしっかりしないと』


『投稿時間とか気をつけろ』


『あとがきに……』


様々な返信を貰った。伊達にネットばかりやってない。

 

 貰ったアドバンスを参考にし、企画を立てて、読者を取る方法を調べ上げ、書いて書いて書きまくる。


 時間は無限にある。が、アニメやゲームをしてた時間は全てパソコンのテキストソフトとにらめっこする時間に変わっていた。


 完成まであとわずかと言ったところで、私は体調を崩した。熱も出たみたい。


「うー気持ち悪い」


「大丈夫?千里」


 母さんが看病してくれている本当にありがたい。親孝行したいという気持ちはあるが、やる金も能力もない。


「ん?このパソコンで何かやっていたの?」


「へ?い、いや……」


「パソコンもいいけど、少しくらいハロワとか行きなさいよ」


「はーい」


 母さんが去った後、私はSNSを見た。現在、ニートタイムだからか、誰も投稿していなくてつまらない。


 暇なので小説を書きたいが気力がないので諦めて寝ることにした。


「ピンポーン」


 家のチャイムが鳴った。恐らく配達だろうか、気にせず寝付くまでYouTubeを見ることにした。


「やっ。千里元気ー?」


 予想はことごとく外れてくれた。学生時代の友人、琴浦 夏美ことうら なつみが来た。


「元気に見える?」


「あはは、何でニートなのに体調壊すかな〜はいこれゼリー」


 夏美がみかんゼリーや天然水を買ってきてくれた。


「熱あんの?熱」


「ちょっとだけ」


「何度?」


「うーん。ここ数時間計ってないな」


 夏美は「よし計ろう」と体温計を取っていってくれた。

 私はその隙に『小説家になろう』を確認する。


「何も変わってねー。投稿されてる小説でも読もっかな」


 と言ってると夏美がもう帰ってきた。


「ん?何見てんの?あっ!それ『なろう』?私も読んでんでー」


といって、おすすめのランキング上位の作品を紹介してくれた。どれもこれも、書籍化、コミカライズ化、ましてやアニメ化しているものもあった。


「すごいなぁこの人達」


「まぁなぁ でも大体、なろうで数字取るんやったら異世界とかの方が絶対取れるで」


 そのことには大体予測がついていた。一応、書き始めたあの日からランキングは確認していたが上位ランキングの殆どは異世界系が掻っ攫っていたのだ。


「あとタイトルで話の内容分からすのが上の人はよくやってる。だから最近長いタイトルのアニメが多くなってんやろーな」


と夏美は数字を取る基礎知識を私に伝えてくれた。


「そうや!今度の夏コミ一緒に行こうや」


「夏コミ?」


 コミックマーケット。略してコミケ。東京にある東京ビッグサイトにて、年にお盆と年末の二回行われるヲタク達の祭りだ。


 日本から様々なバライティ豊かな漫画等の作品が集まるためヲタクいや戦士たちはそのために戦う。コミケに本気で向かった時のその現場はただただ過酷である。

 その中の『夏コミ』とはお盆に行われるコミケの略称である。


「あーええかなー暑いしダルいし」


「あっそうか。まぁ知ってたけど」


 やっぱり夏美はやりやすい。断っても大して嫌がりもしないので、気兼ねなく話すことができる。


「じゃ、ちゃんと栄養取れよニート君!」

 

 と吐き捨てて夏美は家へ帰った。


 夏コミか……。私には無理だ。ここ兵庫だし。東京までとても身体が持たない。


 数日後、体調が回復した私は小説の続きを書いていた。目標は一万文字に設定してどんどん書き進めていく。


「お姉ちゃんーそんなことしてる暇あるんだったら働けよー。就職しなくていいから家事だけでもーいっつも私がやってんだよー」


 高校生の妹こと琴音ことねが弱音を吐いていた。


「ごめん悪い。でも私何も出来ないけど」


「そんなわけないでしょ!お風呂でも洗って」


 数十分後


 琴音は驚愕していた。


「ねぇお姉ちゃん。お風呂を掃除してたなのよね?何でさらに汚くなっているの?」


「面目ない」


 琴音は溜息を吐いた。


「じゃあ料理でもしてよ」


「よし任せろ」


 数分後


 料理が完成したが、何故か琴音の顔はすごく怖かった。


「これ何?」


「カップラーメンカレー味」


「これは?」


「どん◯衛きつねうどん」


 琴音はまた溜息を吐き、


「お姉ちゃん。一生結婚できないよ」


 と吐き捨て、行ってしまった。


 立派(?)な家事をした後、私は小説を書いていた。しかし、発想が上手く思い浮かばず詰んでおり、夏美に相談することにした。自分が小説を書いてることがバレないように相談しなくては、


 夏美にLINEを送る。


『ちょっと相談が』


『ごめん仕事中』


 ニートタイムではないはずだが、残業でもしているのだろうか、そういえば夏美が何の仕事してるか私は知らなかった。


 しかし、困った。そうだ琴音に相談してみよう。


「大体そうゆう時は外出てリフレッシュも兼ねてネタ探しとかええんちゃうん?」


 全く参考にならなかった。外なんか誰が出るか。


 私は何も考えずに東京〜新大阪の東海道新幹線の景色の映像をじーっと観ていた。


 こんなときこそ、良いアイディアは出るもので、いい展開を思いつき、私はキーボードに手を置いた。


 この小説を書きはじめてから数週間が経った。私は小説設定を終え、あらすじ、あとがきも書き、あとは投稿ボタンを押すことだけが残されていた。


「我が小説よ!飛んでゆけーーー!!!」


 投稿が完了した。


 これが上手くいったら連載版を上げようと決めている。ぜひ書きたいが、上手くいかなかったら大人しくハロワ行こう。


 投稿が終わるとLINEが届いた。夏美からだ。


『最終確認だよー本当に夏コミ行かない?』


 何度言うたら分かるのだろうか。いかんちゅうたらいかんってのに。

なんて思っているとまた、通知だ。Xの方だ。


『ついに、このならずもの。コミケに参戦なのだ!みんなぜひ来て買えよー。脱ならずもの!』


と共に表紙が添付された投稿がされていた。


コミケ前日、朝。


「千里ー行くでー」


 夏美が私を呼んだ。


「畜生……クソ眠い」


 私は夏美に家から引っ張り出された。


「まさか、いきなり行くと言い出すとは……」


「まぁ色々あってね」


「てか外出れたんやね」


「舐めんな」


 とは言ってるが実際、行くと決めてから、かなりの努力をした。日差しに慣れたり、ネットカフェまで行ったり、近くのショッピングモールに行ったりした。ここ数日で疲労困憊だ。


「いやーこの日の為に仕事頑張ったよー」


「いやーそうやねー(お小遣い)」


 夏美が予約してくれていた東海道新幹線の予約席に座った。


「楽しみだねー千里と東京行けるなんて思わなかったよ」


「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」


「自宅警備員が外出て壊れてる……千里、駅弁食べな」


 夏美が新大阪駅で買ってきてくれたひっぱりたこ飯を頂いた。ボリューミーなたこがとても美味しい。沢山の旬の野菜が口の中を彩った。


「めっちゃ美味いなこれ」


「やろ」


 とても美味しいかったが、入れ物が荷物になった。割れ物注意だ。

 

 新幹線に乗って二時間半程。

 私達二人は東京に着いた。


「てか何で前日に来たの?」


と私は聞いた。


「理由一つ目は関西なんかに当日までいたら、戦場に乗り遅れてしまうから、そして二つ目は……」


 無駄に間を開ける。これが夏美の話し方だ。


「この日のうちに東京観光しよう」


「どっちが本命?」


「後者」


 自信満々でたった一言。彼女は言った。


 電車に揺られ約10分。


「ついに来てしまった……」


 電化製品とサブカルチャーの街、秋葉原。

 関西人はあまり行かないであろうヲタク憧れの聖地に私達は来た。


「ウヒョオオオオオオオオ!!!!!」


「そ、そんなにはしゃがないでー」


 猛スピードで走っていく夏美についていけず、私は一人になってしまった。


「はあ、はあ、あいつ、ヲタクだとは知ってたが、まさかここまでとは」


 私は息が上がって、座りこんでしまう。


「あ……あのー大丈夫ですか?」


 私に話しかけてきたのは体型はスリムで丸メガネをしており、服はチェック柄のを着ている男性だった。ヲタク中のヲタクの人がそこにいた。つまり、私も同類である。


「あ……ありがとうございます……」


 彼は水を買ってきてくれた。彼は命の恩人だ。


「へー千里さん転生記(私の異世界転生記の略称)読んでるんですか」


「はい、イラストのならずもの先生がコミケに参戦するって言ってたので」


 数分後、私と彼、嶋田 健二しまだ けんじさんは趣味が合い打ち解けた。流石は秋葉原である。


「そうか……ならずものさんか……そうだ。僕、サークルを作ってるですけど入ってみませんか? 今からオフ会もするんですけど」


 私は『ヲタクよ話さないか?』という女性も男性もいるヲタクサークルに招待された。しかも、オンラインでも会ったことない人とオフ会をするらしい。この人は何を考えてるのだろうか。いや、しかし……


「別に……良いですけど、私関西住まいだからそんなにオフ会とか出れないと思いますが」


「だからこそのサークルですよ。てかその言い方なら良いんですね!よし、みんなに知らせときます」


 健二曰く、このサークルのオフ会は大体がコミケ前の時期が多いらしい。理由は関西とかに住んでいる人もこの時期は東京に来るからである。だから別に関西住まいだからって心配することはなかったのだ。サークルに入ればチャットもできると。

 彼としてはここでこんな分かる人と別れるというのはなんだか勿体ないとのこと

らしい。


「では、行きましょうか」


 着いたのはメイドカフェだった。何だろうこうゆうシーンおれ◯もで見たことある。


「へーこの子が例の子?」


「可愛いー!おっぱいちっさ!」


 むかっ


「えー何歳なの?」


「24」


「見えねー」


 多数の声が一気に聞こえてくるが私は聖徳太子ではないので無論聞き取ることはできない。


「じゃあ、自己紹介でもしましょうか、まずは千里さんから」


と健二はまとめ上げた。流石である。


「えーと、『大空みるこ』こと、実空千里と申します。以後お見知り置きを」


 パチパチパチパチと拍手が起こった。


 その後、次々とメンバーが挨拶をした。


「じゃあ次私!私は『みどそん』こと緑ノ 紗千香みどりの さちか!よろしくー」


「次俺かな?俺は『アルカリ電池』こと熱田 雄二あつた ゆうじです!」


「私は『ナマケモノ』こと望月 知恵もちづき ちえでーす!」


 人が多い!とてもじゃないけど覚えることは難しいと悟った。


 緑ノ紗千香、熱田雄二、望月知恵、そして、『ケンタロウ』こと嶋田健二。この四名の名前を覚えることができた。


 オフ会途中。知恵が私に話しかけてくれた。


「大空みるこさんってあの『なろう』で投稿してた人ですよね」


「あっは、はい」


「あっやっぱりですか」


 健二も割って入ってきた。


「あの作品は完成度高かったですよー『なろう』であんな良い作品を読んだのはいつぶりだろう」


「うへへ、そんなにですか?ありがとうございます」


 知恵は私の手を握って言った。


「明日のコミケ、私、漫画出すから来てくれませんか?」


「あっはい喜んで!」


 と笑顔で返事をした後、背後から悪寒を感じた。


「お〜い。千里さん???」


 私の後ろには不気味な笑顔を浮かべた夏美が立っていた。


「なーに楽しそうなことやってんの!」


「いや、千里さんは大変話が合うので僕のサークルに招待したのです。ところでその大量の袋は?」


 健二が事細かく説明し、話の話題は夏美が持っていた大量の袋に移り変わる。


「むふふ……これを見よ!」


 そこにはゲーム、フィギュア、ラノベ、マンガ!数々のグッズがあった。


「こ、これは、是非僕達のサークルに入って下さい」


 健二の眼はとてつもなく輝いていた。メガネ越しでもそれは分かった。


「では、私の自己紹介をさせていただきます!『ふうりん』こと琴浦夏美でーす」


 その名前を聞いた途端サークル内はざわめき出した。


「ふうりん?」


「ふうりんさんって……」


「いや、まさか」


 そういえば、私が気になりながらも聞いたことがなかった質問を投げかけることにした。


「夏美って仕事何してたっけ?」


「えーーっと」


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 例のLINEをした時


『ちょっと相談が』


「千里めニートタイムを満喫しやがって」


 とつぶやきながら時計を見ると、


 19時。全然ニートタイムやないやん。


 「てか、締め切りやべーー間に合わねー」


 私はフリーランスでイラストレーターをやっていた。現在、あるラノベのイラストを描いており、締め切りが普通にヤバいのでニートのことを気にしている暇ではなかったのだ。


「ああーー駄目だ!どうしよう……全然追いつかないよぉー!」


 電話がかかってきた。相手は出版社だ。

 

『締め切りまでにはお願いしますね』


「あっはい、はい」


 出版社から圧をかけられた。しょっちゅう間に合ってないからだろう。

 その圧の恐怖に怯え、私は一応締め切りまでには間に合わせた。


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「あのLINE送ったときそんなことがあったんだ」


 夏美が溜息をついた。


「そうやねん。ごめんなぁーあんときはあんな態度とってぇ」


「ええよ。あんた高校ときもけっこー宿題忘れてたもんな」


 なんて、話してると紗千香が目を輝かせて夏美に言い寄ってきた。


「それにしてもあなたがふうりん先生なんですねーいやはやこんな姿をしていたとは……おっぱいがデカい……」


 こいつは胸しか見てないのか?


 彼女達の話を聞くに、夏美はかなりなの知れているイラストレーターのようだ。


「で、何の作品描いてるの?」


 夏美は自分のXアカウントを見せてくれた。


「アニメ化大作!『恋するだけで愛せない!』そういえば、千里も持ってたよね」


 すげぇ。


 私達はホテルに行った。明日の戦いに備えて早めに寝るために早めに戻ったのだ。


「千里、ずーっとパソコンカタカタして何してんの?」


「うーん」


 私は『小説家になろう』に上げる連載小説を書いていたのだ。そう、つまり……



 短編小説を上げてから丸一日後。

 私はごくりと唾を飲み、短編小説のランキングを覗いた。


 結果は日間ランキング三位だった。


「何だって?やったぁ!グッパイハロワ!」


 私は自らの決め事で、ハロワに行くことはなくなって、連載小説の作成に取り組むことになったのである。


 小説情報をクリックして、評判を確かめる。決して悪い評価ではなかった。


『テロップがおもしろいね』


『キャラクターがいい』


 たくさんの賞賛の声を頂いた。


「ぐへへへへへへへははへはへへへ」


「お姉ちゃんキモい」


 後ろを見ると、私を軽蔑した目で睨んでいる琴音がいた。


 姉妹の距離感が離れた気がするが、私は『小説家になろう』で小説を上げることが面白く感じていた。

 

 すごく楽しかったんだ。


 私は連載小説の書き方を調べた。

『毎日更新』?お安いご用である。

 

 こうして、毎日パソコンを見る生活が始まったのだ。


「へぇーで今日の分が、まだ書けてないん?」


 私は首を横に振った。


「書き溜めしてた」


 夏美に小説のデータを見せた。


「けっこー書いてんな、これここ押したらどうなるん」


「どうなると思う」


 夏美は笑っていたがその顔はどんどん怯える顔へと変わった。


 朝———


「ほーら!千里起きろ!」


「んー琴音、後五分……」


「琴音ちゃんじゃねーよ。てかお前、妹に起こしてもらってんのか?」


 今日は戦いの日だ。お目当ての同人誌を入手するため、私達は戦の準備を終え、始発の電車に乗った。


「人多い……」


 私はもうここで弱音を吐いていた。


「ふっ、弱者め」


 夏美は大学一年から毎年夏、冬とコミケに行っており、コミケ歴6年のベテランだ。私は大人しく彼女に着いて行くことにした。そして、電車はとうとう例の国際展示場駅に着いた。


「さぁ、千里、いよいよ始まるぞ」


「な、なにが?」


「コミックマーケット恒例!『始発ダッシュ』だ!」


 電車のドアが開いた途端、中に入っていたヲタク達は一斉に走り出した。


「おらおら!!醜いんじゃボケー!!」


と夏美は、彼らに早歩きに対抗する。私はこの激しさになす術なく流されてしまう。


「待ってー!夏美様ー!!」


 恒例のスポーツ。『始発ダッシュ』が終わり

そして、次に待っているのは猛暑での我慢大会だった。


「千里、コンビニ寄ろう」


 本気のコンビニでおにぎりや水など、朝食と熱中症予防グッズを入手し、東京ビックサイトへ向かった。


 我らが東京ビックサイトには長蛇の列ができていた。


「千里!現時刻は?」


 私はサッと腕時計を確認した。


「6時」


「行くぞ!コミックマーケットへ!」


 私達は列に並んだ。


 コミケの会場は10時からである。これから四時間、この猛暑に耐えなければならないのだ。


「何でこんな日にこんな晴れるかな?」


 私は弱音を吐きまくって干からびていた。夏美はコミケのカタログを入念にチェックし、何かぶつぶつ唱えている。私は、サークルのチャットを確認する。


 チャット内会話———————————


ケンタロウ『ナマケモノさんブースいい感じですか?』


ナマケモノ『ええ漫画ありますで。はようきてぇや』


アルカリ電池『まだ空いてないっすよw』


みどそん『てかみんなもう並んでる?』


大空みるこ『はい、今、ふうりんと並んでます』


しるこ『ふうりんさんなんで、今回のコミケださなかったんですか?』


軟骨『めっちゃ気になってました』


ふうりん『申し込み忘れてました』


名人『ドジっ子?』


ケンシロウ『今回のコミケで出してるのはナマケモノさんだけでしたよね』


ナマケモノ『名前は別名義だから気をつけてな』


パンパンボム『了解っす』


みどそん『うちら団体でも今度のコミケなんか出さへんの?』


アルカリ電池『大空さん、なんかストーリー考えてくださいよ。絵はナマケモノさんとふうりんが書いてー』


ふうりん『お前は何をするんだ』


ナマケモノ『お前は何をするんだ』


ケンタロウ『息合うねー』


きらら小僧『今、7時ですね。皆さん熱中症とか大丈夫ですか?』


ふうりん『冷えピタ貼ってる』


パンパンボム『ミニ扇風機有能っす』


ケンシロウ『おにぎりとか、栄養しっかり取っといてくださいね。倒れますよ』


みどそん『舐めんといてくださいよ何年目だと思ってるんですかぁー』


ナマケモノ『みんな大変そうだね』


アルカリ電池『ナマケモノさん僕達の分残しといてくださいよー』


ナマケモノ『えー数大丈夫かな?ふうりんさんってどのくらいの数コミケで用意してたー?』


ふうりん『覚えてないなー』


みどそん『ふうりんさんって壁だったよね』


ふうりん『そうだったねー』


きらら小僧『ちょっと読みたかった』


みどそん『冬出します?』


ふうりん『今のところ分からないかな?出したいけど』


ケンタロウ『大空氏!作品更新いつですか!』


大空みるこ『昨日、一応更新しました。今日も恐らく昨日と同じ時間帯になると思います』


ふうりん『ファン対応してる』


名人『そっちはリアルで話せますよねw』


ナマケモノ『あと何時間で開場てすか?』


軟骨『今、7時10分なんであと三時間くらいですね』


ケンタロウ『耐えるのきついですね』


アルカリ電池『しっかりカタログ見ときましょ』


ケンタロウ『皆さんどうゆうルートで行くのですか?』


みどそん『近く行くのでしたらちょっと回収してて欲しいです』


ナマケモノ『おい、みんな私のところには来てよ!』


名人『勿論行くけど』


アルカリ電池『でも、ナマケモノさん結構行列できそうですよね。今回も壁ですし』


ナマケモノ『私、初参戦なんだけど……』


ふうりん『大丈夫ですよー』


ケンタロウ『今みなさんどこにいますか?』


ふうりん『列』


みどそん『列』


アルカリ電池『列』


軟骨『列』


名人『列』


パンパンボム『列』


きらら小僧『列』


ケンタロウ『今、ビックサイトいない人は待機組ですか?』


偽善者『少なくとも僕はそうです』


ケンタロウ『了解!では現地にいる人はカタログに目を通してシュミレーションをしておきましょう!』


ふうりん『いま20回目(本日だけで)』


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 三十分程会話の会話がされ、今のところ一旦終わった。


 私はカタログにざっと目を通して、ならずもの先生の位置を確認。そして、見たことある人や好きの人の作品もゲットしようと、ルートを作成した。


「千里、水飲む?」


「あ、うんありがとう」


 私は水を口にの中に入れた。


「すごくぬるい……」


「あっ、それ何故か保冷バックに入れなかった水だ」


「何で入れなかったん」


 あっという間に二時間が経過した。かなり体力も消耗してるし、すごく臭い。

 

 暑い。怠い。臭い。


 苦痛三連コンボを喰らっていた私の精神は既にズタボロだった。しかし、周りのヲタク達は同人誌のため、せっかくの休みをこの祭典に費やして戦っているのだ。その愛。誠に素晴らしい限りだ。

 でも、東京は暑い。とても私には耐えられない。ヒートアイランド現象の影響だろうか。


「夏美、冷えピタ頂戴」


 夏美に手渡された冷えピタを額に貼る。すると、次第に冷気が私を救った。これがなかったら死んでただろう。


 そして、時間が経ち、時は十時となった。


「列を移動しまーす」


 スタッフの掛け声で夏美、周りのヲタクの目つきは明らかに変わった。臨戦準備。彼等はもう、いつでも行ける。


 そして、門が開いた。


 私と夏美は別行動をし、それぞれのルートに行くことにした。まずはならずもの先生のブースに行く。


「おらおらおら!」


 この時の私は覚醒していた。同人誌のために、巨漢なヲタクを次々にかけ分けていく、そして、目標のブースに来たら、


「おっ、みるこちゃんこと、千里ちゃんかな?早いねー。一番だよ」


 そのブースにはナマケモノこと、望月知恵さんがいた。


「え?ナマケモノさんじゃ?」


「その名前はサークルだけだよー絵書く時の名前は『ならずもの』。夏美ちゃんに聞いてなかった?」


 夏美のやつ、会ったこともあるし、知ってたのか……。


「とりあえず、混むだろうし、早めにしようか。一冊?」


「あ、はい一冊」


 私は料金を支払って同人誌を受け取った。


「そういえば『私の異世界転生記』また、近いうち六巻も発売するからお楽しみに」


 望月さんはにやけながら言った。


 そこから目当ての漫画を買って『ヲタクよ話さないか?』のメンバーで集まった。


「あれ?知恵さんは?」


「店番だと思いますけど」


 質問した雄二は「あっそっか」と呟いた。


「あっ!健二さんだ」


 健二も同人誌を持って集合した。そして、知恵以外のサークルメンバーが集合した。


「みなさんならずもの先生のブースは行きましたか?」


 ケンシロウが聞くと、

私は「はい、行きました」

紗千香は「入手成功!」

雄二は「一応」

夏美は「行ってねぇ」


 夏美のスマホに通知が来た。


「何だろう」


 内容は『何でお前だけ来てないねん』だった。


「じゃあコスプレでも見ようか!!」


と健二だけはしゃいでいた。


 色々な出会いが会ったコミケも終わり、私達は長居も出来ないので地元に帰った。


「ただいまー」


「まだ東京いてよかったのに」


 妹にそんなこと言われるとは……。


 コミケによって気力を使い果たした私はすっかりお部屋が相棒になっていた。

 小説もかなりのストックができて正直暇である。

 私はサークルのチャットを開いた。このニートタイムに誰かいるだろうか。

 すると、ふうりんとナマケモノがチャットをしていた。


チャット内会話————————————


ナマケモノ『締め切りいつなの?』


ふうりん『明日やばい』


ナマケモノ『私より怠けてるやん』


大空みるこ『そういえば、ナマケモノさんって関西すんでるんですか?』


ナマケモノ『そうやで、大阪』


ふうりん『結構近いな』


ナマケモノ『え?ふうりんとみるこは何処なん?』


大空みるこ『兵庫です』


ナマケモノ『広いわ』


ふうりん『大阪駅の近く』


ナマケモノ『尼崎らへんかな?』


ふうりん『うんその辺り』


ナマケモノ『関西人といえば偽善者さんは関西やったと思うで』


ふうりん『今度大阪とかで関西オフ会やりたいなぁ』


ナマケモノ『お前はその前に締め切りに間に合わせろ』


ふうりん『了解ーじゃ、作業戻る』


ナマケモノ『じゃあみるこちゃん。私も戻るわ』


大空みるこ『あっはい』


———————————————————


 私はとてつもない虚無感を感じた。いつまでも、『小説家になろう』に投稿なんかしてもニートなことには変わりない。

 しっかり働いてお金を稼いで自立できている人たちと関わっているとやはり自分が惨めに思う。こんなことになるのだったらサークルになんか入らなかったほうがよかったのかもしれない。

 

 これから私はしばらく、サークルから離れた。

 現実逃避精神で投稿は続ける。逃げたい逃げたい逃げたいただそれだけのために私は文を書いた。


「お姉ちゃん御飯……」


 いつしか琴音の声も聞こえなくなっていた。琴音は私と違ってしっかりしている。だから私とは違ってしっかりとした人間になるのだろう。そんな妹を見るだけでも自分の心にダメージが入る。


 私はとうとう部屋から出なくなっていた。琴音は立派でとても優しい。こんな私にも御飯を作ってくれて部屋の前に置いてくれる。私は琴音が作ってくれたオムレツを頬張って涙した。


 私はとっても格好の悪い姉だ。働けば、働けばいい話なのにその決心がつかない。まだ作家になれるとでも思っているのか?


 この生活が三ヶ月続いた。もう秋も過ぎて寒くなってるだろうか。連載小説の話数はとうに100を超えていた。まだまだストックはあるぞ……


【現実逃避して何になる?】


 私はテキストにこんなことを打っていた。


【何になるんだろう】


 画面には私と私の会話がどんどん書き込まれていく、そうだ、久しぶりに短編を出そう。私は打ち込んだ内容をそのまま投稿した。


 題名は『私』


 『私』を投稿してから丸一日が経った。思いの外、私のファンの人に読まれたみたい。しかしコメントは『何を書いてるか分からない』など良いものとは言えなかった。何書いてるかなんて私でも分からないのに。


 『私』はその謎すぎる怪文書から一部の間で話題になっているようだ。どうでもいい話である。


チャット内会話————————————


ケンタロウ『みるこさんが上げたこの『私』って何ですか?』


ナマケモノ『てか最近みるこちゃん見ないね』


ふうりん『あいつ、謎なところで病むから分からないんだよな。でも三ヶ月は流石に長い』


みどそん『いつもはどれくらい何ですか?』


ふうりん『二時間くらい?』


アルカリ電池『自分がニートだからって凹んでるんですかね』


ふうりん『まぁ働いてほしい気持ちは少しあるけど、そんな無理しなくてもいいような気もするけどねー』


———————————————————


 千里がとうとう壊れた。


 いつしかこうなるのではとは思っていた。


 しばらく、締め切りはないので、実空家に向かってみようかと足を運んでいた。


「こんちはー」


「あ、どうも夏美さん」


 琴音が出てくれた。礼儀正しくて良い妹だなぁと思った。


「お姉ちゃんは出てこれないんですけど」


「あーうんうん知ってる。あ、あとこれ」


 私は琴音に土産を手渡した。


「わーありがとうございます!」


 私は家に上がらせてもらった。


「ところでどうしてお姉ちゃんはあんなことになったのですか?」


「あー多分サークルメンバーの立派さに打たれたんじゃないの」


「サークルメンバー?」


 私は夏コミに行った時のことを事細かく琴音に説明した。


「そんなことが」


「うん、あいつコミュ力あんまないし、ニートってほら、立派な人見ると罪悪感感じちゃうんよ、知らんけど」


———————————————————


 もう何が怖いかも分からない。ただこの部屋から出たくなかった。もう人と会いたくない。私以外立派だ。生まれたての赤ん坊も五歳児も学生も駄目な政治家も私なんかより立派だ。


 突然連絡が来た。


「え、え、え、」


 目から汗が出て止まない。


「こらー千里」


「なつぅみぃぃいいいい!!ことねぇぇぇ!!!」


 私は顔をぐちゃぐちゃにして、二人に抱きついた。


 大空みるこ X公式アカウント 更新


 今回、『小説家になろう』で連載していた。『最弱な転生で不幸な私』が書籍化決定しましたー。

 本当にありがとうございます!!



 半年後。


 サークル関西メンバー私、夏美、知恵、そして、『偽善者』こと二宮 真希にのみや まきは大阪でオフ会をしていた。


「いやー遂に千里も脱ニートかー」


 夏美が親みたいな顔をしていた。


「おもろいもんなーコレ、絵師さんもええわー。『海老名楓』先生やで、豪華やわー」


 知恵は私の文よりイラストを褒めていた。絵師もここまで来るとこれになるらしい。


「本当におめでとうございます!いやーこんな豪華な人たちに囲まれてのオフ会なんて」


 真希は肩身を狭くしていた。


「大丈夫やで真希さん。まだコイツ新人やし」


 夏美は私を使ってフォローした。


「いや、でも『小説家になろう』で職を与えさせてもらえるとはこれはもう、梅崎祐輔さんと電◯文庫さんに感謝しかないです」


 私は照れながら言った。


 しかし、本当の戦いはこれからである。これから、彼女には売り上げ、評価というまた一つの現実と戦う羽目になるのだ。しかし、この先彼女は決して「小説家になんかなりたくなかった」とは思わないようにした。そんなことを思ってしまう自分を過去の自分が見たらどう思うか。そんなことを考えてしまってはとても感じが悪い。


「もし、自分と同じことに悩んでいた人がいたなら、過去のあの時の自分がいたなら貴方はどう言葉をかけますか?」


 という質問を彼女がされたとする。


 すると彼女は必ずこう答える。


「小説家になってみませんか」

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