第30話 自分の才能が怖い
私が現場に着くと戦闘の真っ最中だった。
レナちゃんがみんなに指示を出しながら華麗な連携攻撃を決めている。敵は複数体おり、一体一体は大した強さでは無いが数が多いのが厄介そうである。
戦っている姿を見ていてほしいとレナちゃんに言われたため、私は現場である廃工場の中を外から伺う形で観戦することにした。見られているのも気になるだろうから皆からは見えない位置からこっそり中を覗き込む。
「サクラちゃん、前に出過ぎです!ヒマリの進路の妨げになっています。周りを見て!」
「すみません!」
「るるちゃんは逆に引きすぎです。もう1歩前に出て!怯えが戦いに出ています!」
「…はい!」
レナちゃんは武器の薙刀で敵を薙ぎ払いながら周りに的確な注意や指示を出していた。
ミミィに言われるがまま勧誘したけれど彼女はとても優秀な人材だったようだ。私にはあんなこと到底出来ない。
ヒマリちゃんはローラースケートから出る衝撃派のようなものを使って数体同時にダメージを与えており、レミちゃんは薙刀での攻撃が一撃一撃が重い様で確実に敵を仕留めていっていた。相変わらず腰が引けているが。
とにかく3人ともちゃんと強いのだ。見ていて安心できるほどに。
レナちゃんの叱咤激励を受けつつサクラとるるちゃんも懸命に戦っている。レナちゃんの指導のおかげか徐々に動きが改善されているのが分かった。
私はこんなに戦略的に戦ったことがないから何も教えてあげることができなかった。レナちゃんが教えてくれることになったおかげで、2人の生存確率も跳ね上がったのではないだろうか。
着々と敵の数を減らしていっており、もうすぐ決着がつきそうだ。と安心したのも束の間、レナちゃんたちとサクラとるるちゃんのパートナーの妖精が一斉に騒ぎ出した。
「S級の『セカイの敵』が出現!ここに向かってる!」
いつも変な語尾をつけて喋っている癖にあまりの動揺からか普通に喋っている。魔法少女たちの表情も伺うと全員一様に絶望の表情を浮かべている。
「…ねぇミミィ。S級ってそんなにやばいの?」
「コトミだったら一撃ミィ。」
「そっか。」
レナちゃん達にはまだ雑魚の残党たちもいるだろうし、私が倒してあげるのが良いだろう。ひとまず敵の姿を探そうと私は空に飛び立った。
「ミミィ。そのS級のやつってどこにいるの?」
「丁度上空から降りてきてるミィ。」
ミミィにそう言われて上を見上げる。
上空にはイソギンチャクの成り損ないのような、触手がたくさん生えている塊が浮いていた。でかいな…。あと気持ちが悪い。
「でか…。きも…。とりあえずビーム打って大丈夫なやつ?ビームで焼ききれなくてに肉片とか落ちてこない?流石にトラウマになりそう。」
「出力強めに撃てば大丈夫ミィ。」
「分かった。」
この前レナちゃん達を助けた時にビームのコントロール方法がなんとなく掴めた気がする。
私は体に満ちるプリズマエナジーを感じながらステッキを回す。ステッキの先端に意識を向ける。力を溜めて、溜めて、溜めて…。
力のコントロールが効かなくなるギリギリまで溜めて…。
上に向って撃つ!
私の放ったビームは狙い通り『セカイの敵』に着弾する。
その瞬間、夜だったはずの空がこの辺り一体パッと明るくなり敵を消し炭にした。
「…。やっぱり『プリズマガール・コトミ』は天才ミィ。」
ミミィがちょっと引いたような声色でそう言った。
そんな言い方をするな。一番引いているのは私だ。
ーーーーーーーーーーー
とりあえず下に降りようと思い飛行高度を下げる。
地上に降りると焦った表情をしたレナちゃん達が走り寄ってきた。
「今の光はコトミさんが…?」
「あ…。うん。そうだよ…。」
皆一様に驚きの表情をしている。
「S級をい…一撃でってことですか?」
ヒマリちゃんが信じられないという表情で尋ねてくる。私も信じたくないよ。自分のビームにあんな出力があるなんて…。
「うん…。」
私が俯いて返事をするとミミィが間に割って入ってきた。
「こんなところでのんびりしている場合じゃないミィ。さっきの発信源がこことばれるのも時間の問題ミィ。早く場所を変えたほうがいいミィ。」
その通りである。警察やら野次馬やらが来てしまう。ちなみに過去に台風を晴らした時は辺りが警察に封鎖されていた。
「そうですね。私、姿を隠せる魔法を使えるので皆さんの姿をそれで隠します。一度その状態で先ほどの公園に戻りましょう。」
レミちゃんがそう言って呪文を唱え始めた。魔法少女の魔法って色々あるんだな。私たちに姿を隠せる魔法なんて使える機能が備わっていたことに驚きを隠せない。
本当に魔法少女について知らない事ばかりである。
私たちはレナちゃんに魔法を掛けてもらいコソコソと移動を始めた。
公園に向かう道中、警察や、野次馬であろう人があたりをうろうろしていて緊張が止まらない。『セカイの敵』を倒すためとはいえ流石にやりすぎた。
例の公園に到着して私たちは魔法と変身を解いて一息つく。
「怒涛の展開でしたね…。」
珍しく疲労の色が見えるサクラがそう言った。
全員が流石に疲れたという雰囲気を出している中、レナちゃんが手を叩いて「お疲れのところ申し訳ないけれど、今後の方針を決めましょう。」とキリッとした表情で言う。きっとこの子の学校でのあだ名は“委員長”だ。
「今日の戦いでコトミさん以外の弱点ははっきりしましたよね。と言うわけで皆さんには平日は夜の20時から、休日は朝から毎日集まって特訓することにしてもらいます。」
毎日特訓…。え?私もやるの?普通にバイトあるんだけど。と思い始めた瞬間、「あ、コトミさんは他の討伐でお忙しいと思うのでお付き合いいただかなくて大丈夫ですよ。でも、週に一回くらい様子を見に来てくれたら嬉しいです。」と言ってくれた。
よかった。レナちゃんが全てやってくれるのなら安心だ。私は週に1回だけ集まりに行けば良いのなら楽だ。これまでの生活をあまり変えなくて済んでありがたい。
レナちゃんは私以外のみんなに向き直って話を続ける。
「“かつてない強さを誇る『セカイの敵』”を倒すには、ミコトさんを主軸に私たちが援護するような戦い方をするのが理想です。でも、今のままでは足手纏いにしかなりません。だから1日でも早く強くなれるように頑張りましょう。」
レナちゃんがそう言うとるるちゃん以外のメンバーは拳を宙に向けて「おー!」と言った。るるちゃんはその様子を引いた目で見ている。
「詳しい詳細はLINEで共有するのでもう23時過ぎてしまったし早く帰りましょう。」
レナちゃんの一言により、やっとお開きの雰囲気になって少しホッとする。
「今日は警察がたくさん巡回しているみたいなので補導されないように気をつけてくださいね。」
レナちゃんが続けてみんなに言う。そうか、みんな18歳以下だから補導とかあるのか。魔法少女の討伐のために家からこっそり抜け出すのとか結構大変なんだろうなとちらりと思った。
私も皆と別れて一人帰路につく。本当に色々なことがあって疲れた。ご褒美にアイスでも買って帰ろうかと思いながらゆっくり歩いていると
「ねぇ、君ちょっといい?」 背後から知らない男の声で呼び止められる。
振り返ると警察の2人組が立っていた。
「君、中学生だよね?今何時かわかってるかな?」と諭すように話しかけてくる。
あぁ、声を掛けられたのがみんなと別れた後で良かった。
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