第18話 イストンゼム騎士団

 レスはテネを伴い、騎士団の訓練場にやってきた。出発前の準備をしているならここだろうとあたりを付けたのだ。レスが訓練場に入っていくと騎士たちは慌ただしそうに出兵の準備をしている。入口付近に重厚な白と黒を基調としてフルアーマーを身につけた白髪混じりの灰色の髪をした年配に男性を見つけた。


「スタンゼン団長」


 レスが声をかけると、イストンゼム騎士団団長のスタンゼンがレスのほうへ振り向いた。


「おお、レス君か」


「イストンツーで大変なことが起きてるようですね」


 レスとスタンゼンとはすでにミーナの模擬戦を通じて知り合った仲である。レス自身の強さも認められているが何よりもミーナの暴走を食い止めたことにスタンゼンからは深く感謝されている。ちなみに領主である侯爵とはまだ直接の面識をもったことはない。何度かもぎせんを見に来ようとしたようだがミーナに止められたようだ。


「そうなのだ。騎士団の分隊3つで鎮圧に向かわせることになったのだ」


「3分隊も?現地はかなり不味い状況なのですか?」


 イストンゼム騎士団は全7分隊で構成されている。団長を頂点に分隊を指揮する分隊長7名、分隊にはそれぞれ20名の騎士が所属する。騎士団に直轄される組織として一般兵科が存在し、必要に応じて各街の警備や遺跡の管理などを任せている。今回の魔物騒ぎで常時戦力である騎士団の約半分の戦力を派遣するということだ。


「冒険者と現地の兵士達で抑えているという情報は入ってきているが、冒険者もいて事態を収められない時点で早急な対策が必要と殿下が判断されてな。私も賛成した」


「なるほど」


 レスがスタンゼンの説明を聞き、少し考えこんでいると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「スタン!」


 銀髪の戦闘狂、ミーナである。


「はぁ。お嬢様、いかがされました?」


「私も派遣する分隊に加えなさい」


「ダメです。そもそも殿下がお許しになりません」


「………そう。本当にダメなのね?」


(あ、このお嬢様、1人で行くつもりだな。行動までの判断がすごい早いんだよね。このままじゃまずいな)


「ミーナ嬢、こんにちは。ちょっとそこでじっとしていてもらっていいですか。スタンゼン団長、ちょっといいですか?」


「何よレス。私に命令しないで」


「ん?レス君どうしたかね?」


 レスは、今にも飛び出していこうとしていたミーナを待たせ、スタンゼンと交渉することにした。


「このままじゃミーナお嬢様、1人でもイストンツーへ行ってしまいますよ」


「な!レス!」


 レスが進言したことにミーナが不満を表すが、間髪入れずに言葉を続ける。


「なのでここで提案です。今回の騎士団派遣ですが、僕も同行させて下さい」


「君が同行かね?我々としては君の強さを知っているので大変ありがたい申し出だが」


「お褒め頂き光栄です。それで僕が同行する代わりにミーナお嬢様の同行もお許し頂きたい。もちろん、ミーナお嬢様の側には必ず僕が付き、不足の事態が起こらないように全力を尽くします。いかがでしょうか」


「うーーむ。レス君が同行してくれるのは非常に心強いが、お嬢様を危険に晒すわけには」


「スタンゼン団長、ご存知だとは思いますが、ミーナお嬢様は十分にお強いです。そもそも危険などそうそうありません」


 レスはここ数ヶ月の模擬戦でミーナの実力を正確に把握している。自分がついていれば危険はなく、むしろかなりの戦力になるのだ。暴走されて状況をかき乱されるより断然よいと考えた。


「……確かにな。相分かった。それでは、これから相談をしてくる。流石に私の判断だけでは決められん。お嬢様もご一緒によろしいか?」


「わかったわ。レス…..ありがと」


「いえいえ。まずは侯爵様にお話しをしてきてください。侯爵様のお許しが絶対条件ですからね?」


 レスはそういうと準備を手伝うために訓練場の騎士達の元へ走っていくのだった。



 レスは騎士達と出発の準備を整え、スタンゼン団長とミーナを待っている間、お馴染みのグレン分隊長と今回の作戦について、会話をしていた。


「レス君も同行してくれるとなると、だいぶ余裕が生まれそうだな」


「出来るかぎり、お役に立ちますよ。それで作戦はどのような?」


「まず、遺跡の入口についたら魔物を抑えている冒険者と兵士達の所へ各分隊から5名程度を選抜して遊撃にてフォローへ入る。時間稼ぎだな。その間に3つの簡易櫓を入口を囲うように立てる。この櫓を元に広範囲へ魔物が出ないように防戦しつつ、入口をまずは囲ってしまう予定だ」


「たしかに。現時点では、遺跡内に魔物を押し返せるのか、それとも外で殲滅が必要なのかも判断出来ませんね。承知しました。あとで団長にもお話ししますが、状況によっては僕の魔導具を活かせるかもしれませんので貸し出し致します」


「ありがとう。そういえばレス君は魔導技師だったね。お嬢様との模擬戦ばかり見ていたら印象がないな」


 グレンがそう言って笑うと、レスは頭を掻きながら苦笑いする。そうこうしているとミーナ達が訓練場に戻ってきた。


「レス!お父様のお許しをもらえたわ。これで私も参加よ!」


 ミーナが笑みで結果報告をしてくる。後ろから苦笑いのスタンゼン団長が歩いてくる。


「よかったですね!でも俺から離れるのは禁止ですからね?」


「分かっているわ。よろしくね、レス」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「あ、あとこの件が落ち着いたらお父様がレスに会いたいそうよ。連れてくるようにと言われたわ。いままでも何度か言われていたのだけど今回は断れなかったわ」


「え、いままでも言われてたんですね?おっしゃっていただければいつでも会いにいきましたのに」


「いやよ。お父様に合わせたらレスに何を言うかわからないわ。模擬戦が出来なくなってしまったらいやだもの」


(なるほど。ミーナ嬢も色々考えて俺を侯爵と会わせないように動いてたわけね)


「わかりました。では、この件が落ち着きましたらお城へお伺いさせていただきます」


「よろしくね」


「よし。話はよいかな。それでは、お嬢様とレス君にはグレンの分隊に加わってもらう。基本はグレンの指示に従ってもらえるとありがたい」


 レスとミーナの話が落ち着いたタイミングでスタンゼンが話しかけてきた。どうやらグレン分隊長の分隊と行動を共にすることになるようだ。レスとしては非常にありがたい。


「承知しました。よろしくお願いします」


 レスは了承の意をスタンゼンに伝える。静かにスタンゼンが頷いた。


 スタンゼンが訓練場の入口に立ち、騎士達に向けて大きな声を張る。


「それでは騎士団諸君、準備はいいか?魔物どもを駆逐しにこれからイストンツーに向けて出発する!作戦は先に話たとおりだ。数時間程度の行軍だが、3分隊一列で移動を開始する。途中で冒険者とも合流予定だから認識しておくように」


 いよいよ、出発である。レスは改めて気を引き締めるのだった。

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