今川義元 海道一の名

@Radkaw66

第1話 福島

「おやおや、こちらにおられましたか。承芳様。」

「しっ!福島の足軽に聞かれるぞ。」

「えっ!!なんでございますかーー!!」


太原雪斎はわざと大声をだす。

この主従は不思議に軽い。軽いからこそ、この行動ができるのであろう。


梅岳承芳の兄、今川氏輝と今川彦五郎が急死したのは四日前のことである。

しかし病没ではない。

今川有力家臣、福島越前とその一派の暗殺だという。その知らせが雪斎のもとに入って一刻後には雪斎は承芳を連れて山奥の寺院に隠れていた。


「これからどうするというのだ。雪斎。隠しておっても我の耳にはすでに入っているぞ。」


承芳の目が暗闇の中で鋭く光る。


「流石は承芳様。お察しの通りです。」

「敵は北条か?」

「いえ、福島越前でございます。」


途端に承芳の顔が曇る。


「なんと…、馬廻り役の福島か。」

「左様でございます。」


ただこの時期、北条も承芳と敵対関係で福島と友好関係であり結局は同列なのである。


「しかし承芳様。北条が福島の後ろ盾ですぞ。」

「そうであろうな、我を殺し玄広恵探に跡を継がせ思うがままに今川家を操るつもりであろう。」

「それをただ指を咥えて眺めるばかりでは面白くありますまい。」

「それはわかっている。策は?」

「只今、丁度参ったところです。」


小屋の雨戸が勢いよく開け放たれた。


「んぁ?承芳様?」


岡部親綱である。

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