ノンフラット・アビリティー

三葉 空

第1章 変態野郎、参上

 青空の下、彼の周囲で緊迫した空気が漂う。


 そのプレッシャーに負けじと、彼は鋭く視線を走らせた――


「――水玉模様のパーンツ!」


 バキュン!とまるでピストルを撃つかのような手癖てくせを見せて叫ぶ。


「きゃあああああああああああああぁ!?」


 指摘された女子はひどく絶叫した。


「そこの君は赤!」


「ひっ!?」


「そこの君は黄色!」


「ぎゃっ!?」


「そして、君は……ヴァージンホワイト」


「はううううぅ……」


 言い終えた彼は、決まったとばかりに満足げにほくそ笑む。


「さてと……」


「……このバカ者がああああああぁ!」


 しかし直後、怒声と共に拳骨を食らう。


 脳天に叩き込まれ、大いに意識が揺らいだ。


「あへぇあ、あへぇあ……」


 フラフラと千鳥足になる彼の胸倉を掴み引き寄せるのは、屈強で精悍せいかんな男。


桜井さくらい、お前は何度言えば分かるんだ? 能力を犯罪に使うことは許されんぞ!」


「……イテテ。犯罪って、ちょっとばかし、おパンティーを覗いただけじゃ~ん」


「だから、それは立派な犯罪だ。現に被害者たちの表情を見ろ」


「んっ?」


「お前の目に、彼女たちの表情がどう写る?」


「えっ、何か喜んでいたりする?」


 ゴチィン!


「バカ者がぁ!」


「声がデケェよ!」


「お前は態度がデカい! 他人様に迷惑をかけておいて、何だそれは!」


「ちっ……」


 彼は舌を打つと、その目線をスッと、目の前の男の股間に移した。


「……ふっ」


 そして、一転して不敵に笑う。


「何だ?」


大石おおいし、お前は図体がデカい割に……」


「何だ?」


「ホー◯ーだな」


「なっ……!?」


 片やニヤつき、片やヒヤつき。


「バッ、バババ、バカ者があああああああああああああああぁ!」


 最大限の怒声と共に、最大限のゲンコツが叩き込まれた。


「おふっ……」




      ◇




 カンッ、カンッ、とチョークが小気味よい音を立てる。


「30年前、超能力者による暴動が起きました。これを『サイコパニック』と言います」


 メガネで黒髪、いかにもマジメ。


 小柄で、しかし意外にもグラマーな体つきに、少なからずファンがいる。


 このクラスの担任であり、社会科の教師、国松鈴音くにまつすずねは、明朗に語り続ける。


「これをきっかけに、超能力者を規制する、あらゆる法律、体制が整備されました」


 しとやかながら、よく通る声。


「ちなみに、失礼ながら、このクラスにも能力者が1人います。名指しするのは申し訳ないけど……桜井一哉かずやくん」


「んおっ?」


 呼ばれた彼は、のんきに振り向く。


「話せる範囲で良いから、今の君の心境を聞かせてもらえるかしら? 能力者として生まれたがゆえに、きっと窮屈きゅうくつな思いを……」


「いや、もう最高よ」


「へっ?」


「だって、みんなの憧れ、くにまっちゃんのおパンティーが拝めるからさ」


「ひょえっ!?」


「へぇ~、強烈なワインレッドか……見た目ちいさくてロリっぽいけど、さすが大人の女。まあ、おっぱいデケえもんな」


「な、ななっ……」


「先生、今晩は、彼氏とデートですか?」


 ズカズカズカ!


「んっ?」


 ドゴオオオオオオォン!


「ほげっ!?」


 またしても、特大の拳骨が叩き込まれる。


「この、バカ者が! 担任の教師を相手に堂々とセクハラ発言をするな!」


「おい、ムサいおっさんが爽やかな少年少女の教室に入って来るんじゃねえよ、空気が汚れる」


「汚しているのはお前だろうが、この変態め」


「だって、しゃーねーじゃん。俺、思春期まっさかり、男子高校生だし♪」


「だとしても、その性欲を丸出しにするな、恥ずかしい」


「黙れ、ホー◯ー」


「キサマッ……」


 すると、教室内でクスクス笑いが起きる。


 大石の顔がみるみる内に赤く染まった。


「くにまっちゃん、良い歳してホー◯ーの男とかどうよ? てか、くにまっちゃんの彼氏はちゃんと剥けて……」


 ゴチイイイイイイィン!


「はうッ!?」


 羞恥が瞬時に怒りに転換し、超特大の拳骨を食らった。


「……このバカ者が」


 その呆れ声は、彼の耳に届かなかった。







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