第3話 魔王領の黄昏

 陰る空を見ながら、魔王侍従のゴラムはうなだれる四天王らと共に魔王の間の控室で回復の知らせを待っていた。その空気は沈鬱だったが、ゴラムは必ず魔王陛下は回復されると告げた。


「我々がふがいないばかりにこのようなことに・・・」

 四天王筆頭のカイルはじっと魔王の間の扉を見つめていた。

「そのようなことは今更お前が嘆いたところで変わることではない。情けない顔をするな。

 今大事なのはこのことが人間らに漏れることだ。万が一に備え、帝国軍への警戒レベルは最大にして、これを維持するのだ」


 カイルと彼の後ろで控えていた三人はゴラムのその言葉に顔を上げた。

「このような時に泣き言など、申し訳ありません」

 それを聞いてゴラムは頷いた。

「わしはこれからここでで陛下の目覚めを待つ。それまでは、お前たちに魔王領の防衛を任す。

 いつまでも陛下頼みでやっていては、陛下が休まる時がないではないか。私からは指示は出さない。お前たちが戦略を立て、万全の防衛体制を作るのだ。わかったら、直ちに任務に就け」

 ハッ、と四天王は一礼し、控室を出て行った。


 ゴラムは彼らにそういったものの、落ち着かず、魔王の間のドアを開け、魔王に侍る医師に訊ねた。

「陛下のお体はどのようなご様子なのだ」

「大きな身体的なダメージはありませんが、頭部への衝撃で意識が戻らないご様子です。

 原因がわからず、我々も治療については色々と検討はしているのですが、万が一、無用な効果のない治療を行い、致命的な副作用があってはならないので、現状は自然に意識が戻るのを待つことが最良の手段という意見で一致しております」

「うむ、確かに汝らの申す通り、魔王陛下のお体は特別で、我々などとは比較にならぬほど強靭で能力も桁違い。

 そう考えれば、通常の治療はあまり意味がないだろう。しかし、自然に意識が戻るのを待つのが最良とはわかっていても、不安はぬぐえぬものじゃな」

 何かあれば、すぐに知らせよ、と医師に告げると、ゴラムは控えの間に戻った。


 幸いにして魔王陛下が勇者を退けたことで帝国兵は一斉に退却したものの、勇者を捕えたわけでも、倒したわけでもない。勇者の傷が癒えるかすれば、帝国はまた、魔族討伐に帝国軍を差し向けるのは間違いない。

 今回は四天王を帝国兵が釘付けにし、魔王陛下への直接攻撃を勇者に可能にさせるまでになっている。帝国の皇帝は先の勇者であり、今の勇者がその力を蓄えるまで、魔族領攻略のための作戦を練っていたことは間違いない。

 しばらくはこちらの勢力の増大を防ぐための小競り合いを仕掛けてくるくらいだろうが、勇者のダメージからの回復は本人の能力と帝国の医療技術を考えれば、そう先のこととは考えにくい。


 ゴラムは額に手をやり、いかに帝国軍と勇者を退けるかを考えると最悪どこまで食い止められるかを考えるしかなかった。意識の戻らぬ魔王陛下とともに、退く拠点の候補地を探す必要を考えた。

 黄昏の淡い光が、魔族領の地図を広げて見つめるゴラムの横顔を照らしていた。

 

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