或る書に曰く

漣翠

第1話 或る書に曰く




 一書あるふみはく、天神あまつかみ経津主神ふつぬしのかみ武甕槌神たけみかづちのかみつかはして、葦原中国あしはらのなかつくに平定しづめしむ。

時にふたはしらかみまうさく「あめに悪しき神有り。名を天津甕星あまつみかほしふ。またの名は天香香背男あまのかかせおふ。づ、此の神をつみなひて、しかうして後にくだりて葦原中国あしはらのなかつくにはらはむ」とまうす。

                『日本書紀にほんしょき巻第二まきのだいにより』



 正史である日本書紀には、朝廷支配の歴史的正統性を記述する際に、大王家、各豪族家に伝わる断簡に書かれていた古伝についても、傍証として記述すべきという姿勢が取られた。

そうした正史とは異なる内容については異聞として、『一書に曰く』と正文の横に一文が書き加えられている。

これは後に天津甕星と呼ばれ、正史の中に「一書」として記述されるに至った、一人の少年を巡る物語である。

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