第17話 賄賂と脅迫

 私は、どうして拓人と別れることになっちゃったんだろう。斉木さんとは不倫なんてしていないのに。何回も会社に、そう言ったけど信じてもらえなかった。そして、多くの女性社員から、体を使って男を誘惑する尻軽女って、いじめられて会社も辞めた。


 どうして、してもいないことで責められなければいけないの。心がすり切れてしまい、部屋に閉じこもる日々を過ごした。ただ、3ヶ月ぐらい経ってから、冷静に振り返ってみると、気になったことがあったの。


 斉木さんは、どうして、私と不倫をしたなんて嘘を言ったんだろう? そもそも、一緒に寝てもいないのに、私と斉木さんが寝ている写真が出回ったのだろう?


 写真のことはわからないけど、斉木さんが私と不倫したといったのだから、まず斉木さんに確認することから始めるしかないわね。


 そこで、私は、マスクをし、ニット帽を深々と被り、会社の近くで斉木さんを待ち伏せていた。そうすると、19時ぐらいに、数人の社員と斉木さんが出てきたの。


「部長、今回のプレゼンはうまくいきましたね。絶対に受注ですよ。」

「その可能性は高いが、まだ安心するな。安心してると、競合から足をすくわれるぞ。」


 え、斉木さんは部長に昇格している? 処分を受けて、まだ半年も経っていないのに昇格するなんて、おかしい。何かあるに違いないわ。でも、考えていても進まないので、後日、斉木さん1人で会社から出てくるところに声をかけ、話しかけたの。


「斉木さん、どうして、私と不倫してるなんて嘘をいったんですか? しかも、私から誘って、断りきれなかったなんて。」

「三上さん、僕に近づかないでくださいよ。まだ関係が続いていたなんて言われたら、大問題になるじゃないですか。」

「私にとっては、すでに大問題になってるんですよ。会社を辞めることになってるんですよ。どうして、嘘をついたんですか?」

「嘘じゃないでしょ。あなたが、毎日のように誘ってきて困ってたんですよ。まだ、僕にまとわりつくんですか? 離れてください。あなたとは、もう関係なんだから。」

「ひどい。」


 なんで、あんなに頑なに嘘をつくんだろう? 私は、お父さんに頼んで探偵を雇い、斉木さんの身辺を洗ったの。


 お父さんは、お金持ちだから、可愛い娘のお願いならなんでも聞いてくれる。前の会社に入る時も、口を聞いてくれた。そして、評判の探偵を紹介してくれた。


 探偵が調べたところによると、斉木さんが付き合っていたのは、今の社長の娘というじゃない。だから、言えなかったのね。そして、おそらく、今でも社長の娘と付き合っているのよ。だから部長に昇格したんだわ。


 また、常務も、それを知って、本当のことを言わないという条件で、私を推薦した責任を問われていないんだと思う。みんなが、社長の娘を守ったんだ。お父さんの影響力を無視してまでも、守る価値があったんだ。


 でも、そうだとしても、どうして私との不倫なんていう話しになったんだろう? 別に、そんな騒動を起こさずに、社長の娘と付き合っておけばいいのに。


 おそらく、社長の娘との関係が誰かにバレたんだわ。だから、別の誰かにすり替えて、社長の娘を守ろうと。そうに違いない。


 また、探偵の調べによると、今回の不倫騒動で、斉木さんは奥様と離婚したとのこと。そうなると、社長の娘と結婚できる状態にある。全て、社長の娘に都合のいい結果になってる。


 それなら、私の顔が写った写真をばら撒く理由もわかる。写真が出回る前から、巧妙な策が巡らされていたのね。


 私は、利用されただけ。さらに、斉木さんの奥様から何もアクセスはないけど、今後、不倫で私が奥様から訴えられる可能性もある。その場合も、社長の娘は守られている。


 拓人には、最近、親しくしている木本さんという女性がいるけど、この人は関係ないでしょうね。冷たい感じで、垢抜けないっていうか、拓人の好みとは違うし、拓人も、距離を置いているみたい。


 多分、彼女がいなくなって、近寄ってきたハエのようなもので、私とは関係ないでしょ。


 いろいろ考えていくうちに、私は、斉木さんと社長の娘への怒りが抑えられなくなった。復讐をしないと気持ちを抑えられない。また、私は不倫なんてしていないということも明らかにする必要がある。


「斉木くん、私のところに、斉木くんが、私の娘以外の女性とホテルに一緒に入っていくのを見たという匿名の手紙が届いたんだ。斉木くんを疑っているわけじゃないんだけど、そんなことはないんだよね。」

「社長、そんなことあるはずないじゃないですか。そういえば、先日、三木さんが私のところに文句を言ってきたので、嫌がらせでそんなことをしたんじゃないかと思うのですが。」

「三木さんとは、まだ関係が続いているなんてことはないんだよね。」

「もちろんですよ。そもそも、三木さんとは、最初からなんの関係もないですし。お嬢様にはご迷惑をおかけしましたが、あの写真の件は本当に迷惑していますよ。誰があんな写真をばら撒いたんでしょうね。あれから次の攻撃はないので何もしていませんが、あの写真の件も再調査する必要もあるかもしれません。ところで、三木さんに、何か手を打ちますか?」

「まだ、誰の仕業かわからないし、様子をみることにしておこう。娘のことは頼むよ。不安にさせないでくれ。」

「承知しました。」

 

 私には、お金持ちの父という強い武器がある。これを使わない手はない。そこで、まず、斉木さんには痴漢容疑をかけることにした。


「ここに10万円があるわ。あなたが、斉木さんという人に近づき、痴漢だと騒ぐだけで、このお金はあげる。どう、簡単でしょ。」

「斉木さんって、どんな人なの?」

「私に嘘の噂を流して、会社を辞めさせたひどい人。でも、女子高生のあなたは、それ以上、知らなくていいわ。」

「まあ、10万円もらえるなら、どうでもいいか。やる。この写真の人ね。何時のどこに行けばいいの?」

「まず朝8時に吉祥寺の駅で待ち合わせましょう。この人は、こんな時代でも毎日会社に朝から行っているのよ。私がこの人だっていうから、その人の後ろをついていき、どこかで抜かして。その時に、お尻を触られたって騒ぐの。わかった?」

「大丈夫。そのぐらいならできる。そして、大騒ぎをして周りの人を集めて、逃げられないようにしてから警察を呼べばいいのね。」

「よくわかってるわね。そのとおり。じゃあ、明日、また、吉祥寺の駅で会いましょう。私は後ろから見てるから、成功したら、このお金をあげる。」

「わかった。」


 女子高生は、器用に言われたとおりのことを実行し、斉木は警察に連行されて行った。その後、どうなったかはわからないけど、社長が手を回したのか、すぐに釈放されたらしい。


 こんなんじゃ足りないのね。そこで、次は、どうしようかしら。横領とかだと、また社内でもみ消されちゃうから、役人への賄賂とかがいいわね。さらに、社長の娘が暴力団に手を回し、そのお役人を脅してるなんてなったら、マスコミも大騒ぎよね。


 そんなことになれば、あの会社もタダじゃ済まないけど、私には関係ないもの。


 そこで、探偵を通じて、ハッキングに強い人を紹介してもらい、斉木さんのメールから役人に、斉木さんが進めている公共案件のプロジェクトを受注させろと伝えた。また、その見返りとして800万円を渡すと書き、斉木さんが会社の口座から架空会社にその金額を動かし、そこから、役人の口座に振り込んでおいた。


 さらに、社長の娘のメールから、ある暴力団組員に、その役人の息子を脅すよう指示し、それができれば500万円を渡すと伝えた。暴力団組員の動きは早かったわ。


「幼稚園に通うあなたの息子さんは、今日は可愛い緑のベストを着てますね。すでにお金は振り込んだし、公共案件は斉木さんの会社に受注させないと、息子さんがどうなるかわからないことをご理解ください。」という手紙を、宛名もない封筒に入れて、その役人の家のポストに投函した。


 その役人は、息子の件には大きな恐怖を感じたようだけど、賄賂をもらう度胸はなく、警察に、斉木という人から脅迫され、賄賂も送られてきたと通報したの。


 私も、さっきのハッカーを通じて、メールとか、いろいろな証拠を匿名で警察に送っておいたわ。


 マスコミは毎日のように報道し、大騒ぎになった。そして、私が前いた会社の組織ぐるみの賄賂であり、さらに、社長の娘が、付き合っている斉木さんからの依頼を受けて暴力団を使い、脅迫していたということで、社長、その娘、斉木さんは逮捕された。


 また、その過程で、斉木さんと社長の娘が長年付き合っているとマスコミでも公表され、さすがにベットの写真は出なかったけど、社内で流れた海外旅行の写真で、斉木さんが社長の娘と写っているのが週刊誌に出たの。


 これで、知っている人しか気づかなかったと思うけど、あの写真で私は一緒じゃなかった、私の写真はフェイクだったということが明確にできたわ。


 私を敵に回すから、こんなことになるのよ。思い知ったでしょ。


 ところで、私は、この件を通じて、探偵業務にすごく興味をもった。場合によっては、やりたいことを実現するための手段にもなる。今回、使った探偵事務所にお願いして、修行をさせてもらうことにしたわ。

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