第7話 グルメ会

 今夜は、美鈴が誘ってくれた日本酒の会に来ていたの。現実世界での飲み会だって聞いて、面倒だから迷ったけど、興味があったから、重い腰を上げて参加してみた。


 一般に公開されていないお店ということで、駒込駅で全員が集まって、そこから主催者がお店まで連れていってくれた。駅から歩いて5分ぐらいだったかな。非公開のお店だから、お店を外から写真で撮るのは禁止だって。


 美鈴以外は、誰も知らない人たち。立食で、美鈴が言っていたとおり30人ぐらいいる。大体、2人ぐらいの友人で来ていて、男女の友人もいれば、男性2人とか女性2人とか、色々って感じ。


 お店に着くと、丸いスタンドテーブルが10個ぐらいあって、壁側のガラス張りの冷蔵庫には日本酒の一升瓶がいっぱい並んでいた。これが、飲み放題っていっていたやつね。確かに、聞いたこともない銘柄も、有名な銘柄もいっぱいある。


 そんなに飲めないから、飲み放題でもとが取れるかはわからないと思っていたら、主催者が、日本酒を飲んだら、同じだけ水を飲みましょう、そうしたら酔わないからと言っていた。本当かしら。でも、多くの銘柄を飲んでみたいから試してみるわ。


 主催者がお店の方を紹介し、乾杯の発声で始まった。


「お嬢さんたち、2人なの? ここ初めて?」

「ええ。」

「そうなんだ。現実世界っていうのが変わってるよね。でも、これって、このお店が、それぞれの日本酒の微妙な味の違いを知ってもらいたいからなんだって。やっぱり、いくらメタバースがすごいからといって、限界もあるのかなって思っちゃった。」

「そうなんですね。今、飲んでる銘柄、結構、甘めですね。」

「そうそう。これって、今出てきた前菜に合うからって勧められたんだ。なんか、食前酒のようで、合うよね。」

「美味しい。そう、水も飲まないと。」


 知らない人でも、お酒の味とかを話題に、話しを続けることができた。そして、美鈴には、ずっと一緒にいてねなんて言ったけど、男性しかいないところとか、テーブルを回ることにしたの。美鈴も、いろいろな人と話していたし。


 まず最初のテーブルに入ろうとしたら、すでにそのテーブルにいた女性がぶつかってきたの。いかにも、ここに入るなって。


「あれ、このテーブルに入る? おいでよ。初めて会うんじゃないかと思うけど、今回は、誰の紹介?」

「美鈴の。」

「あ、美鈴さんのね。入っておいでよ。いいだろ、美奈。」

「あら、素敵なお嬢さんね。ぜひ、お話ししましょう。はいはい。」


 さっき、ぶつかってきた女性は、男性の前では、そんな様子は全く見せずに、良い女性を演じてる。だから、女性って嫌なの。


 なんか、品はあるんだけど、裏表があるって感じ。男性の前では、ビジネスの話しとか、高尚な話しをしてる。でも、笑顔で、私のことを立てながら、でてけオーラがすごい。


 例えば、電気自動車の蓄電池のリユースにとって、レアメタルとか重要だけど、今、どの国が今後、重要視されるかって。そんなこと答えられるはずがないじゃないの。それをわかって私に話題を振って、お若いお嬢さんに無理なこと言ってごめんなさいって。


 私には、このテーブルの話しにはついていけないって言ってるの。本当に意地悪なんだから。そもそも、この会で、そんな話しを男性は聞きたいの? 私のように可愛い、若い女性と、たわいもない話しをして楽しみたいだけじゃないの?


 そういうことじゃないのよね。私をこのテーブルから追い出したいだけ。そんな邪念が浮かんでるわよ。前の男性も、そんなこと気づいているんじゃないかしら。


 テーブルに参加して少しお話ししたけど、横の女性が怖いので、早々に退散することにしたわ。どうも、その女性、目の前の男性を狙ってるようだし。別に私の好みの男性じゃないし、変に邪魔するメリットはないから。


 でも、もう少し、心穏やかに飲めないのかしら。男性とか、女性とか考えずに。30歳ぐらいまでに結婚したくて焦ってるのもわかるけど、見苦しいでしょ。おばさん。


 次に、男性2人のテーブルに行ってみた。ここなら、女性の邪魔することないし。


「僕は、休日とかは、旅行とかに行って、風景写真とか撮るのが趣味なんだ。この紅葉の写真とかは、東北の中尊寺金色堂で撮ったんだけど、綺麗でしょう。やっぱり、こんな世の中になっても、自然は美しくて素晴らしいね。」

「そう・・・」


 その時、横から、はだけたワンピをきた女性が割り込んできたの。


「飲んでる? あら、綺麗な写真じゃない。こんな素敵な写真って、どう撮るの?」

「僕の技術というよりは、カメラがいいのかな。今どき、スマホでも十分、綺麗なんだけど、高級コンデジって知ってる? SONYの持ってるんだけど、小さくて、少し重いけど、スマホでは撮れない写真を撮れるから、今、一番はまってるんだ。」

「すご〜い。」

「ちょっと、トイレに行ってくるね。帰ってきたら、また写真の話しを聞いてよ。」

「分かった。待ってるね。」


 なんか、気分悪い。割り込んできたこともそうだけど、なんか女を出してるっていうか、なに、このミニスカートは。私はエッチがしたいって言ってるみたいで下品。


 体が自慢だから、それを武器にしたいって気持ちはわかるわよ。でも、こんなにはだけて、体を見せつけるなんて、気持ち悪いでしょ。なんか、下着の下にある、グロテスクな姿を想像しちゃったじゃないの。吐きそう。


 そして、男性がトイレに行くと、私は無視で、スマホばかり見てる。でも、顔を上げ、私のことを頭の上から足まで見て、私に命令してきた。


「あのさ、邪魔だから、あのテーブルにでも消えてよ。どうせ、紅葉の写真とか興味ないでしょ。あんたさ、トップスとイヤリングの組み合わせ、ダサくない? 見てるだけで、庶民って感じで、一緒にいるのは気分が悪いわ。ここは、あなたのようなゴミが来れるところじゃないんだけど。」


 そう言って、太った男性2人がいるテーブルに顎を向けた。別に、その男性たちに興味がないわけじゃないけど、別に、目の前の女性に命令されるいわれもない。


 腹が立ったので、目の前にあるトマトソースのスパゲティを目の前の女性の顔にぶつけた。そう、あなたの無礼な態度には、当然の報いね。


「何するのよ。」


 彼女は私の頬を叩き、髪を掴んで、私を押し倒した。そして、取っ組み合いの喧嘩となったの。周りのテーブルも、幾つも倒れ、日本酒の一升瓶も、何本か、落ちて割れる音がした。


 私も、負けるわけにいかないから、スケスケのワンピを引きちぎってあげたわ。その方が、あなたにお似合いね。裸が好きなんでしょ。


「お待たせ、じゃあ、この写真なんだけど・・・。」


 私は、我にかえった。そう、今のは妄想。そんなことしたら、どうなるかなって。美鈴が連れてきたこの会で、そんなことしたら、美鈴に迷惑がかかる。私は、この女性みたく、非常識じゃないもの。


「あの、一緒にきた女性のところに戻るので、では、また。どこか別の会で、またお会いできるといいですね。」


 そう言って、美鈴がいるテーブルに戻ってきた。どうして、女性って、こんな人ばかりなの。お酒に酔ってたって、初めて会う人に敬意ぐらい示すでしょ。


 そう思って、さっきの女性を見ると、私がさっきまで話していた男性に、腰をくっつけていた。本当に、気持ち悪い。そんなことは、2人だけのホテルでしてよ。ここは、多くの人がいる所なんだからさ。少し酔っていたけど、冷めてしまったわ。


 でも、その後は、ゲスな女性に邪魔されることなく、男性たちと楽しく話せたわ。みんな、私のこと可愛いって。趣味は何とか、休日な何してるのとか、どんな男性が好みなのとか、私に興味を持って、ずっと笑顔で聞いてくれた。


 私も、このお酒は、透き通った味でとっても飲みやすいとか、このスペアリブに会うとか、思ったこといっぱい話せた。そして、それを聞いて男性たちは、同感だね、すごいねって言ってくれた。


 本当に男性って、優しくて、邪念がなくて付き合いやすいわ。男性って、子供のように純粋な心で今でも生きてるって感じだもの。女性の嫉妬とか、いじめとか本当にやめてほしい。そんなドロドロした世界で生きたくない。


 なんで、こんなに女性って、汚いんだろう。多分、男性は、それぞれが上を目指して頑張ってるんだと思う。だから、邪念がなく、まっすぐなの。


 でも、女性は、相手を引きずり落とせば、上に上がれるなんて考えている。だから、ずっと底辺で争って、ゲスな人たちばかりになっちゃんだと思う。自分の力で上昇しようなんてことは女性には無理だものね。仕方がないのかしら。


 昔、聞いたんだけど、女性は表に出て戦うのが怖い、だから、成果を出せても、これは先生のおかげとか、たまたま環境が良かっただけで、私の実力じゃないんですとか謙遜するんだって。


 わかる。私も、自分に自信がないもの。でも、そんな中でも、相手の下にはなりたくないから、マウントをとってくるのよ。矛盾してるでしょ。本当に穢らわしい生き物なんだから。


 そろそろお開きだって。今日は、総じていうと、さっきの2人の女性以外は、普通の人たちで、多くの銘柄を飲めたから、楽しい会だったかな。日本酒の会といっても、料理も、とてもレベルが高かった。


 でも、いつ考えても、クズな女性が多い中で、美鈴はとってもいい子。美鈴は、決して、相手の言うとおりに動いてばかりじゃないし、でも言っていることは自然に受け入れられる。私が女友達って思えた唯一の人だもの。これからも大切にしていきたいわ。


 帰りは、美鈴と一緒に駒込駅に向かった。


「やっぱり、2人なのは最初だけだったでしょ。」

「あはは。知らない人とは話題がないと思っていたけど、日本酒の味とか、同じ趣味の人が集まると会話ができるのね。今日は、色々な人と話せて楽しかった。また、こういう会に呼んでね。」

「紗世は人気があったから、みんな喜ぶね。分かった。」


 でも、20分ぐらい歩いても駒込駅にたどり着けないの。来るときは5分ぐらいだったのに。後で確認すると、酔っ払っていたからじゃないと思うけど、逆の方向に歩いていたみたい。だから、現実世界での飲み会は面倒なのよ。


 ただ、女性は方向音痴だし、やっぱり、歩くときは男性と一緒じゃないとね。

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