第2話
あたしたち妖精は、皆それぞれに、性癖を持っている。亀よりもずっと長く生きる妖精にとって、世界はあまりにも、変化しやすい。
好きな景色は、いとも容易く変えられてしまう。自然災害や、人の手による開発、はたまた、長い年月の中でゆっくりと。
美味しいご飯が取れる森は、いずれ、人間たちの場所になる。この世界で人間だけは、あたしたちを捕まえて、変なことをしようとするから、姿を見せちゃあいけない。
全部が変わっていく。
だから、変わりようのない、心の支えが必要なのだ。
「あたしばっかり変だって、三匹とも言うけど、あんたたちだって、変じゃない」
「変?」
「変?じゃないわよ、そこのピンクいの!」
「ロベだよ」
「恋愛フェチって何??恋と愛なら、世界の全生物の全CPいけるって、クソじゃん!!」
「恋愛はさあ――妖精を、変えるんだよ。あの恋に落ちる瞬間のトゥンクッッッ!!世界からの嫌われ者が、だんだんほだされていく神秘!!あるいは隠れ潜んだ禁断の恋――ああたまんねぇなぁよっしゃあ!!」
きっと、恋愛はこの世から消えない。特に近頃の人間たちは、昔よりも多様な恋愛漫画を半端ない量、書いている。ロベはよく、本屋に立ち読みに行くらしく、本屋で働く人間の中には、数匹、仲の良いやつらもいるらしい。
なお、最近では妖精サイズの漫画を作り始めたりして、界隈では神扱いされているとか。
「次に、そこの白いの!」
「ホワァだお」
「性癖、白いもの、とかなんなん?白けりゃなんでもいいわけ?」
「うん。なんでもいいお!白は最高!二百色ある!使い古した、ぺらっぺら、ぼろっぼろのおしぼりにくるまると、興奮しすぎて気絶するお。おしぼり二百色集めるのが夢だお」
あたしには、白の違いなんてよく分からないが、ホワァにはこだわりがあるらしく、『このおしぼり――最っ高じゃねえか……。死んでもいいぜ』と言っているのをたまに見かける。
「そして、そこの青いの!ウェズ!……天気フェチって、何?晴れ曇り雨雪嵐全部好きって、チートじゃん」
「えへへ。照れちゃうにょ」
「あたしなんて、太陽が出る瞬間しか幸せじゃないのに!幸せを食いだめするしかないのに!」
「世界一、長生きできる自信あるにょ」
他の二人は、まだ分かるが、ウェズだけはちょっと異常だ。昔は毎日、大木に頭を打ちつけて騒いでいたが、今は穏やかに見える。
「わしはの、気づいたんだにょ。――激しく興奮するだけが、愛ではないんだにょ。悶え苦しむような好きにあえて、じっと耐えて、体が今にもヘドバンしそうな衝撃を、自分の内に留める。それもまた、一興なんだにょ」
穏やかそうで、一番、やばいんだにょ。
「まあ、デューモが葉磨きにはまった理由も分かるよ。恋だもんね!」
「真っ白な麗妖精だったお。また会いたいお……」
「あの妖精が来るときは、晴れたり雨が降ったりするんだにょ。普通に死ねるんだにょ」
「ロベには何回も言ってるけど恋じゃないし、ホワァは白いのが好きなら鏡見てればいいし、ウェズはちょっと何言ってるか分かんない」
一つだけ言えるのは。あたしは、あの妖精によって変えられた、一人に過ぎない、ということだ。
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