第1話 転生

ふと目が覚める、まばゆい光に当てられたのは何時ぶりだろうかと瞼を開けば何処かの椅子に座っていたらしい。

「な…んだ、ここ」

周囲を見渡す、いくつかのパーテーションで仕切られ、天井らしき所には看板と数字書かれたパネルが吊るされている白で統一されている空間に見覚えがある。

「…役所?」

最近できたばかりの役所は結構オシャレな感じの内装だったよなと朧げな記憶を頼りに考えているとふと坂本の手に何か握っている感覚に気付き広げる、そこには6桁の番号が書かれていた

「なんだ、これ…?」

紙質とサイズから見て受付表だろうか、と首を傾げていると壮大な音楽と共に何処からか声が響き渡る。

「受付番号856974、856974、転生課20番までお越しください」その番号を聞いて坂本が持っていた番号を確認する。

856974、間違いなく坂本の番号だ。

転生課?と首を傾げながらもパネルを頼りに指定された席に向かう、その道中ずっと(やっぱ役所だよなぁ…)と首を傾げていると指定された席にたどり着く、そこには美しい女性が座って待っていた。

「お待たせしました、今回坂本様の担当女神となります、リーエです」

「あ、ど、どうも…(担当女神ってなんだ…?)」

聞きなれない単語を聞いて困惑する中、リーエと名乗る女神は「死んで間もないと思いますので、何かご質問があればお答えします」と事務的な対応を取る中坂本は疑問に思っていた事をリーエに尋ねる

「ここは何処なんですか」

「ここは天界です、皆さんが想像しているような神々しい世界は旧時代の物ですね」

「て、天界…って、あの、転生課ってその、俺は…」

「坂本様は…無灯火の車に接触した事によって死亡しました。予定より早い死亡でしたので確認した所こちらで不備がありましたので第二の人生の転生手続きが認められました。」

質問された事を淡々と返し、ご愁傷様ですと軽く会釈されながら本当に死んだ事を理解し呆然としているとハッとある事に気付く。

「え、えっとつまり俺が死んだのは神の手違いで死んだってことですよね?」

「そうなりますね、厳密にいえば神の作ったシステムがエラーを起こし予期せぬタイミングで坂本様が亡くなられた事になります」

(ってことはこれは…チートスキルとかもらえるのでは…!?)

読み漁った漫画でよく見る、不慮の事故が神の手違いだった場合不憫に思った神がせめての償いとして望む能力、生まれなどを叶えてくれる事が多い。

ゲームで培われた知識や経験で無双する作品はよく見て来たからもしかして自分も…!?と期待し尋ねる。

「じゃ、じゃあその!不備があった事によるスキル付与なんてものは…」

「転生先によりますがある程度の生活に不便にならない物を付与する事が義務付けられています、こちら今回坂本様に付与するスキル一覧でございます」

そう言ってリーエは一枚の書類を机に置く、そこには役所で良く見るような書類に三つのスキル名が書かれていた。


・言語翻訳Lv1

・交渉術Lv1

・料理Lv1


「…え、これだけですか」

「はい、こちらが坂本様が転生する先で使用できるスキルでございますが…何か不明な点がございますか?」

「え、だって俺神様のミスで早死にしたってことですよね?こう…チートスキルとか、神の寵愛とか…」

「…成程、申し訳ございません説明すべき事をまだお伝えしていませんでした。改めてご説明します。」

そう言ってリーエは無地の紙にある図形を描く、その図形は分かりやすく言えば食物連鎖のあれだ。

「転生と付与スキルにはレベルがございます、こちらは不慮の事故で無くなった未成年者、もしくは合意無き異世界への召喚に巻き込まれた者達です。この方々には世界で生きる為に必要な知識やスキルの他、望む能力を1つ付与しております」

そう言ってリーエが囲んだ部分はピラミッドの頂点、数少ない場所だ。そうして淡々とリーエは次に…と説明していきそして最後のレベルについて説明を始める。

「こちらは死期が近く不遇な死を迎えた方々…つまり坂本様のレベルです。このレベルで得られるのは先程提示した三つのスキル、衣食住に必要なスキルや技術になります」

ピラミッドの最下層、食物連鎖であれば底辺の部分だ

「え、あのちなみにこのレベルで転生する人ってどのくらいいらっしゃるんですか?」と尋ねればリーエは「人間社会で例えれば下請け…ですかね?近年増えてるんですよ」と答える。

「特に高度経済成長期後になりますかね?過労死をしたり不慮の事故に巻き込まれて死期より先に亡くなる方が増えてまして、そう言う方の中にも神様の善意で特殊なスキルを付与したりするのですが本当に稀ですね。」

「…ちなみに今日で何人目なんですか?」

「今日は856974人目です、この図でいう頂点の方々はこちらには案内されず神が直接説明とスキルを付与、転生先まで同行なさるので…」

(一日で80万人以上が死んだって…闇が深すぎる…)

見つかる場所で死んだ事は運が良かったのか?と思う中リーエは「他に気になる点などございますか?なければ転生手続きに移りますが」と尋ねる。

色々聞きたいことがあったが(いや、これ以上仕事を増やしたら心象悪くなるかもしれない…)と踏みとどまってしまい、言葉を呑み込む。

「…大丈夫です」

そう答えればリーエは「かしこまりました、では契約書にサインを、記入が終わり次第転生に移ります」と告げられペンを渡され、坂本は必要事項を書き埋めていく。


最後の項目を書き終えた事を知らせるように、ペンをペン立てに刺す。

現実の面倒な役所での手続きをまさか死んでもやるとは思わなかったとため息を吐くとリーエは「お疲れ様でした、転生まで時間が掛かりますのでもう暫くお掛けにおなってお待ちください」と告げ書類を持って何処かへ消えていく。

その間にも番号は呼ばれ、混乱し当たり散らす者も居れば死んだ事に嘆く者も居た。

(…死んでも底辺か、俺らしいな)

ぼんやりと天井に視線を向ければ上は無機質な天井でなく、豪奢な絵が書かれている事に気付き、(あーそういや世界遺産の城かなんかで見た事あんな、アレ)誰が書いたんだっけ…と考えていると準備が整ったらしい

リーエが再び坂本の傍へやってきて、「準備が整いましたので二階の転生室へお越しください」と指示を受け、二階へ上がる。

「…転生先の治安って、どういう感じですか?」

何となく尋ねる、契約書には転生先の文化や歴史が簡単に記されていたが治安については書かれていなかった、リーエに尋ねれば「王都周辺にある小さな町なので治安は悪くありませんよ」と返す。

「えっと、魔法とかそう言うのはあるんですか?」

「坂本様が転生する世界には魔法がございます、ただすぐに実践出来るというわけではなく魔法を学び理解することで魔法が使える可能性がございます」

そう言うやり取りをしていれば重々しい両開きの扉があり、前に立てばゆっくりと開いていく。

「では中へどうぞ」

薄暗い部屋は死ぬ前の俺の部屋にそっくりだと嘲笑し、一歩足を踏み入れる。ゴォンと音を立てて扉が閉まり闇に包まれる。

『お待たせしました、これより転生番号856974番、坂本達也様の転生の儀を開始します。』

室内に響くアナウンス、それと同時に床に光の線が広がり何かの模様を描くように伸び、坂本の足の下まで光の線が伸びていく。

痛みや熱などない、どういう原理でこの光は出来ているのか不思議に思う中線と線同士が繋がる。

線によって描かれたのは魔法陣だ、淡い光が徐々に増していきそして暗闇だった部屋に影すら残さないと言わんばかりに光が広がり、その部屋に居た者を呑み込んでいく。

「…!」

何も反応できない、坂本はそのまま光に呑まれ、そして静寂がやってくる。

『転生番号856974番、坂本達也様の転生が完了しました、次の転生完了まであと15分お待ちください。繰り返します―』

と無機質なアナウンスが何度か流れ、転生を見届けたリーエは小さくため息を吐いた後、次の転生の準備に入った。

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