第17話 義姉さん、顔が同じなら誰でもいいって訳じゃないんですよ?


 捕物の翌日、十文字達は沙織が入院するEXVエグゼブ馬堀海岸リゾートを訪ねた。


 入院患者が来客と使う、オーシャンビューのテラスの一角。十文字、瞳、橿原、保奈美が車椅子の沙織を囲んでいる。


 膝の上のタブレットから顔を上げた橿原を見上げる沙織。

「この映像を見た限りでは、漏洩した内容は表面的なものばかりで、核心的なものは見当たりませんでした。使用している素材や、電圧制御の資料が漏れるとヤバかったのですが……。プロジェクト的にも一段落してたのが幸いしましたね」


 橿原が十文字に薄い微笑みを投げる。


「それで……、主人はこれからどうなるのですか?」

 その瞳に覚悟を宿して沙織は橿原に向き直る。


「核心的な被害が無かったことは、NSAとしてもほっとしています。沙織さんの職場復帰まで2週間、とりあえずは、転んで怪我したが、大事をとって入院というストーリーで会社の方は取り繕えたことですし、技術漏洩を理由にご主人を拘束することはありません。ですが、おふたりの生活を日々監視させて頂くことにはなります」


「それは、どのように?」

「アンドロイドを1人、ご自宅に置かせて抱きます。監視装置兼私達への連絡用端末ですが、普通にメイドとしても使って頂けますよ。幾つかタイプがあるのでお好きなのをお選びください」


「どうぞ、タブレットをご覧ください」

 保奈美がタブレットを手で指して案内する。

「ええ?! これがアンドロイド……ですか?」

 それを見た沙織は驚きの声を上げた。


 オホン、と橿原が軽く咳払いをして、話を続ける。

「それから、職場の方は、石立重工のセキュリティシステムから、おふたりの位置情報や入退室情報、資料へのアクセス状況を、NSAのシステムに連携することになっています」


「そうですか。いろいろとご配慮頂き、ありがとうございます」

 深く沙織は頭を下げる。


「それで、沙織さん」

 保奈美が沙織に畏まった顔を向ける。

「はい?」

「あのウェットロイドのことです。現時点では妊娠は確認出来ていませんが、もし妊娠していた場合どうされますか? 堕胎することも出来ますが」


 はっと息をのむ沙織。

「堕ろすなんて、考えてもいませんでした……。出来れば妊娠していて欲しいと思っています。DNA的には私達の子供ですし。むしろ、あのウェットロイドにありがとうって感じなんです。私はもう産めなくなっちゃってるから……。だから、このご縁は大事にしていきたいと思っています」

「ウェットロイドにはDNAの親を定める決まりになっています。沙織さんはあのウェットロイドの親として登録されますから、その絆はこれからも続きますわ」


「そうなんですか、嬉しいです。それなら、私達の家族同様に扱わせていただくことも可能でしょうか?」


 保奈美が橿原を振り返ると、ひとつ頷く橿原。

「出来ますよ。ただ、NSAのスタッフとしての役割を優先させて頂ききますが」

「わかりました。では、モジモジ……十文字さんの助手として使わせて頂いてもよろしいですか?」


 ちらと十文字を見た橿原は、にこやかに答える。

「もちろんです。それならば我々としても有難い」


義姉ねえさん、何を!」

「あら、照れなくてもいいじゃない。私としては、そのまま結婚して貰いたいくらいよ。DNAの親としては、ね」


 ――義姉さん、

   顔が同じなら誰でもいいって訳じゃ

   ないんですよ?


 アンドロイドの名前は詩織に決まった。



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