二章 ようこそ中央機関へ

二章 ようこそ中央機関へ 1

野営を行った日からさらに6日、一行はとある村に滞在していた。馬車を飛ばせば目的の街までたどりつくことも可能な距離だが、なにかトラブルがあると再び野営せざる負えなくなる。街が近いということは、商業団を狙った盗賊も出現しやすいということだ。危険は避けるにこしたことはない、安全な村のなかで夜を明かすことにしたのだ。


 「ここまでこられれば、明日の昼前には街にたどりつきそうだ」

 「すげー大きな街、なんだよな?」

 「そうだよ。この大陸でも1、2を争うくらいの大きさだ。隅から隅まで徒歩で移動したら3日はかかるね」

 ルディはなかなか想像ができなかった。ルディの住んでいた街は、あのあたりでは1番大きな街だったが、2時間もあれば大通りを1周できた。街の外も、馬車で半日くらいまでの距離しか移動したことがない。いままで任務で移動した広さよりも今後滞在する街の方が大きいかもしれないと思った。

 「そんなに広いなら、街中をどうやって移動するんだろう?」

 クルトが疑問を投げかけた。ルディも同じ疑問を持っていた。3日かかる距離を歩いて移動するとは思えないが、他の手段も思いつかない。特殊な装置でもあるのだろうか?

 「そりゃ、馬車で移動するんだよ。個人で馬車を持っているのは金持ちくらいだが、乗り合いの馬車があってな、一般市民の移動手段も馬車なんだよ」

 商人が当然、といったふうに答えた。ルディの住んでいた街では、一般市民が馬車に乗るということはまずなかった。移動が絶えない商人たちでさえ、街の中では乗り回さない。そもそも、大通りですら馬車がすれ違える場所は限られていた。馬車が行きかう通りは想像しがたいが、きっと道路そのものの大きさから違うのだろう。


 「中央機関もその街の中にあるんだっけ?」

 「そうだよ。街の中央にあってね。すごく大きな建物だよ。見たらきっとびっくりするだろう」

 外観がキレイだから、観光名所にもなっているんだ、と商人が教えてくれた。2人が商人に中央機関のことを聞いていると、村長と話し終えた魔導士が寄ってきた。ルディたちの話が聞こえたようだ。

 「中央機関のことなら私たちに聞いてくれ。なんせ、住処だからね」

 「大きいって聞きましたけど、何人くらい住んでいるんですか?」

 ルディが質問する。大陸中から人が集まってくるのだ。きっとすごい人数が所属しているのだろう。

 「うーん。正式に所属しているのは100人くらいかな。そのうち任務で出かけているのが2/3くらいだから、実際にいるのはせいぜい30人くらいだろうか」

 ルディが思っていたよりもずっと少ない。街の魔導士ですら30人はいたから、中央機関には500人くらいいると思っていた。クルトも予想外だったのか驚いたように目を丸くしている。

 「以外かい?訓練生はもうちょっと多いし、随時人はふえてるんだけど……。大変な仕事だから離脱する人数も多くてね、総数はなかなか増えないんだ」

 以前言っていた、万年人手不足、というのも嘘ではなかったらしい。才能を見込まれた人でもやっていけないような現場で、はたして自身が役に立つのかとルディは不安になった。隣のクルトも不安そうな顔をしている。


 「不安にさせちゃったかな?でも、やりがいはあるし、悪い仕事じゃないよ。何より、ただで大陸中を旅行できるのはいいね。地方ごとに文化も違うからおもろいよ」

 不安を隠せない2人をみて、励ますように魔導士はいう。中央機関に所属すると、年間の半分くらいは移動しながらの勤務になるそうだ。その地方でしか手に入らない食べ物や独自の魔道具なんかを集めることを楽しみとしている魔導士もいるらしい。

 ルディとしては、各地方の伝統料理というものにも興味がある。なるほど、実力さえ伴えば悪い仕事ではなさそだ。


 その日の夜、ルディとクルトは中央機関についてスピカにきいてみた。もちろん、商人や村人にはバレないようにこっそりだ。

「うーん、20年近く離れていたから今のことはわからにゃいけど、以前から人手不足は深刻だったにゃ」

「でも、あの中央機関だろ、憧れてやってくる奴らはたくさんいるんじゃないか?」

 大陸中央から離れたルディたちのいた街にまで、中央機関の噂は届いていた。いつか声がかからないか憧れている魔導士も多い。声をかければいくらでも人は集まりそうなものだ。

「確かに訓練生は多いし、正式に任命される魔導士の数もそこそこいるにゃ。ただ、新人の定着率が著しく悪かったにゃ」

「そんなに厳しいの?」

 クルトが不安そうにきく。スピカは、そうじゃないにゃ、と明るくいった。

「確かに実力は求められるけど、厳しさでいったら、その辺の魔導士機関と変わらないにゃ。街でやっていけていたなら、まず問題ないにゃ」

 では、なぜ定着率が悪いのだろうか?街の魔導士機関でも、合わなくて辞める人は何人かいたが、8割ほどは定着していた。ルディとクルトは訳が分からず首をかしげた。

「定着率が悪い理由ははっきりしてるんだけど……。不安にさせるのもあれだにゃ、今は知らない方がいいにゃ」

 実際に経験すれば必ずわかるにゃ、というとスピカは散歩のため寝床を出ていった。

 あえて言わないというのはスピカの優しさだろうが、分からないのもそれはそれで不安になる。ルディはクルトと顔を見合わせて苦笑すると、翌日に備えて就寝した。

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