二章 訓練 2

 ルディは食堂に到着すると、食事を受け取った。周りを見渡して空いている席を探すと、ルディに気づいたクルトとニコラスが手を振っていた。先に到着していたらしい。ルディは机に向かい、クルトたちが確保していてくれた席に座った。

 「おつかれ、ルディ。訓練はどうだった?」

 スプーンを咥えながらニコラスが尋ねる。

 「まあまあかな。なんとか最後までついていけたよ。ニコラスは?」

 「散々だったよ。今日はロルフ先輩とだったんだけど、先輩、容赦ないんだもんな。びしょびしょになっちまった」

 着替えを済ませたのか服は濡れていなかったが、よく見るとニコラスの髪が湿っていた。

 「おつかれさん。クルトはどうだった?」

 「僕もまずまずかな。途中攻撃することに夢中になって、隅に追い詰められてひやひやしたよ」

 「すごいな、クルト。オレなんか避けるだけで精一杯だよ」

 ルディがクルトを称えると、クルトは嬉しそうにほほえんだ。3人で談笑していると、遠くにヤンの姿が見えた。ルディは手を上げて場所を知らせる。

 「みんな、おつかれさま」

 ルディの合図に気づいたヤンがやってきた。こころなしか、疲れた様子である。

 「おつかれ、ヤン。どうした、遅かったな」

 「いや、最後に時間が余ったから、もう一試合っていわれて……」

 「おう。そりゃあ災難だったな」

 ヤンが疲れている理由がわかり、ねぎらうようにルディがいう。

 4人は束の間の休息を楽しみ、午後の訓練に備えた。


 食堂の入り口でクルトたちと別れたルディは図書室に向かった。次の訓練まで1時間ほどあるので自習するのだ。

 図書室入り口のカウンターで借りていた本を返却し、新しい本を探して本棚に向かった。養成所の図書室は決して大きくないが、基礎魔法から中級魔法までの本は充実していた。炎・水・風の基本属性魔法のみならず、使用者が少ない白・黒魔法の本も中級までカバーされている。白魔法を得意とするルディもお世話になっていた。

 ルディ白魔法の本を所蔵している棚から中級者向けの一冊を取り出し、自習用の机に向かった。ノートと鉛筆を用意し、本を開く。時折メモを取りながら、ルディは本を読みこんでいった。

 ルディは徹底的に理論を理解することで魔法を習得するタイプだ。複数の本を読みこみ、魔法が展開されるための理論を覚えて、頭の中でそれを再現するとたいていの魔法は一度で使えるようになる。理論を覚えるのに手間と時間はかかるが、魔法の成功率は高かった。

 一方クルトは体で覚えるタイプなようで、最低限の原理を覚えた後は繰り返し練習して魔法を習得していた。きっと今も広場で魔法の練習をしているに違いない。ルディは同じく自主訓練しているであろうクルトのことを考えつつも、本を読みこんでいった。


 午後の訓練である実技訓練の時間が迫ってきたため、ルディは自習を中断し図書館を後にした。訓練は午前と同じく広場で行われる。広場に向かったルディは先に到着していたクルトを見つけ声をかけた。

 「よう。クルト。調子はどうだ?」

 「いい感じだよ。ルイは勉強進んだ?」

 「おう。新しい魔法の習得に入ったとこ。難しくて、まだ時間はかかりそう」

 「ルイはすごいね。僕は使ってる魔法の原理もあいまいなのに」

 クルトがルディをほめる。しかし、ルディからすると原理がわからないのに魔法を使える方が驚きであった。

 実技訓練は試合形式で行われる。前衛と後衛でペアを組み、どちらかが一撃食らったら試合終了だ。魔力量を補う魔石の使用は、それぞれ3個までみとめられている。訓練後のケガの手当も訓練の一環だった。ルディのバディはクルトだ。前衛がクルトで、後衛がルディである。幼馴染であるクルトとはうまく連携がとれ、勝率もなかなかなものだった。

 この日の対戦相手は同僚のヘルマンとダニエルのペアだった。彼らもルディペアと同じく、近々実践デビューを認められている手練れである。

 「よろしく、ヘルマン、ダニエル」

 「よろしく、ルディ、クルト」

 「ルディとはさっきぶりだな。今度は負けないぜ」

 挨拶をかわし、左右に分かれる。前衛であるクルトとダニエルは少し距離をとって中央に移動した。

 「それでは、はじめ」

 教官の合図で試合が始まる。

 先に仕掛けたのはクルトだった。剣に風をまとわせ、そのままダニエルに向かって振り下ろす。ダニエルは後ろにステップを踏むことでそれを回避した。クルトは勢いのまま踏み込み、攻撃を続ける。しかし、その攻撃はヘルマンが展開した結界に阻まれた。

 「オレがいるのを忘れるなよ」

 ルディはヘルマンめがけて魔法を放った。3つの火の玉がヘルマンを襲う。ヘルマンは横に転がりそれをよけた。ヘルマンも負けじと攻撃を返す。襲い来る水球をルディは結界で防いだ。

 「やるね。クルト」

 「そちらこそ」

 ルディとヘルマンが魔法をかけあっている最中もクルトとダニエルの攻防は続いていた。2人もルディたちの魔法をうまく避けながら戦っている。見たところクルトが少し押されているようだった。

 「ルイ」

 「おう」

 クルトの呼びかけに応じ、ルディはクルトに身体強化魔法をかけた。クルトの動きが一段と速く・強くなる。クルトがダニエルに一撃叩き込むと、張られていた結界にひびが入った。

 「げ、それ反則だろ」

 ダニエルがいやそうにつぶやく。

 「禁止されていないから、反則じゃないですよー」

 おどけてるルディの隙を狙うようにヘルマンの水球が飛んできたが、ルディはそれを横によけた。

 身体強化魔法は強力な白魔法だが、消費する魔力量も多い。使用できる魔石数が限られる今、あまり長い時間は使っていられない。

 「クルト、サポートするからとっとと決めちゃって。あんまもたない」

 「了解」

 ルディは砂を風で巻き上げ、ヘルマンの視界を遮った。それと同時にクルトがダニエルに切り込んだ。ガラスが割れるような音を立てて結界が割れる。ヘルマンは視界が悪く新たに結界を張り直すことができなかった。ダニエルは2撃目に備えて剣を構えた。しかし、ダニエルの予想に反してクルトはそのまま上に飛び上がった。その時、ダニエルの足を真空の刃が切り裂いた。クルトの真後ろからルディが風魔法を放ったのだ。

 「そこまで」

 教官の号令がかかり、試合は終了した。

 「ルイ、やったね」

 「おう。さすがクルトだな。一撃で結界やぶるなんて」

 クルトが嬉しそうにルディの元にやってきた。ルディも手を上げてこたえる。ダニエルとヘルマンも互いをねぎらっているようだった。

 「ダニエル、傷みせて」

 クルトとの会話もそこそこに、ルディはダニエルたちに声をかける。ケガの治療を済ませるまでが訓練だ。

 「おねがいするよ、ルディ」

 ダニエルがルディに足の傷を見せた。ルディが手をかざすと傷はたちまちふさがった。

 「いいなぁ、ルディ。俺も白魔法使ってみたい」

 「その分基本属性魔法はお前のほうが上だろ」

 うらやましそうにいうヘルマンにルディがかえした。


 一日の訓練を終え、ルディたちは寮に戻った。夕食を済ませ、シャワーを浴びた。クルトに挨拶をすると、ルディは自室に戻った。次の日も朝が早い。習慣である読書を早めに切り上げ、ルディは眠りについた。

 

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