夜のブランコ

ツヨシ

第1話

「ちょっと見せたいものがあるんだが」

ある日栄田さんが突然そう言った。

何の前触れもなく。

栄田さんは最近うちの会社に来た中途採用の人だ。

後輩だが年は俺よりは随分上だ。

年齢と先輩後輩と言う二つの要素から、お互いにため口で話しているし、実際会社でも仲がいい。

栄田さんは郊外の小さな家を借りて住んでいる。

「都合のいいときでいいから、夜にうちに来てくれないか」

結局明日の夜に行くことにした。

栄田さんがなにを見せたいと言うのかわからないままに。


「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」

栄田さんはいつも以上に笑顔だ。

よっぽど俺に見せたいものがあるのだろう。

「見せたいものとは、なんだい」

「すぐそこだから。それじゃあ、さっそく行きますかね」

栄田さんは家を出て歩き出す。

俺は人の家を訪ねてきたと言うのに、その家に上がらないままだ。

そのままついて行く。

「そこだ」

栄田さんが指さす先には小さな児童公園があった。

栄田さんの家のすぐ近くだ。

正確には斜め前になる。

「あのブランコを見てくれ」

公園は道の街灯で照らされていた。

公園に向けての明かりではないためそれほど明るくはないが、ブランコはちゃんと見えた。

ブランコは二つあった。

見ていると、風もないのにブランコの一つが揺れだした。

俺から見て左側のブランコだ。

最初はゆっくりだったが、どんどん激しくなっていく。

そのうちに、とてもじゃないが人が乗っていられないほどに上下左右に大きく速く揺れ始めた。

それが続く。

このままではブランコが壊れるんじゃないかと思いながら俺が黙って見ていると、ブランコの揺れが徐々に小さくなり、やがて止まった。

もう動かない。

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