第8話 雪本雪菜、5ちゃんねらーデビュー。

 朝起きて、自分の部屋からリビングへ行くと、母親は台所で朝食を作っていた。


「あら 雪菜、おはよう。今日はどうしたの?早起きね」


「おはよぉー。うーん、ちょっとね」


「どうしたの?何かあった?」


「い、いや、別に?」


「あらそう?」


 並木くんのことを、道だとわかった翌日、私は早起きをしていた。


「ふぁあ…」


 思わずあくびが出る。


 あまり、熟睡は出来ていないのだろう。


 私がこんなに早く起きることは滅多になく、いつもギリギリに起きて、ギリギリに登校するので、母親は驚きながら朝食を作るのに戻っていた。


 私は朝食を食べ終え、リュックを背負い、玄関のドアを開けて、外の世界に出た。


 高校は近く、歩きでも行ける距離だ。私は、昨日、夜更けに降った雨に濡れた道を歩いている。普段なら、なんとも思わない道は、暖かい太陽の陽射しに当てられ、光り輝いているように見える。水たまりや植えられた街路樹の葉に着いている水滴が真珠のように、光り輝く純粋な子供の目のように。


 私は、背中を暖かい陽射しに照らされながら、登校した。


 彼はいつも通りだった。


 いつも通り、あらゆることに興味無さそうに、生きるのが面倒くさそうに授業を受けていた。


 そして、RISEで、屋上へ呼び出された。


 彼は私に今日も下らない質問やら話をして、私は適当に受け流したり、口ごもったりして、その日は終わった。


 私は、目の前に居る並木くんが、道であることを意識して、そして、好きになってしまったことを意識してしまったが、それを悟られないように、いつも通りの態度を見せることに精一杯になっていた。


 今日のように、この想いを抱えたまま、彼と話し、もどかしいやり取りをしなければならないのは嫌だった。


 でも、彼にそんなことを言っても軽く流されそうだし、第一、告白する自信なんてない。


 彼がもし、仮に私を良いと思っていたとしても、好きだと思っていたとしても、それは、星霜 冷である私なのだ。


 私は、もう乾いて、乾燥した硬い皮膚のような道を見つめながら、後ろ向きな思考を巡らせ歩いていた。


 こんなんだから、このことを相談することも、する相手もいない……


 手軽に、簡単にそんなことを話せる機会があれば……


 いや、あるかもしれない。


 私は、家へ向かって駆け出した。


 家へ帰り、すぐ自室に入ってパソコンを開いた。


 そうだ、ネット掲示板だ。そこでなら私の悩みを話せるかもしれないと思った。


 所謂、5ちゃんねるというやつである。


 《【悲報】現役JK 、複雑な状況と元の性格から告れず、どうしていいか分からない件》


 スレタイはこんな感じでいいかな。


 とりあえず、悩みを書き込もう。


 1.現役配信者JK(高一):2024年4月30日(火)16:50:25 ID: c4yzrVdM0


『私は配信者で、彼は私の正体を知っていて、その配信者は好きだと言ってくれているのですが、、私のことは興味無さそうで、私もネガティブで心を開かない性格で、どうすればいいですか』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さぁ、出来た。ここからどんな書き込みがされるのか、私の心は不安とワクワクが両立していた。


 2.名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:54:36 ID: nbSz6VdM7


 >>1


『ハイハイネカマ乙』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜


 3.名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:55:02 ID: xTb3nig8M


 >>1


『で、出た~w失った青春を取り戻したいネカマおじさん!


 こんちゃーす!w』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 4.名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:55:02 ID: jfnI4k3Cg


『おじさんさぁ……現実見よ?』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 5.現役配信者JK(高一) :2024年4月30日(火)16:55:07 ID: c4yzrVdM0


 >>4


『おじさんじゃありません!現実ですこれは!!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜


 6.名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:55:45 ID: jfnI4k3Cg


 >>5


『即レス草』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 


 7. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:56:22 ID: nbSz6VdM7


『おじさん、引きこもって現実逃避してこんなスレ立てないで働きなよ』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜 


 8. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:56:48 ID: xTb3nig8M


『【悲報】ネカマこどおじ、JKのフリをする。』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜

はぁ……本当のことなのに、、、、みんな、なかなか信じてくれないな。


 9. 現役配信者JK(高一) :2024年4月30日(火)16:57:09 ID: c4yzrVdM0


『信じてください。ほんとに悩んでるんです。軽くあしらわれそうで怖くて、どう想いを伝えればいいんでしょう』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 10.サイバー貴公子Lv99 :2024年4月30日(火)16:58:55 ID: 5Md1zHfuQ


『で、心の優しい俺は聞いてあげるけどさ、もっと具体的な情報が欲しいな。なんで君は惚れたんだ?まずはそこからだ。』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 11. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:59:02 ID: xTb3nig8M


 >>10サイバー貴公子キタ━(゚∀゚)━!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 12. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:59:35 ID: jfnI4k3Cg


 >>10


『またお前か』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 13. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)16:59:56 ID: nbSz6VdM7


『貴公子、お前どこにでもいるよな。でも、まさかお前がどしたん?話聞こか系だったとはな』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 14. サイバー貴公子Lv99 :2024年4月30日(火)17:01:02 ID: 5Md1zHfuQ


『俺は、下心で聞いてるわけでない。履き違えるな、下衆共。というか、貴様らこそ、おじさん扱いしながら、内心、JKだったらいいな?という下心があるんじゃないか?』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 15. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:02:12 ID: xTb3nig8M


 >>14


『ギ、ギクッΣ(゚ロ゚;)』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


16. サイバー貴公子Lv99 :2024年4月30日(火)17:02:42 ID: 5Md1zHfuQ


『フッやはり図星か』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 17. 現役配信者JK(高一) :2024年4月30日(火)17:03:09 ID: c4yzrVdM0


『彼は、私の古参のリスナーで、私が配信を辞めそうになった時、コメントで何度も励ましてくれて……そして、それに救われたんです。そのリスナーが最近彼だと知って、私は好きになりました。』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 18. サイバー貴公子Lv99 :2024年4月30日(火)17:04:29 ID: 5Md1zHfuQ


『そんな彼と、高校で出会ったのか。まるで運命だな。やはり運命は収束する。その一期一会を大事にしないとな。君は自信が無いようだが、彼にとっても君は特別な存在だろうよ、だから自信をもってそのままそれを伝えるんだ』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 19. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:05:45 ID: jfnI4k3Cg


 >>18


『流石はLv99、言うことが違うぜ』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 20. 現役配信者JK(高一) :2024年4月30日(火)17:06:09 ID: c4yzrVdM0


『でも、私、自信ありません……根っから、自分の心を表に出すのが、人に心を開くのが、苦手なんです。直接面と向かって、こんなことを言うなんて……怖くて出来ません。何か違う方法は、ないでしょうか?』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 21. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:06:32 ID: xTb3nig8M


 >>20


『(ノ∀`)アチャーそれがダメだ~、恋は当たって砕けろだよぉ~』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 22. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:06:43 ID: jfnI4k3Cg


 >>21


『砕けちゃダメだろwwwww』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 23. サイバー貴公子Lv99 :2024年4月30日(火)17:07:29 ID: 5Md1zHfuQ


 >>20


『ふむ、ならば、さりげなく伝える方法を考えよう。そうだな……例えば配信でさりげなく思いを伝えるのはどうだ?やり方は思いつかないが……』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 24. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火) ID: 17:07:51 nbSz6VdM7


 >>23


『そこが肝心だろ貴公子。てか、まだこのネカマの相談続いてたのか』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 配信で、想いを伝える。ASMRのシュチュエーションボイスなら、、、と私は思った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 25. 現役配信者JK(高一) :2024年4月30日(火)17:08:05 ID: c4yzrVdM0


『私、ASMR配信をやってるんです。そのシュチュエーションボイスで、想いを間接的に伝えることができるかもしれません』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 26. サイバー貴公子Lv99 :2024年4月30日(火)17:07:29 ID: 5Md1zHfuQ


 >>25


『なるほどな。確かにシュチュエーションボイスなら告白シーンなどもあるだろうしな。そこで、君の好きな彼の名前を使えばいいんだ。それで行こう』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 27. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:07:45 ID: xTb3nig8M


 >>26


『おおッ、それいいネ!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 28. サイバー貴公子Lv99 :2024年4月30日(火)17:08:02 ID: 5Md1zHfuQ


『題して、<ラブラブピュアハートASMR告白大作戦>だ!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 29. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:08:26 ID: nbSz6VdM7


 >>28


『ネーミングセンスだっさ。なっが。これだから貴公子は』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 30. 現役配信者JK(高一) :2024年4月30日(火)17:09:05 ID: c4yzrVdM0


『分かりました。<ラブラブピュアハートASMR告白大作戦>やってみます。頑張ります!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 31.名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:09:22 ID: jfnI4k3Cg


 >>30


『頑張れー、まぁ彼も両思いっぽいし、行けるっしょ』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 32. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:09:32 ID: xTb3nig8M


 >>30


『p(´∇`)q ファイトォ~(`・ω・)bグッ!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 33. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:09:46 ID: nbSz6VdM7


 >>30


『どうせ嘘松でネカマこどおじの釣りスレだろうけど、せいぜい頑張れよ』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 34. サイバー貴公子Lv99 :2024年4月30日(火)17:10:02 ID: 5Md1zHfuQ


 >>30


『健闘を祈る。があと1つ。告白するのはいいが、今後の君たちのGoodENDを考えて、君はもっと本性を出していかないとダメだ。それを怖がって居ては前に進めない。いつかは、本性を見せないといけない。それをこれから克服していこう。これが俺からの最後のアドバイスだ。大丈夫だ。俺たちがそばにいる。それを忘れるな』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 いつかは本性を見せなければいけない。貴公子さんの言葉を私は胸に刻んだ。


 35. 名無しの権兵衛:2024年4月30日(火)17:10:32 ID: xTb3nig8M


 >>34


『かっけええええええええ!!!!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 36.現役配信者JK(高一) :2024年4月30日(火)17:11:05 ID: c4yzrVdM0


 >>34


『本当にありがとうございました貴公子さん。みなさん。私、頑張ります』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜


 ここでスレは終わった。


 5ちゃんねらー、特に、貴公子さんのアドバイスのおかげで、私は頑張ろう、勇気を出して一歩踏み出して行動しよう思えた。


 こうして、私の<ラブラブピュアハートASMR告白大作戦>は始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る