第3話 え? 魔法少女ってそんな感じなんだ

 カードはポイントカードと同じくらいの大きさで全体的に青く金色のラインで不思議な図形が描かれている。文字はない。材質もプラスチックなのか金属なのかよく分からない。しかもかなり軽い。地球のものではないのかも。


「これで変身すんの?」

「そう。必要な時はカードが反応するから持っているだけでいい」

「うわあああ、シャベッタァァァ!」


 私は目の前の白猫が突然流暢な日本語を口にした事にビックリして、思わず大声を上げてしまう。考えてみれば、魔法少女のマスコットなら喋るのも当然だよね。

 ミルミは私の派手めなリアクションを目の当たりにして、すぐに気を悪くした。


「失礼だな。喋って当然だろう。ボクはこう見えて聖霊なんだぞ」

「ごめんなさい。あの……カード、有難うございます」

「変身する時はカードをかざすんだ。他にも、カードのデータを読み込ませればスマホのアプリでも変身出来る」

「へええ」


 私は、改めてもらったカードを眺める。変身する時はサッカーの審判みたいな感じでするのかな。で、咄嗟にカードを出せないなら、スマホでも代用出来ると。でもカードの方がスマートだし、アプリにはしなくていいかな。

 私が納得してうんうんとうなずいていると、すっかり機嫌を直したミルミがニコっと笑う。


「好きな方で変身してね」

「ど、ども……」

「魔法少女で分からない事があったら、あたしかコイツに聞いてよ」

「うん、有難う。頑張るね」


 こうして私はこの街を守る2人目の魔法少女になった。魔法少女の仕事は、街を襲うゴーレムを倒す事。この敵は次元の裂け目のゲートから不定期に現れる。ゲートそのものもどこで出現するか分からないため、魔法少女達は常に臨戦態勢でいる必要があるらしい。


「それじゃあ、今まで1人で大変だったでしょ」

「そこよ。お陰で中間は散々だった……仲間が出来て嬉しい」

「あぁ……。やっぱ魔法少女になるんじゃなかったかも。今からでもキャンセルいい?」

「キャンセル不可でーす! 一緒に泥舟に沈んでいきましょー!」


 まるむが笑ったので私も一緒に笑い合う。こうなったら毒を食らわば皿までだ。しっかり魔法少女を楽しんでやろう。彼女が出来るなら私にも出来るはず。素質だってきっとあるに違いないんだもんね。


 魔法少女になる事で開放された私は、ミルミからマニュアル的なものを渡されて帰宅する。自室に入った私は部屋着に着替えると、ベッドに寝っ転がってすぐにその最初のページを開いた。

 本はご丁寧に日本語で書かれていて、私にも普通に読める。なので、ファンタジー小説を読むような感じで読み進める事が出来た。


 小冊子によると、舞鷹市を襲っているのは魔導帝国アルマと言うところらしい。そして、アルマが使う魔導兵器――あのロボットみたいなのがゴーレム。コイツがある程度街を破壊して、その後にリアル兵士が押し寄せて制圧していくのがアルマの定番の戦略らしい。

 そして、このアルマの暴虐を長年止めてきたのが神聖魔法国ルーシルと言う国。元々はアルマの侵略対象にされた国で、そこからの因縁でアルマの邪魔をし続けているみたい。


 魔法少女って言うのは、ルーシルのエージェントが現地の魔法の才能のある人物に力を与えてなるもの。異世界ではルーシルが直接手を出す事が出来ないため、間接的に力を貸す形になっているのだとか。で、そのエージェントの1人があの『ミルミ』ってう猫の姿の聖霊なのね。ふむふむ。

 最後まで読むと、途中から手書きの文字が現れた。どうやらまるむが個人的に加筆しているようだ。その部分が面白かったので、私は思わず音読する。


「舞鷹市担当のエージェントに選ばれた勇敢な少女の名は熊野まるむ。彼女は『魔法少女まるむ』と名乗り、日夜街の平和を守っている……。実名で活動してたんだ。まぁ自称だろうし、その名前は広まってないよ、先輩。まぁ身バレするから広まらない方がいいのか」


 最後まで読めたので小冊子を閉じ、思いっきり背伸びをする。明日から魔法少女かあ……。全然実感湧かないや。怪我とかしないといいな。

 本来は今の内に変身したり、魔法の練習をした方がいいのだろうけど、いつ部屋に家族が入ってくるか分からんし、そうなったら恥ずかしいのでそう言うのはしない事にした。外に出てそう言う事するのはもっと恥ずかしいし。


「バトルが楽勝なら、ぶっつけ本番でも問題ないでしょ」


 私はそうひとりごちると、気持ちを切り替えていつも通りの夜のルーティーンを淡々とこなすのだった。

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